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トラウマ
6(頭に注意書きあります)
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(いじめ、自殺についての表記があるので、不快、または何かしら精神に不安をきたす方は見ないようにお願い致します。読まなくても大丈夫なようにしますので、飛ばしてください)
**
「俺ねーこんなんだから、昔いじめられてたの」
少しだけ笑いながら淡々と話せば隣から息を飲むような音が聞こえた。
んーいじめられてたって聞いていい思いする人はいないよねぇ。
夢の中とは言え、申し訳なく感じる。
「…最初はね、多分、冗談のつもりだったんだと思う」
けれど、いつからだろう。
最初は冗談交じりに揶揄われた。それも、嫌だったけど幼い頃だったし、それが普通なんだと思っていた。
それが段々エスカレートしていって。
冗談なんかで、おさめられないような事もあった。
庇ってくれた人やとめてくれた人もいたけど、気付いたら俺は独りだった。
噂が、みんなの中では真実で。
違うよなんて俺の否定の言葉は誰にも受け入れられなくて、俺は嘘つきになった。
どうしたらいいのかわかんなくて、お母さんに聞いた。
返ってきた答えは「きっと、勘違いよ」だった。
勘違い?勘違いで俺はいじめられていたの?
きっとお母さんは子供の喧嘩だと思っていたんだと思う。
でも、それが違うと気付いたのは俺がいじめられ始めて随分経った頃。
汚れた服、隠された靴。ビリビリに破かれた教科書。
…学校に行く度に増えていく傷痕。
また勘違いなんて言われるのが怖くて、俺は誰にも言えなくて家に帰ってからも部屋に閉じこもる日々が続いた。
お母さんは何度もごめんね、ごめんねと謝ってくれたけど、俺にはもうどうでもよかった。
ごめんなさい。こんな不出来な子供に育ってしまって。
ごめんなさい。こんなに醜い人間に生まれてしまって。
ごめんなさい。お母さんを泣かせてしまって。
お母さんに謝られる度俺は何回も、何回も無表情に、無感情に謝っていた。
お母さんは悪くないよ。僕が悪いんだよ。
全部。ぜーんぶ、僕が悪いの。だから、ごめんなさい。
だけど、僕が謝れば謝るほどお母さんは泣いて、やつれていった。
なんでだろう?お母さんは悪くないのに。なんで元気がないの?
…そっか。
僕が生きてるからなんだ。
そんなことにも気付かなかった。そっか。僕がいなくなれば、みんなは笑ってくれる?うれしい?
…僕には、わかんないけど。きっと、そうなんだろう。
やつれてしまったお母さんに「ごめんなさい」と謝って部屋に戻る。
もう邪魔な僕はいなくなるから、お母さんは元気になってね。
最後まで、僕は、最低な人間だなぁ。
誰かを理由に死のうとしてるんだもん。
でも、僕、もう、つらくてなきたくてしんじゃいたい。
こんな選択しかできなくて、ごめんなさい。
どうやって死ねばいいんだろう。
テレビでは、どうやって人は死んでたっけ?
首を絞められて?ナイフで刺されて?高いところから落とされて?
…首の締め方がわからない。
ナイフはどこにあるかわからない。
じゃあ、残る選択肢は。
「…高い、ところ」
ふらふらと部屋から出て母親のいる一階へと通じる階段の上に立つ。
…ここから落ちたら痛いだけかなぁ。あ、でも打ちどころが悪ければ死ぬんだっけ?
