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空を満たす何か
何が有意義か決めるのは本人だけどさ…でも、ねぇ?
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映画やドラマのような展開だな、と思った。分かりやすい悪役、そして被害者。まるで現実味がなかった。イケメンヒーローはどこ?
自分が牢にぶちこまれて苦しんだ時、ヒーローは現れなかったし、生きる気力を無くした時はヒロインを慰める当て馬の幼なじみもヒーローもいなかった。ただ皆の後押しがあって、私が勝手に回復していっただけだった。
それなのに悪役の野望を食い止める?ヒーローいないのに?私達がやるの?
いやいや、命大事にいこうよ。
そんな事言える雰囲気じゃなかった。
ドラゴン族の悲しみも、機会を待つため我慢しなければいけなかった苦しさも、皆を通して痛いほど伝わってきたから。
意気込む二人は尻込む一人をよそに盛り上がっていた。
(数百年の時間があったなら他にチャンスはいくらでもあったんじゃ…?)
「さぁ、作成会議じゃ!」
意気揚々と言ってますけど、私も数に入ってるんですね…?
「カエデや。お主の意見はどうじゃ?」
いきなり私から!?どう、と言われてもあのラヴァルさんに勝てる方法なんて一つも思い付かない。
なんかそれっぽいこと言って誤魔化さないと!
「私の偉大な先人達はこう言いました…。『風林火山』『敵を知り己を知れば百戦危うからず』と…!」
「『なるほど!』」
いや、異世界の諺分かるの!?そっちの方が凄いわ。
「ラヴァルさんは何故魔族の王になろうとしているんですか?」
そういえば肝心な事を聞いていなかった。
「過去に一度、人間に対抗する為に魔族を一つに纏め、戦を指揮する存在が必要だと族長会議で議題に上げた人物がいた。戦の指揮だけではなく魔族間の諍いも調停する、とな。それがあやつの言う『王』だったのじゃ。」
『でも、誰が王なるか、皆迷った。戦上手、頭回る奴、それとも気の回る奴か。』
「そうとも。そしてラヴァルは自分が言い出しっぺだからと最初の王に名乗り出たが、格下を自分より上の立場に置く事に我慢ならん奴が大勢おって、その案は却下されたがの。思えばその時から王に、いや魔族の頂点に立ちたいと考えていたのじゃろうな。奴の格上の存在に対するコンプレックスは相当じゃ。
今はもう神はお隠れになったが、神代の時代、儂らの頂には各々の神がおった。神が『王』なのじゃから、神以外の王など必要ないと考えた者が大半じゃった。」
『王、神だけ。これからもいらない。皆で協力すれば、いいだけ。』
なるほど、確かに魔族は人間達のように領地を奪い合ったり、同族で殺しあったりしない。困った事があれば他種族とも協力して解決する。魔族は人間ほど他人に無関心でも自分本意でも無かった。それに、力の強い種族ほど自分より上の存在は神しか認めないというプライドがあるのか。
「中級の人達のコンプレックスって?」
そもそもなぜ中級魔族の皆さんがコンプレックスを?下級なら分からなくもないけど。
『中級、中途半端。』
「下級は姿形も人間に近い。その身に宿る力も弱く生活に困らん程度しか使えん。だが中級は上級に迫るほどの力がある。訓練次第では上級より強い者もおるくらいじゃ。だがそもそも、魔族の格を決めるのは力ではなく、母なる神の声が聞こえるか、その身が母の声に耐えられるか、その2点で決まるのじゃ。」
母様の話す言葉は神力が宿っているからね。てっきり魔族の格付けって力の強さ順だと思ってた。
『母の声、聞こえない、聞いたら死ぬ、奴らに従う?あり得ない。』
「上級より力のある奴もいるが、その身は自分よりも弱い上級が耐えられる母の声に耐えられず、自分よりも格下だと上級に下に見られるのじゃ。力が強い奴程我慢ならんじゃろうな。」
なるほど。タイマン勝負なら負けないのに、神力に対する抵抗力で劣るし、抵抗力は鍛えようがないから尚更悔しい思いをする、という事か。
『だからのしあがって、見下した奴、見返そう、思ったはず。』
コンプレックスは人それぞれだし、自分を馬鹿にした人達を見返そうと努力する姿勢も素晴らしいとは思う。でも、それで人を傷付けるって頑張る方向違くない?
「その気合いと頭脳があるなら人を傷付けるんじゃなくて、もっと有意義な事に使えばいーのに…。むしろ自分を馬鹿にした人達を救って、『あいつに助けられるなんて!』って鼻を明かす方が有益だよね?」
その頭脳を他に向けてたらこの世界は目覚ましい発展を遂げていたと思う。何に意味を見出だすかも本人の自由だけどさ。人を傷付けて愉悦に浸ってるようじゃ底が知れてるよね?小娘の私でも流石に分かる。
私の呟きは誰にも届く事無く虚空に消えていった…。
自分が牢にぶちこまれて苦しんだ時、ヒーローは現れなかったし、生きる気力を無くした時はヒロインを慰める当て馬の幼なじみもヒーローもいなかった。ただ皆の後押しがあって、私が勝手に回復していっただけだった。
それなのに悪役の野望を食い止める?ヒーローいないのに?私達がやるの?
いやいや、命大事にいこうよ。
そんな事言える雰囲気じゃなかった。
ドラゴン族の悲しみも、機会を待つため我慢しなければいけなかった苦しさも、皆を通して痛いほど伝わってきたから。
意気込む二人は尻込む一人をよそに盛り上がっていた。
(数百年の時間があったなら他にチャンスはいくらでもあったんじゃ…?)
「さぁ、作成会議じゃ!」
意気揚々と言ってますけど、私も数に入ってるんですね…?
「カエデや。お主の意見はどうじゃ?」
いきなり私から!?どう、と言われてもあのラヴァルさんに勝てる方法なんて一つも思い付かない。
なんかそれっぽいこと言って誤魔化さないと!
「私の偉大な先人達はこう言いました…。『風林火山』『敵を知り己を知れば百戦危うからず』と…!」
「『なるほど!』」
いや、異世界の諺分かるの!?そっちの方が凄いわ。
「ラヴァルさんは何故魔族の王になろうとしているんですか?」
そういえば肝心な事を聞いていなかった。
「過去に一度、人間に対抗する為に魔族を一つに纏め、戦を指揮する存在が必要だと族長会議で議題に上げた人物がいた。戦の指揮だけではなく魔族間の諍いも調停する、とな。それがあやつの言う『王』だったのじゃ。」
『でも、誰が王なるか、皆迷った。戦上手、頭回る奴、それとも気の回る奴か。』
「そうとも。そしてラヴァルは自分が言い出しっぺだからと最初の王に名乗り出たが、格下を自分より上の立場に置く事に我慢ならん奴が大勢おって、その案は却下されたがの。思えばその時から王に、いや魔族の頂点に立ちたいと考えていたのじゃろうな。奴の格上の存在に対するコンプレックスは相当じゃ。
今はもう神はお隠れになったが、神代の時代、儂らの頂には各々の神がおった。神が『王』なのじゃから、神以外の王など必要ないと考えた者が大半じゃった。」
『王、神だけ。これからもいらない。皆で協力すれば、いいだけ。』
なるほど、確かに魔族は人間達のように領地を奪い合ったり、同族で殺しあったりしない。困った事があれば他種族とも協力して解決する。魔族は人間ほど他人に無関心でも自分本意でも無かった。それに、力の強い種族ほど自分より上の存在は神しか認めないというプライドがあるのか。
「中級の人達のコンプレックスって?」
そもそもなぜ中級魔族の皆さんがコンプレックスを?下級なら分からなくもないけど。
『中級、中途半端。』
「下級は姿形も人間に近い。その身に宿る力も弱く生活に困らん程度しか使えん。だが中級は上級に迫るほどの力がある。訓練次第では上級より強い者もおるくらいじゃ。だがそもそも、魔族の格を決めるのは力ではなく、母なる神の声が聞こえるか、その身が母の声に耐えられるか、その2点で決まるのじゃ。」
母様の話す言葉は神力が宿っているからね。てっきり魔族の格付けって力の強さ順だと思ってた。
『母の声、聞こえない、聞いたら死ぬ、奴らに従う?あり得ない。』
「上級より力のある奴もいるが、その身は自分よりも弱い上級が耐えられる母の声に耐えられず、自分よりも格下だと上級に下に見られるのじゃ。力が強い奴程我慢ならんじゃろうな。」
なるほど。タイマン勝負なら負けないのに、神力に対する抵抗力で劣るし、抵抗力は鍛えようがないから尚更悔しい思いをする、という事か。
『だからのしあがって、見下した奴、見返そう、思ったはず。』
コンプレックスは人それぞれだし、自分を馬鹿にした人達を見返そうと努力する姿勢も素晴らしいとは思う。でも、それで人を傷付けるって頑張る方向違くない?
「その気合いと頭脳があるなら人を傷付けるんじゃなくて、もっと有意義な事に使えばいーのに…。むしろ自分を馬鹿にした人達を救って、『あいつに助けられるなんて!』って鼻を明かす方が有益だよね?」
その頭脳を他に向けてたらこの世界は目覚ましい発展を遂げていたと思う。何に意味を見出だすかも本人の自由だけどさ。人を傷付けて愉悦に浸ってるようじゃ底が知れてるよね?小娘の私でも流石に分かる。
私の呟きは誰にも届く事無く虚空に消えていった…。
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