今日は死ぬにはいい日だ

十六夜彼岸

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戦と再始動

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「やっとここでの仕事も終わりですか」
机の上の書類を片付けながら1人の女が言う。
「はい、おつかれ様でした」
そしてその横には、白い着物を着た女が書類を片付けるのを手伝っている。
「さて、行きますか。私たちの場所、第54番隊へ」





人間族と亜人族の住むこの世界では、多くの種族が共存し、約5000年ほど前の古の大戦以降、人と亜人との戦争は起きていなかった。
しかし、彗星周期歴4876年。人間族の最大の国エルティン王国の新国王が即位すると同時に王国内の亜人を全て拘束、そして処刑するという大虐殺が発生。これにより亜人族の国は人間族の国への出国を全面的に禁止。
国交が閉ざされたことで貿易なども無くなり、土精霊ドワーフからの鉱石、精霊族エルフからの食料が来なくなり食料難、資材不足が全人間族の国に起こった。
すると、エルティン王国は周囲の国を強引に従わせ、人間族と他の亜人族の間に挟まるようにある魔族の国ヘレラルに宣戦布告。
エルティン王国側は大量の兵士と武器を使い、ヘレラルは魔法を用いて応戦する。
エルティン王国は、兵士がどれだけ死んでも進軍し続けるという特攻のような戦法をとり、対象的にヘレラルは1人でも死者を出さないように無理な応戦はしない、といった命を大事にするのを第一に考えていた。
開戦から17年。戦線はヘレラル側にどんどんと詰め寄っていた。しかし、人間側は多大な損失を出していた。









魔族領の中心、魔王城を囲む72の領地。それらは魔王の盾であり矛でもある、72人の魔族の領地。彼等はそれぞれ自分の軍を持ち魔王の命を受け、戦線に赴く。
領地は魔王城を中心に、第1番隊から第9番隊の土地が存在する。その外側に第10番隊から第30番隊が、さらにその外側に第31番隊から第72番隊が治めている。

その内の一つである、第54番隊の領地に5人の魔族が訪れる。
「ここが俺等が入隊する54番隊の領地か……」
「あらあら、まだ招集時間の一刻前ではありませんの。早く会いたいですわ」
「お前……、よく自分の隊長に早会うのを望んでいるだ……?俺は胃に穴開きそうだ……」
「ていうか、ここまだ朝なのに活気が凄いわね!ここらの領地ってみんなこんなに朝から市場が賑わってるの!?」
「田舎者かよ……」
「何ですって!?」
「本当のことだろう」
5人は領地の中心にある領主の屋敷に向かっているが、町全体に広がる市場や商店街、飲食店街に興味を抱く。
「てゆうか、そろそろ着かないとまずくないか?」
「あと……四半刻しかねぇよ!急げ!」
「あ、ちょっ、待ちなさいよ!」





一方、一つの通りに他とは比べものにならないほどの人だかりができていた。
人だかりは、八百屋や鮮魚店の前にできており、どうやら2人の女魔族を中心にしていた。
「ほらこれ持っていきなよ!」
「うちのも持っていきな」
「いいお野菜入ったのよ、食べて頂戴」
その2人に野菜、肉、加工食品を我こそは、と渡しに来る人々。彼女等はアリアナ・
「む、おおこれは新製品か!これは美味いな。今日は鹿の肉か、後で屋敷に6食分届けてくれ。沼の魚か……、川魚はないのか?」
「アリアナ様、沼の魚も美味ですよ」
「そうだが小雪……、泥臭いのが苦手なのだ……」
「大丈夫ですよ領主様!今日のは生捕りしたのを真水の水槽に数日入れていたので泥臭さはないですよ」
「そうか……、なら騙されたと思って食べてみるとしよう。2尾頂こう」
「はいよ、銀貨2枚で良いわよ」
「ありがたい」
「良いのよ、領主様のお陰で私達は
アリアナは、そんなことはない。と言って謙遜するが、周囲の市民達は口々に褒め、そして感謝の言葉を発する。
しまいには小雪も、
「アリアナ様はご謙遜がすぎます。もう少しご自分の評価を上げてください」
と、言い出す。
「あー!もう分かった!皆が私に感謝してくれていることは分かった。これでこの話は終わりだ」
「そういや、今日って朝から領主様にお客さんが来るんじゃないんですかい」
「嗚呼、もう行かねばならないな。ではまた来るとしよう」
「いつもの時間に持っていけば良いんですかい?」
「それで頼む。ではまた」
アリアナと小雪は人々から貰った物を持ち、その場から離れていく。
その背中に子供達は手を振り、大人達は微笑む。
「2人は私達が支えなきゃ」
誰かが言ったこの言葉は、大人達の胸に強く刺さった。

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