じゃあ、取り敢えずここでいいのかぁ。
「…えいっ」
空中へと足を踏み出して体が傾いていく。
わぁ、スローモーションってやつだぁ。
ゆっくり、ゆっくり景色が逆さになっていく。
ガタガタッという音が何度か聞こえ、最後にズドンッと打ち付けるような音が聞こえ、母親は走ってリビングから出てくる。
そして、頭から血を流して倒れる息子を見て「ぁっ…あぁ…よし、よしのぉ…」と青ざめた。
しかし、救急車を呼ぶためにガクガクと震える手で電話の受話器を取る。
『はい。こちら、119番です』
「むすっ息子が!!子供が、階段から落ちて…!頭から血を流していて…!はやくっはやくぅっ!!」
「直ちに、そちらへ向かいます。住所をーーー…」
けたたましいサイレンの音が聞こえ、バタバタと騒がしくなる室内。
そして病院に運び込まれ、救命処置を受ける。
「聞こえますか!?」
「血圧が低下してます!」
「くそっ…!諦めるな…!」
結果的に言えば、俺は一時危篤状態にはなったけど、生きてる。
…何もなく、無事にとは言えないけど。
病室のベッドの上で目が覚めた俺が最初に見たのは、俺の手を握って眠っているお母さんだった。
…あったかいなぁ。
しばらくして俺が目覚めたことに気付いた母親がナースコールではなく、ナースステーションへと走って行ってお医者さんと一緒に戻ってきた。
「どこか、痛むところはない?」
「…わかんない、です」
「…こことか、ここは?」
触られても、痛くも、そして触られた感触もなくて首を傾げる。
変なの、触ってるのに何にも感じない。
そんな俺に考え込むように先生は黙って、それを心配そうに見つめる母親が俺の頭を撫でる。
…うん、頭はわかる。けど、腕と、脚はわかんない。
どのぐらい眠ってたのかは分かんないけど、沢山寝たからなのかな。よくわかんないや。
そこからは検査検査検査の日々。
階段から落ちて頭を打った事による、感覚麻痺だった。
なんでもいいけど、はやく帰りたいなぁ…。もう、つかれた。
検査が終われば、リハビリ。リハビリが終わればまた検査。
その繰り返しでほとほと疲れ切っていた。
一度だけ主治医の先生に「あとどれぐらいやったら、帰れるんですか?」と聞いたことがある。
その時先生が言ったのは「佳乃くんが、元気になったらだよ」だった。
…とっくの昔に元気だよ?変なの。でもお医者さんが言うんだから元気じゃないんだろうなぁ。
コミュニケーションルームにはここに入院している子たちが沢山いるよ、と看護師さんたちに言われて行ってみたけど男の子たちが視界に入った瞬間、いじめられていた時の事がフラッシュバックして戻してしまった。
慌てて看護師さん達が駆け寄ってくれたけど、僕は汚してしまった罪悪感でまたごめんなさい。ごめんなさい。と繰り返していた。
おかしいなぁ。気にしてないはずなのに、思い出しちゃった。
それから自分の病室からリハビリと検査以外で出ることはなく、殆ど病室で毎日を過ごしていた。
時々優しそうな若いお兄さんが来ては僕とお話をして、帰っていく。
それが何回か続いた頃お兄さんが「佳乃くんは、今何がしたい?」と聞いてきた。
「いま…」
「そう、今。…なんとなーく、思い浮かんだもので大丈夫だよ」
「…うんと、だーれもいないところに、いきたい」
お母さんも、お医者さんも、僕をいじめる子達も、お兄さんも知ってる人も知らない人も。誰もいない場所に、行きたい。
「…その、誰もいないところにいって何かしたいことはあるの?」
「…あの日の、続き」
階段から落ちて、病院に運び込まれたあの日の続き。
あの時はお母さんがいたから僕はいまこうして生きている。
じゃあ、誰もいなかったら?
僕はやっと、いなくなれる。
そう、笑いながらお兄さんに言えば「そっか」と悲しそうに笑った。
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「俺ねーこんなんだから、昔いじめられてたの」
少しだけ笑いながら淡々と話せば隣から息を飲むような音が聞こえた。
んーいじめられてたって聞いていい思いする人はいないよねぇ。
夢の中とは言え、申し訳なく感じる。
「…最初はね、多分、冗談のつもりだったんだと思う」
けれど、いつからだろう。
最初は冗談交じりに揶揄われた。それも、嫌だったけど幼い頃だったし、それが普通なんだと思っていた。
それが段々エスカレートしていって。
冗談なんかで、おさめられないような事もあった。
庇ってくれた人やとめてくれた人もいたけど、気付いたら俺は独りだった。
噂が、みんなの中では真実で。
違うよなんて俺の否定の言葉は誰にも受け入れられなくて、俺は嘘つきになった。
どうしたらいいのかわかんなくて、お母さんに聞いた。
返ってきた答えは「きっと、勘違いよ」だった。
勘違い?勘違いで俺はいじめられていたの?
きっとお母さんは子供の喧嘩だと思っていたんだと思う。
でも、それが違うと気付いたのは俺がいじめられ始めて随分経った頃。
汚れた服、隠された靴。ビリビリに破かれた教科書。
…学校に行く度に増えていく傷痕。
また勘違いなんて言われるのが怖くて、俺は誰にも言えなくて家に帰ってからも部屋に閉じこもる日々が続いた。
お母さんは何度もごめんね、ごめんねと謝ってくれたけど、俺にはもうどうでもよかった。
ごめんなさい。こんな不出来な子供に育ってしまって。
ごめんなさい。こんなに醜い人間に生まれてしまって。
ごめんなさい。お母さんを泣かせてしまって。
お母さんに謝られる度俺は何回も、何回も無表情に、無感情に謝っていた。
お母さんは悪くないよ。僕が悪いんだよ。
全部。ぜーんぶ、僕が悪いの。だから、ごめんなさい。
だけど、僕が謝れば謝るほどお母さんは泣いて、やつれていった。
なんでだろう?お母さんは悪くないのに。なんで元気がないの?
