17 / 20
第1.5章~それぞれの想いと、新たな道~
第17話~閑話3~藍の想い/避難
しおりを挟む***
「はあ」
「またため息吐いてる」
「あ、うそ!? 無意識だった……はあ」
舞花《まいはな》藍《あお》は柳と揉めた一件から、ずっと何かを想っていた。
カッコよく助けた日向《ひなた》結城《ゆうき》に惚れるというならば筋が通っている。 しかし彼女の想いの行く先は斜めにズレていた。
「会ったこともないのに、何がそんなにいいのかねー」
「こんな世の中で、大事な武器をぽんっと渡す豪胆さ! しかも初対面だよ?」
「……いやいや、実際に助けたのは俺じゃん」
確かに元をたどれば、藍を迅速に助けることができたのは蟹男が貸してくれた剣のおかげだ。 それについては感謝しているが、なんだか自分の功績を全部持っていかれたみたいで結城は面白くない。
「でも女連れだったぞ」
「いいの! 好きは好きでも、推しだから! 推しの幸せが私の幸せだもん」
「なんだよ、それ」
少し意地悪なことを言ったかもと、罪悪感を感じる結城だったが藍は全く気にした様子はない。 傷つけなくて良かった、と結城は安心するが結城にはどう見ても藍の表情が、態度が、恋する乙女にしか見えなかった。
(借りた剣を返す時、会ったらどうなるんだろ)
蟹男は二人の女の子を連れている。
実際にその光景を目の当たりにして、藍はひどく傷つくのだろうか。
彼女が傷つけば、結城だって悲しいはずで、悲しむべきなのにーー
ーーなんだか安心してしまっている、そんな自分の感情を結城は嫌悪した。
***
アリスらと初めて会ってから一月ほど経った。
彼女らとは時々顔を合わせてはご飯を食べたり、情報交換をするくらいの交流をしていた。
結城と藍の問題をきっかけに色々あって、集団生活の維持が困難になったため崩壊する前に避難区を目指すことにしたらしい。
そして蟹男はアリスにお願いされて、彼女らの見送りというか護衛のような立ち位置で現在共に避難区を目指している。
「ようやくここまで来たのね」
夜、アーケード商店街。
通りの真ん中で火に薪をくべながら、アリスは呟いた。
「ねえ、あなたも一緒に来ない?」
「いや、俺はここで暮らすよ。 不便はないし、そっちは不自由そうだ」
蟹男は気楽に笑って答えた。
アリスは仕方なさそうに笑って「そう」と、興味なさげに言った。
「じゃあもしも徴兵制のようなものがなくなって、以前に限りなく近い世の中になったら?」
「それなら避難区も悪くないかもね」
蟹男にとって暮らす場所にこだわりはないのだ。 誰かに縛られたり、人と関わることで発生するであろう様々な面倒ごとが嫌なだけ。
特別人嫌いというわけではない。
「どうして俺を誘ってくれるんだ?」
一緒に行こう、この避難区を目指す旅の道中で何度も掛けられた言葉だった。
初めはアリスの優しさで、蟹男を心配して言っていると思っていた。 しかしそれにしてはしつこい。
「どうしてって……いくら山河さんが生きていく術があるとはいっても危険であることには変わりないし一緒にいてくれたら頼りになるしそれにそれに」
「一旦落ち着こうか? ね?」
やたら早口で喋ったアリスは俯いて黙ってしまった。
「心配してくれるのはありがたいけど、俺は危険も了承の上でそれでも」
「分かったわよ……」
落ち込んだ様子で寝ると言って焚火から離れるアリスを、蟹男は訳が分からないけれどなんとなく申し訳ない気持ちで見送るのだった。
「なんだったんだ……?」
蟹男はマルトエスに言われた勉強をまだしていない。
「見えてきた!?」
遠くにバリケードの張られた街が見えてきた。
その街の周りは不思議なほど建物が何もない。
まるで見通しを良くするために壊したか、はたまたドラゴンのようなモンスターの攻撃によって焼失したのかは分からない。
とにかく蟹男たちは避難区にたどり着いたのだ。 疲労していたが、自然と早足になって集団は街へと向かった。
ーーbiiiiiiiibiiiiiiiiiiuuuuuuuuuuuuuu
近づくと大音量の警報が流れ、蟹男たちは足を止めた。
『止まれ』
『武器を捨てろ。 両手を上げて、地面に這いつくばれ』
まるで犯罪者のような扱いだ。
「まずい展開になった」
「ごめんなさい。 もう少し手前で別れるべきだったわ」
アリスが伏せながら申し訳なさそうに言った。
バリケードが開き、武装した数人が向かってくる。
「いや、大丈夫」
「どういうこと?」
「マルトエス、ミクロ帰ろう」
「はい」
「お腹すいたー」
二人に合図して蟹男はスキルを使用した。
「それじゃあ、俺たちはここまでだ。 またどこかで会えるといいな」
「え、ちょっとまーー」
アリスの言葉の途中で、蟹男はマーケットに転移した。
「じゃあ、拠点に戻ってご飯にしようか」
10
あなたにおすすめの小説
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた
ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。
今の所、170話近くあります。
(修正していないものは1600です)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。
みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。
勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。
辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。
だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
学生学園長の悪役貴族に転生したので破滅フラグ回避がてらに好き勝手に学校を魔改造にしまくったら生徒たちから好かれまくった
竜頭蛇
ファンタジー
俺はある日、何の予兆もなくゲームの悪役貴族──マウント・ボンボンに転生した。
やがて主人公に成敗されて死ぬ破滅エンドになることを思い出した俺は破滅を避けるために自分の学園長兼学生という立場をフル活用することを決意する。
それからやりたい放題しつつ、主人公のヘイトを避けているといつ間にかヒロインと学生たちからの好感度が上がり、グレートティーチャーと化していた。
ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中
あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。
結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。
定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。
だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。
唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。
化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。
彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。
現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。
これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる