71 / 116
空を満たす何か
再びの対峙
しおりを挟む
館には、いつもお昼寝に使っていた場所に着地した。
私の足は相変わらず遅いので、今はツニートの肩に乗ってテラスまで移動中だ。二人の身体の大きさでは館に出入りできないので、テラスに向かうしかない。
私は無責任にも全て投げ出してきた。何を言われてもおかしくはない。
テラスには驚いた事に、ラヴァルさん、カーミラさん、ギルミアさん、シルキーとバンシーまで全員揃っている。今まではラヴァルさんを師と仰いでいたが見方が変わった以上、今までと同じ態度でいることは難しかった。
私はこの世界に親しいと呼べるほどの知り合いはいないが、優しかったドラゴンの里の皆が、私のせいで何かの犠牲を払う事になったらどうしよう、と恐れてもいた。
緊張の面持ちでテラス席のすぐ近くに下ろされた。皆の視線が私に集まる。どうしようと思っていると、シルキーとバンシーがこちらに全速力で走って来て、私を思い切り抱き締めた。
え、と声をあげる暇もなかった。どうやら二人に抱き締められていて顔は見えないが、私のために泣いてくれているらしい。
「心配かけてごめんなさい。」
素直に言葉にすることが出来た。ずっと二人をスパイなのかと疑っていた。誰が敵で誰が味方なのか情報さえ無かったあの時、私は全てを疑う方法しか自分を守る術を知らなかった。でも今は、私がそうしてきたことで傷つけた人がいると気付けた。
そして、私達を感情のこもらない目で見ている三対の目があることにも気付いている。
「それで?言い訳があるなら聞きますよ?」
とラヴァルさん。
「ララちゃん、疲れたでしょぉ?こちらへいらっしゃいな」
これはカーミラさん。
「今まで大人しくしていたと思ったら、一族がどうなってもいいみたいだね?」
とギルミアさん。
さらにギルミアさんが私に向かって続けた。
「平穏を脅かす奴は許さないと言ったはずだけど?」
私はワンピースをぎゅっと握り唇を噛みしめた。本当に私は自分の事で精一杯で、何も見えていなかったのだ。 カーミラさんに呼ばれて気がついた。連絡用にと渡され私が途中で捨てた、カーミラさんから貰った元複眼は監視用でもあったのだろう。
今ならちゃんと言い返せる。
「それで森の賢者とは聞いて呆れますね。数百年経っても異世界人に頼らなければ生きていけないなんて。数百年もの間寝ていたんですか?」
私達の悲願は家に、家族の元に帰ること。例え亡骸だけになってもそれは変わらない。
ドラゴンの里の皆は口を揃えて私に言った。自分を誇れ、胸を張れ、自信を持て、と。たくさん背中を押して貰った。だから私はこいつの言葉に負けてなんかやらない。
でもその前に一つだけ…。
「ラヴァルさん。全部投げ出して後処理を押し付けてしまってごめんなさい。」
謝るべきところは謝らないといけない。
「おや。私に押し付ける所まで計画していたのではなかったんですね。あの国は滅びましたが、あの人間の侍女二人には可哀想な事をしてしまいましたねぇ?」
言われてぎくっとする。マリーナとキャロルの事は必死に考えないようにしていた。私が見殺しにしたから。あの世渡り上手な二人ならきっと、この先もどうにか生きていくのだろうと勝手に希望的観測をした。私の狡さを暴かれるようで、二人の最後は聞きたくなかった。
「ちょっとぉ!やっと皆揃ったんだから、物騒な話はやめなさいよぉ!この続きは明日!!ゆっくり休んで冷静になってからよぉ!」
とカーミラさんがストップをかけ、この場は一旦解散になった。アノーリオンが言った通り、やはりカーミラさんは争うのに否定的だ。シルキーとバンシーの二人も私を部屋に案内しようと促すが、私は行かなかった。
敵が誰か判明した今、館に入れないツニートやアノーリオンと引き離される事は避けたかった。休む為にアノーリオンやツニートと一緒に移動すると、そこはいつも皆一緒に昼寝をしていた場所に辿り着いた。
「屋根あるとこないの…?二人はいつもどうやって寝てたの?」
「儂らはどこでも寝れるし、雨に濡れてもちぃと不快なだけじゃ。心配するのはお主の方じゃ。風邪を引いたら困る。さぁ、儂らの事は心配いらんからベッドのある所でお眠り。」
私は頑として首を縦に降らなかった。知らなかった…。二人が屋根すらない大きな一本の木があるだけの丘で寝泊まりしていたなんて…。ドラゴンの里には雨や風を凌げる巨大な小屋がちゃんとあった。必要ないなんて言葉は嘘に決まっている。
私は何度、他人の痛みに気付かず見過ごしてきたのだろうか。気付かないこと、知らないことは罪だと言っておきながら、それは私にも言えることだった。
だから私は返す。
「一緒がいい」
戦うのも耐えるのも、二人と一緒がいい。
