黒い花

島倉大大主

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第三章:歩き種

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「ふう……なあ婆ちゃんよぉ」
「いや、君、いきなり馴染みすぎだろ」
「いや、うち今、婆ちゃんいないんだよ」
「すげぇ台詞だな」
 婆ちゃんはあたしと真木のやり取りに、心底呆れた顔をした。
「漫才はその辺にしてくれんか? 見るんじゃろ、それ」
 真木が取り出したスマホは社の真ん中に置いてある。
「……マジで見るの?」
「当り前だろう君ぃ。結局は見なければ対応ができないのだ。御霊桃子が今何処にいるかのヒントがあるかもしれないしね」
「マジか」
「マジさ」
「うん、じゃあ、あたしの後ろに隠れるのをやめようか」
「僕はそこそこの腕っぷしだが、そこそこでねえ」
 そんな、あたし達のどーぞどーぞ漫才を尻目に、婆ちゃんはスマホの周りに円を描くように何かを蒔いている。
「何それ? あ、結界ってやつ?」
「そうじゃ。どのくらいの規模かわからんが、今までは効果があった。そう、三十秒は稼げる……多分」 
 あたしはしゃがみ込むと結界をまじまじと見る。
「……米?」
 真木があたしの横に来てしゃがみ込む。
「魔除け、というものは種々様々でね。塩が良い、小豆が良い、いやいや某の根を焼いて灰にして、等々。だが、まあ見える僕に言わせれば結局は――」
「儂らの心なんじゃよ」
 真木の言葉を婆ちゃんが受け継いだ。
「触媒は自分の好きな物で良いのじゃ。これは『効く』と思えば縄跳びの縄だって結界になる。わかるか?」
 ああ、成程と私は頷いた。婆ちゃんはふふっと小さく笑う。
「あの気難しい子が、まあ面白い子に育ったもんだよ。ところで、そっちの――真木だったか? 『賛木ノ集』の別名を知っておるか?」
「ああ、はいはい、確か『国家賛木ノ集』ですよね?」
「うむ。それじゃがな、実はそっちが本来の名前なのじゃ。ただし――」
 真木はぴしゃりと額を叩いた。あたしも、あっと声を上げた。
「『国家』は黒い花、と書くんだ! あたしの夢に出てきた、あの花!」
「その通りじゃ、恵子。さ、その鞭をこっちへよこしてくれ」
 鞭? ああ、この杭の事だっけか。
 婆ちゃんが杭を持つと、真木が結界の中のスマホの液晶に指を当て、パスを打ち込む。
「よろしいか?」
 婆ちゃんが頷き、あたしも頷く。
「では!」
 動画の再生が始まった。
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