漆黒の魔女と暴風のエルフ

あきとあき

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第9話 思い出の地、エリアラサース

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エリアラサースは、いくつもの険しい山脈を越えた先に広がる、深い谷の奥に存在していた。人の足を容易に寄せ付けないその場所は、神秘的な静寂と、荒々しい自然の美しさに満ちていた。古い木々の間をわずかな日光が差し込み、薄霧が漂う谷底では、清らかな川が音を立てて流れている。誰もいないその風景は、時が止まったかのような静謐《せいひつ》さを湛《たた》えていた。

「ここが、あなたとガーランドが住んでいた場所……本当に綺麗ね」

ゼノアは目を細めて言った。その瞳には、遠い昔の姿を想像しながらどこか感傷的な輝きがあった。

「そうだよ。70年ぶり。じいちゃんと魔人が戦ったあとは、酷い有様だったけど」

シリルは頷きながら小さく笑みを浮かべた。その笑みは懐かしさと共に少しの悲しみを宿していた。

ゼノアは川のきらめきを見つめながら呟いた。

「でも、今はとても綺麗になっていて良かったわね」
「うん」

短く返事をしたシリルの声には、どこか深い安堵が混ざっていた。70年前の傷跡は未だ残っていたが、森は再び生き生きと蘇り、川のせせらぎもかつてのように透き通っていた。

滝の横にはひっそりと洞窟があった。まるで自然に溶け込むかのように巧妙に隠されたその入り口は、注意深く見なければ見過ごしてしまうほどだった。洞窟の内側には、いくつかの窓が切り開かれ、心地よい風が通り抜けていた。住むために手が加えられたその洞窟は、簡素だがどこか温かみのある空間だった。

「ここが、ボクたちが暮らしていた家だよ」

シリルは静かに言った。その言葉には、過去の時間が甦るような懐かしさがこもっていた。

彼女は微笑み、洞窟の中を見渡した。

「なかなか素敵な場所ね。きっとここでたくさんの思い出が作られたんでしょうね」

シリルは少し肩をすくめて苦笑いを浮かべた。

「結局、魔人はいなかったな。ちょっと残念」

「でも、あなたとガーランドがここで過ごした場所を見られて良かったわ」

彼女は穏やかに返した。彼女の声には、シリルの気持ちを少しでも軽くしたいという優しさが滲んでいた。

「うん、ボクもそう思うよ。正直、怒りや悲しみがこみ上げてくるかと思ったけど……意外と大丈夫だな」

シリルは遠くを見つめながら言った。風に揺れる木々の音が、二人の間に静かな時間をもたらしていた。

ゼノアは微笑みながら冗談めかして言った。

「ふふ、少しは成長したのかしらね」

シリルは顔をしかめたが、その表情にはどこか余裕も感じられた。

「これでも120歳なんだよ。成長するさ」

彼女はくすっと笑い、首をかしげた。

「ガーランドの話では、エルフは100歳で成人するって聞いたけど……」
「だから?」

シリルは怪訝そうな顔をした。
彼女は笑みを深めて、からかうように続けた。

「あなたは120歳でも子供よね。見た目も精神も」
「ええ? 酷いな」

リルは頬を膨らませ口を尖らせた。

「戦闘に夢中になると周りが見えなくなって、いつも暴走してばかり。それさえなければ、もっと強くなるのにね」

彼女は目を細めて考え込むように言った。

「あなたは……ハイエルフ……なのかもしれないわね?」
「ハイエルフ? 何それ?」

シリルは首をかしげ、ゼノアは少し驚いた顔をした。

「あら、ガーランドから聞いてないの?」
「うん、聞いたことないな」

シリルは小さく首を振ると、ゼノアは説明を続けた。

「ハイエルフは女神の眷属で、半神――神に近い存在なの。エルフよりもずっと長生きで、その分成長も遅いらしいわ」

「へえ、ボクはハイエルフなんだ」

シリルは驚いたように少し考え込んだが、ゼノアは微笑みを浮かべて言った。

「でも、やっぱり違うわね」
「なんで?」
「だって、神に近い存在が、こんな戦闘狂の暴走娘なはずないでしょ」
「ひどい言われようだな……」

ゼノアは笑い、シリルはもっと膨れっ面をした。
ゼノアは優しくシリルの方に体を傾けた。

「ねえ、あなたとガーランドのここでの暮らしの話を聞かせてちょうだい」
「大した話じゃないと思うけど……」
「それでも聞きたいの」

シリルは一瞬ためらったが、ゼノアの真剣な瞳に根負けして小さく息をついた。

「うん、分かったよ」

シリルは再び洞窟の中を見回し、記憶の糸をたどるようにゆっくりと語り始めた。川のせせらぎと鳥たちの声が、二人の間に静かな時間を紡ぎ出していた。
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