四季怪々 僕らと黒い噂達

島倉大大主

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Chapter4

7:こんばんは

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 で、そこから先が大変でした。ぐるぐる回る視界が、溶けて、縦に伸びたと思ったら、ガヤガヤと話し声が耳の中に飛び込んできて、視界にぱっと室内灯と天井が飛び込んできました。ついで体がぐるっと回ると、人生ゲームの盤がばーんと迫ってきたのです。

 後から聞いた話によりますと、その時、百合ちゃん先生は大逆転のうちにルーレットでピタリの数字を出し、皆が非難の声を上げる中、自分のコマを鼻高々に持ち上げて演説をぶちながらゴールに移動させている最中だったそうです。
「人生ってのは、最後の最後まで何があるか判らねえ!
 だから! だからだぜ? 人生を語る物こそ、人生ゲームの強者――」

 僕はただいまーと言いながら盤上に落下、コーヒーカップを四つ割り、お菓子を潰し、皆が自分の前に置いておいたゲームのお札を全てぶちまけて混ぜてしまいました。
「なるほどねぇ~」
 その時ビリだった、かりん先生が口を大きく開けたまま固まったの百合ちゃん先生にそう言うのを、僕は潰れたお菓子を口に入れながら聞いていました。

 以降、百合ちゃん先生が怒ったり泣いたりで五分間。その間に、ばーちゃんに色々報告すると、よくやったと褒められ、オジョーさんとヤンさんとキンジョーさんとヒョウモンさんにプチ胴上げされ、息子さん達が病院に電話をかけて、母の意識が戻りました! と雪崩れ込んできて、うおおおおっ!! と深夜なのに盛り上がって、かりん先生が電話を奪って、某お医者の先生に電話をかけて深夜の面会が許可され、っていうか、その先生が手を回したらしく、昏睡だった人達の親族がみんな意識が戻ったと連絡が行ったらしく、病院前は詰めかけた親族一同と応援で駆け付けた医者に看護師さん達でプチお祭り騒ぎ!!! 
 ヒョウモンさんは、うひょーとか言いながらカメラをガッチリ回し、あたしも友達が起きたんです―なんて言うもんだから、涙目の爺ちゃんとか婆ちゃんとか、眠そうな目の小さい子供とかが、まあ喋るわ喋るわ。
 いいから、お前らさっさと会いに行けっと鬼のような形相の看護師さんに怒鳴られ、委員長の部屋に着いたのは病院到着から二十分後でした。

「こんばんは」
 もっと気のきいた台詞もあったろうに、とばーちゃんに後でいじられましたが、まあ、あの時の僕は、あれがベストです。むしろよく喋れたもんです。
 委員長は起きていました。上半身を起し、病室に入っていくと、僕を見て微笑みました。
 もう、その笑顔がね……今まで見たことがない、っていうか、もう、足が止まっちゃう可愛さってやつですか? ああいう物を体験しちゃうとね、もう、顔をまともに見れなくなるんじゃないのか、いやいや、それはオーバーにしても、僕は今後どういう感じで委員長に接していけば良いのか、とかぐるぐる考えてるうちに出たのがさっきの言葉です。
「こんばんは」
 委員長は普通に返してくれました。
「ごめん」
 謝られました。僕は、うん、と頷きました。
「まあ、なんとかなったよ。カメラは無くしちゃったけどね」
 委員長は小さく頷きました。そしてベッドの上で正座すると、後ろのみんなに向けて頭を下げました。
「ありがとうございました。ご心配をおかけしました」
 委員長は頭を上げると、僕に笑顔を向けました。
 僕はええっと、とか言ってベッドの傍らに立っていました。その手を委員長が掴んで僕を引っ張ります。ゲッという声を上げて、僕は委員長に抱き寄せられました。
 いつの間にかヒョウモンさんが立膝のいい感じの構図でカメラを回しています。
 その後ろでオジョーさんがネットリした目でニコニコしています。
 何故だかキンジョーさんはガッツポーズをしていました。

「……謀ったな、お前ら」

 僕の言葉に、ばーちゃんが大笑いし、ヤンさんと百合ちゃん先生が先頭で、皆が病室になだれ込んでくると、委員長を胴上げし始めました。いや、胴上げ好きだね、この人達。僕もやったけどさ。
 そんな中、かりん先生と巡回に来たお医者さん、それに看護師さんが来ました。かりん先生が僕を指差してお医者さんに何か耳打ちしました。お医者さんがつかつかと僕に歩み寄ると、その暖かく少し汗ばんだ手で、強い握手をしてきました。

「感謝している。本当に感謝している!」

 ヤンさんが、よっしゃーっと叫び、オジョーさんがベッドをばんばん叩いて、やりましたわあと叫びました。
「でも、もうちょっと静かにね」
 お医者さんの言葉にキンジョーさんが、いやーんと言い、皆が吹き出して全ては終わったのでした。
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