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第1.5章~それぞれの想いと、新たな道~
第17話~閑話3~藍の想い/避難
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「はあ」
「またため息吐いてる」
「あ、うそ!? 無意識だった……はあ」
舞花《まいはな》藍《あお》は柳と揉めた一件から、ずっと何かを想っていた。
カッコよく助けた日向《ひなた》結城《ゆうき》に惚れるというならば筋が通っている。 しかし彼女の想いの行く先は斜めにズレていた。
「会ったこともないのに、何がそんなにいいのかねー」
「こんな世の中で、大事な武器をぽんっと渡す豪胆さ! しかも初対面だよ?」
「……いやいや、実際に助けたのは俺じゃん」
確かに元をたどれば、藍を迅速に助けることができたのは蟹男が貸してくれた剣のおかげだ。 それについては感謝しているが、なんだか自分の功績を全部持っていかれたみたいで結城は面白くない。
「でも女連れだったぞ」
「いいの! 好きは好きでも、推しだから! 推しの幸せが私の幸せだもん」
「なんだよ、それ」
少し意地悪なことを言ったかもと、罪悪感を感じる結城だったが藍は全く気にした様子はない。 傷つけなくて良かった、と結城は安心するが結城にはどう見ても藍の表情が、態度が、恋する乙女にしか見えなかった。
(借りた剣を返す時、会ったらどうなるんだろ)
蟹男は二人の女の子を連れている。
実際にその光景を目の当たりにして、藍はひどく傷つくのだろうか。
彼女が傷つけば、結城だって悲しいはずで、悲しむべきなのにーー
ーーなんだか安心してしまっている、そんな自分の感情を結城は嫌悪した。
***
アリスらと初めて会ってから一月ほど経った。
彼女らとは時々顔を合わせてはご飯を食べたり、情報交換をするくらいの交流をしていた。
結城と藍の問題をきっかけに色々あって、集団生活の維持が困難になったため崩壊する前に避難区を目指すことにしたらしい。
そして蟹男はアリスにお願いされて、彼女らの見送りというか護衛のような立ち位置で現在共に避難区を目指している。
「ようやくここまで来たのね」
夜、アーケード商店街。
通りの真ん中で火に薪をくべながら、アリスは呟いた。
「ねえ、あなたも一緒に来ない?」
「いや、俺はここで暮らすよ。 不便はないし、そっちは不自由そうだ」
蟹男は気楽に笑って答えた。
アリスは仕方なさそうに笑って「そう」と、興味なさげに言った。
「じゃあもしも徴兵制のようなものがなくなって、以前に限りなく近い世の中になったら?」
「それなら避難区も悪くないかもね」
蟹男にとって暮らす場所にこだわりはないのだ。 誰かに縛られたり、人と関わることで発生するであろう様々な面倒ごとが嫌なだけ。
特別人嫌いというわけではない。
「どうして俺を誘ってくれるんだ?」
一緒に行こう、この避難区を目指す旅の道中で何度も掛けられた言葉だった。
初めはアリスの優しさで、蟹男を心配して言っていると思っていた。 しかしそれにしてはしつこい。
「どうしてって……いくら山河さんが生きていく術があるとはいっても危険であることには変わりないし一緒にいてくれたら頼りになるしそれにそれに」
「一旦落ち着こうか? ね?」
やたら早口で喋ったアリスは俯いて黙ってしまった。
「心配してくれるのはありがたいけど、俺は危険も了承の上でそれでも」
「分かったわよ……」
落ち込んだ様子で寝ると言って焚火から離れるアリスを、蟹男は訳が分からないけれどなんとなく申し訳ない気持ちで見送るのだった。
「なんだったんだ……?」
蟹男はマルトエスに言われた勉強をまだしていない。
「見えてきた!?」
遠くにバリケードの張られた街が見えてきた。
その街の周りは不思議なほど建物が何もない。
まるで見通しを良くするために壊したか、はたまたドラゴンのようなモンスターの攻撃によって焼失したのかは分からない。
とにかく蟹男たちは避難区にたどり着いたのだ。 疲労していたが、自然と早足になって集団は街へと向かった。
ーーbiiiiiiiibiiiiiiiiiiuuuuuuuuuuuuuu
近づくと大音量の警報が流れ、蟹男たちは足を止めた。
『止まれ』
『武器を捨てろ。 両手を上げて、地面に這いつくばれ』
まるで犯罪者のような扱いだ。
「まずい展開になった」
「ごめんなさい。 もう少し手前で別れるべきだったわ」
アリスが伏せながら申し訳なさそうに言った。
バリケードが開き、武装した数人が向かってくる。
「いや、大丈夫」
「どういうこと?」
「マルトエス、ミクロ帰ろう」
「はい」
「お腹すいたー」
二人に合図して蟹男はスキルを使用した。
「それじゃあ、俺たちはここまでだ。 またどこかで会えるといいな」
「え、ちょっとまーー」
アリスの言葉の途中で、蟹男はマーケットに転移した。
「じゃあ、拠点に戻ってご飯にしようか」
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