…そっか。
僕が生きてるからなんだ。
そんなことにも気付かなかった。そっか。僕がいなくなれば、みんなは笑ってくれる?うれしい?
…僕には、わかんないけど。きっと、そうなんだろう。
やつれてしまったお母さんに「ごめんなさい」と謝って部屋に戻る。
もう邪魔な僕はいなくなるから、お母さんは元気になってね。
最後まで、僕は、最低な人間だなぁ。
誰かを理由に死のうとしてるんだもん。
でも、僕、もう、つらくてなきたくてしんじゃいたい。
こんな選択しかできなくて、ごめんなさい。
どうやって死ねばいいんだろう。
テレビでは、どうやって人は死んでたっけ?
首を絞められて?ナイフで刺されて?高いところから落とされて?
…首の締め方がわからない。
ナイフはどこにあるかわからない。
じゃあ、残る選択肢は。
「…高い、ところ」
ふらふらと部屋から出て母親のいる一階へと通じる階段の上に立つ。
…ここから落ちたら痛いだけかなぁ。あ、でも打ちどころが悪ければ死ぬんだっけ?
じゃあ、取り敢えずここでいいのかぁ。
「…えいっ」
空中へと足を踏み出して体が傾いていく。
わぁ、スローモーションってやつだぁ。
ゆっくり、ゆっくり景色が逆さになっていく。
ガタガタッという音が何度か聞こえ、最後にズドンッと打ち付けるような音が聞こえ、母親は走ってリビングから出てくる。
そして、頭から血を流して倒れる息子を見て「ぁっ…あぁ…よし、よしのぉ…」と青ざめた。
しかし、救急車を呼ぶためにガクガクと震える手で電話の受話器を取る。
『はい。こちら、119番です』
「むすっ息子が!!子供が、階段から落ちて…!頭から血を流していて…!はやくっはやくぅっ!!」
「直ちに、そちらへ向かいます。住所をーーー…」
けたたましいサイレンの音が聞こえ、バタバタと騒がしくなる室内。
そして病院に運び込まれ、救命処置を受ける。
「聞こえますか!?」
「血圧が低下してます!」
「くそっ…!諦めるな…!」
結果的に言えば、俺は一時危篤状態にはなったけど、生きてる。
…何もなく、無事にとは言えないけど。
病室のベッドの上で目が覚めた俺が最初に見たのは、俺の手を握って眠っているお母さんだった。
…あったかいなぁ。
しばらくして俺が目覚めたことに気付いた母親がナースコールではなく、ナースステーションへと走って行ってお医者さんと一緒に戻ってきた。
「どこか、痛むところはない?」
「…わかんない、です」
「…こことか、ここは?」
触られても、痛くも、そして触られた感触もなくて首を傾げる。
変なの、触ってるのに何にも感じない。
そんな俺に考え込むように先生は黙って、それを心配そうに見つめる母親が俺の頭を撫でる。
…うん、頭はわかる。けど、腕と、脚はわかんない。
どのぐらい眠ってたのかは分かんないけど、沢山寝たからなのかな。よくわかんないや。
そこからは検査検査検査の日々。
階段から落ちて頭を打った事による、感覚麻痺だった。
なんでもいいけど、はやく帰りたいなぁ…。もう、つかれた。
検査が終われば、リハビリ。リハビリが終わればまた検査。
その繰り返しでほとほと疲れ切っていた。
一度だけ主治医の先生に「あとどれぐらいやったら、帰れるんですか?」と聞いたことがある。
その時先生が言ったのは「佳乃くんが、元気になったらだよ」だった。
…とっくの昔に元気だよ?変なの。でもお医者さんが言うんだから元気じゃないんだろうなぁ。
コミュニケーションルームにはここに入院している子たちが沢山いるよ、と看護師さんたちに言われて行ってみたけど男の子たちが視界に入った瞬間、いじめられていた時の事がフラッシュバックして戻してしまった。
慌てて看護師さん達が駆け寄ってくれたけど、僕は汚してしまった罪悪感でまたごめんなさい。ごめんなさい。と繰り返していた。
おかしいなぁ。気にしてないはずなのに、思い出しちゃった。
それから自分の病室からリハビリと検査以外で出ることはなく、殆ど病室で毎日を過ごしていた。
時々優しそうな若いお兄さんが来ては僕とお話をして、帰っていく。
それが何回か続いた頃お兄さんが「佳乃くんは、今何がしたい?」と聞いてきた。
「いま…」
「そう、今。…なんとなーく、思い浮かんだもので大丈夫だよ」
「…うんと、だーれもいないところに、いきたい」
お母さんも、お医者さんも、僕をいじめる子達も、お兄さんも知ってる人も知らない人も。誰もいない場所に、行きたい。
「…その、誰もいないところにいって何かしたいことはあるの?」
「…あの日の、続き」
階段から落ちて、病院に運び込まれたあの日の続き。
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