私の足は相変わらず遅いので、今はツニートの肩に乗ってテラスまで移動中だ。二人の身体の大きさでは館に出入りできないので、テラスに向かうしかない。
私は無責任にも全て投げ出してきた。何を言われてもおかしくはない。
テラスには驚いた事に、ラヴァルさん、カーミラさん、ギルミアさん、シルキーとバンシーまで全員揃っている。今まではラヴァルさんを師と仰いでいたが見方が変わった以上、今までと同じ態度でいることは難しかった。
私はこの世界に親しいと呼べるほどの知り合いはいないが、優しかったドラゴンの里の皆が、私のせいで何かの犠牲を払う事になったらどうしよう、と恐れてもいた。
緊張の面持ちでテラス席のすぐ近くに下ろされた。皆の視線が私に集まる。どうしようと思っていると、シルキーとバンシーがこちらに全速力で走って来て、私を思い切り抱き締めた。
え、と声をあげる暇もなかった。どうやら二人に抱き締められていて顔は見えないが、私のために泣いてくれているらしい。
「心配かけてごめんなさい。」
素直に言葉にすることが出来た。ずっと二人をスパイなのかと疑っていた。誰が敵で誰が味方なのか情報さえ無かったあの時、私は全てを疑う方法しか自分を守る術を知らなかった。でも今は、私がそうしてきたことで傷つけた人がいると気付けた。
そして、私達を感情のこもらない目で見ている三対の目があることにも気付いている。
「それで?言い訳があるなら聞きますよ?」
とラヴァルさん。
「ララちゃん、疲れたでしょぉ?こちらへいらっしゃいな」
これはカーミラさん。
「今まで大人しくしていたと思ったら、一族がどうなってもいいみたいだね?」
とギルミアさん。
さらにギルミアさんが私に向かって続けた。
「平穏を脅かす奴は許さないと言ったはずだけど?」
私はワンピースをぎゅっと握り唇を噛みしめた。本当に私は自分の事で精一杯で、何も見えていなかったのだ。 カーミラさんに呼ばれて気がついた。連絡用にと渡され私が途中で捨てた、カーミラさんから貰った元複眼は監視用でもあったのだろう。
今ならちゃんと言い返せる。
「それで森の賢者とは聞いて呆れますね。数百年経っても異世界人に頼らなければ生きていけないなんて。数百年もの間寝ていたんですか?」
私達の悲願は家に、家族の元に帰ること。例え亡骸だけになってもそれは変わらない。
ドラゴンの里の皆は口を揃えて私に言った。自分を誇れ、胸を張れ、自信を持て、と。たくさん背中を押して貰った。だから私はこいつの言葉に負けてなんかやらない。
でもその前に一つだけ…。
「ラヴァルさん。全部投げ出して後処理を押し付けてしまってごめんなさい。」
謝るべきところは謝らないといけない。
「おや。私に押し付ける所まで計画していたのではなかったんですね。あの国は滅びましたが、あの人間の侍女二人には可哀想な事をしてしまいましたねぇ?」
言われてぎくっとする。マリーナとキャロルの事は必死に考えないようにしていた。私が見殺しにしたから。あの世渡り上手な二人ならきっと、この先もどうにか生きていくのだろうと勝手に希望的観測をした。私の狡さを暴かれるようで、二人の最後は聞きたくなかった。
「ちょっとぉ!やっと皆揃ったんだから、物騒な話はやめなさいよぉ!この続きは明日!!ゆっくり休んで冷静になってからよぉ!」
とカーミラさんがストップをかけ、この場は一旦解散になった。アノーリオンが言った通り、やはりカーミラさんは争うのに否定的だ。シルキーとバンシーの二人も私を部屋に案内しようと促すが、私は行かなかった。
敵が誰か判明した今、館に入れないツニートやアノーリオンと引き離される事は避けたかった。休む為にアノーリオンやツニートと一緒に移動すると、そこはいつも皆一緒に昼寝をしていた場所に辿り着いた。
「屋根あるとこないの…?二人はいつもどうやって寝てたの?」
「儂らはどこでも寝れるし、雨に濡れてもちぃと不快なだけじゃ。心配するのはお主の方じゃ。風邪を引いたら困る。さぁ、儂らの事は心配いらんからベッドのある所でお眠り。」
私は頑として首を縦に降らなかった。知らなかった…。二人が屋根すらない大きな一本の木があるだけの丘で寝泊まりしていたなんて…。ドラゴンの里には雨や風を凌げる巨大な小屋がちゃんとあった。必要ないなんて言葉は嘘に決まっている。
私は何度、他人の痛みに気付かず見過ごしてきたのだろうか。気付かないこと、知らないことは罪だと言っておきながら、それは私にも言えることだった。
だから私は返す。
「一緒がいい」
戦うのも耐えるのも、二人と一緒がいい。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
23
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる