プロビデンスは見ていた

深月珂冶

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トパーズの憂鬱

トパーズの憂鬱20

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 美砂子は買い物を止めて、家に帰ろうとする。
 また後ろを押してきた犯人が襲ってくる可能性を考えたら、その方がいいだろう。

 美砂子はなるべく、人気のないところを通らないように行く。
 何とか無事に過ごしてほしい。私はそう願った。

 思い出は切り替わる。
 ゆっくりと映し出された場面は美砂子が和義に、話している場面だった。

「実は今日、後ろから押されたの」
「え?」

 和義は由利亜をあやしながら、美砂子を見る。
 和義は由利亜をベビーベッドに寝かせながら、「押されたって後ろを?」と聞く。

 美砂子は頷く。和義は考えているようだ。和義は美砂子に再び質問する。

「それって今日だけ?」
「今日だけというか、今日かな」
「考えたくないかもしれないけど。前に言ってた由利亜の父親とか?」

 和義は叶井かない遊作ゆうさくの報復かと思ったらしい。美砂子の肩を掴む。
 美砂子は首を横に振る。

「違うと思う。だって、私、遊作とは縁切ってるから」
「そうか」

 和義は再び考える。

「私は。澤地さんだと思う」

 美砂子はゆっくりと言った。

「澤地?」
「うん。澤地亮子さん。遊作と澤地さん付き合っていたのよ」

 美砂子は思い出したくない過去を苦しそうに言った。
 和義は美砂子を抱き締める。

「大丈夫か?」
「うん。澤地さんしか考えられなくて」

 美砂子は涙を流す。嗚咽した。

「押されただけだと警察に言っても無駄だからな」
「うん」

 美砂子は頷く。美砂子の背中を和義が優しくさする。

「解った。しばらくは買い物、俺がするよ」
「え?いいよ」

 美砂子は慌てて顔を上げて、和義を見る。

「大丈夫だって」
「いいの?」
「ああ」

 和義は美砂子の頭を撫でる。美砂子は困っているが、和義は笑う。

「そんなに俺が頼りない?」
「いや、そうじゃなくて」
「親の反対押し切って結婚した時から腹は決めてる」

 美砂子と和義の結婚は、親から歓迎されていなかったらしい。私は胸が詰まる。
 二人の絆は強いものだったのだろう。

 私は二人の姿に涙が出る。周りが反対しても一緒になることを決意した。
 中々、出来ることじゃない。親の反対で結婚を断念する人もいる。
 私はこの先がどうなるか、解らない。ただ三人がバラバラになることしか知らない。

 私の思いを尻目に、思い出は切り替わる。
 切り替わったのは、美砂子たちの家に、文芽と和義の友達の幹正が家に来ている場面だった。

 さっき見えた思い出から、一週間くらい経過しているようだ。

「なぁ。あれから大丈夫か?」

 幹正がビールを飲む。文芽も気になっていた。
 和義が言う。

「まだ嫌がらせが続いている」

 美砂子も不安そうな顔をしている。

「警察には相談したの?」

 文芽は美砂子に質問した。美砂子は首を縦に振る。
 幹正はビールを飲み終えたらコップを置き、「心当たりは?」と言った。

澤地さわじ亮子りょうこさんだと思う。私の元彼氏の彼女」
 
 美砂子は暗い表情を浮かべる。文芽は口を紡ぐ。
 しばらく沈黙が続く。幹正が言う。

「そうか。じゃあ、立証すれば被害届が受理されそうじゃない?」
「決定的な証拠がないんだ 」

 和義は苦々しい表情を浮かべた。

「そうか」

 幹正は申し訳なさそうな顔をした。

「俺さ、姉ちゃんに澤地のこと話したんだ。そしたら、協力してくれるってなって」

 和義は美砂子を見る。美砂子はうなづく。

「同じ会社だからさ」

 和義は枝豆を食べた。幹正が言う。

「和義の姉さんって美砂子さんと同じ会社だったの?」
「ああ。そうだ」
「そうか」

 幹正は目を見開き、口を開けた。
 幹正は和義を見る。私は何だかその様子を不審に思った。和義は何か隠しているのだろうか。

「何だ?」

 和義が幹正を見返した。

「いや、その」
「何だよ」

 和義は幹正の態度に苛つく。美砂子と文芽はその様子を見る。
 ざわざわとした違和感は、布に水が浸っていくような雰囲気だった。その先を見るのが恐い。
 私はその恐怖に覚悟し、続きを見つめる。

 四人は気を取り直して、楽しく食事をした。
 食事を終え、文芽と幹正は帰り支度をしている。幹正が和義の手を引っ張った。

「なんだ?」

 和義が幹正を睨む。

「恐い顔するなよ。ちょっといいか」
「ちょっとって」

 和義は美砂子を見る。美砂子は二人に気を使い、「行ってきていいよ」と言った。

「ごめん。行ってくる」
「うん。文芽もまたね」

 美砂子は文芽を見送る。

「じゃあね」

 文芽は美砂子たちのマンションを出た。和義と幹正は一緒に出ていく。
 その後ろ姿を美砂子は見つめた。

 一人ぼっちになった美砂子は、玄関のドアを見る。
 しばらくすると、電話が鳴った。

「はい」

 美砂子が出た。電話口の相手は無言らしい。
 美砂子は不安になってくる。震える声で美砂子が言う。

「あなた、誰なの」

 無言電話らしく、何も返答がない。

 美砂子が電話の子機から耳を放そうとした瞬間だった。

阿婆擦あばずれ女。人を不幸にしか出来ない死ね】

 その声は変声器で変えている声だった。

「一体何なの?」

 美砂子は言い返した。しかし、返答は無く、そのまま切れた。

トパーズの憂鬱20(了)

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