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第10話 シリル
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ハイエルフのシリルが生まれた年、魔人がエルフの里を襲い世界樹を焼いた。ハイエルフのガーランドはシリルを連れて脱出し、エリアラサースへ逃げ込んだ。
ハイエルフは生まれてから成人するまでは世界樹から魔力を貰い成長する。そのためシリルは成長することなく眠り続けていた。ガーランドと周りの精霊から少しずつ魔力を貰い、千年たってようやく目を覚ました。
やがてガーランドはシリルに、剣術、弓術、そして精霊魔法を教えた。しかし精霊魔法に関しては、世界樹を失ったために精霊と契約が叶わず使えなかった。
シリルの傍らには風の大精霊が寄り添っていた。大精霊は前世からの契約によって、シリルを見守り続けていた。魔法を使うことは叶わなかったが、その存在はシリルにとって大きな支えだった。精霊の微かな囁きがシリルに力を与え、風が彼女の動きに寄り添い続けた。
シリルが30歳になった頃、ガーランドはようやくシリルを近隣の村に連れて行くようになった。
どこで覚えたのか、ガーランドのことを「じっちゃん」と呼ぶようになった。それが妙に嬉しくて、ガーランドはシリルを溺愛するようになった。
いつしかシリルは50歳になっていた。しかし、見た目は人間の10歳の女の子にしか見えず、精神年齢も人間の10歳と大して変わらなかった。それはガーランドと二人だけで生活していたためで、ガーランドが溺愛し甘やかしていたせいだった。
ガーランドとシリルは久しぶりに人里を訪れた。
「ま、魔物だ! 魔物が現れた!」
大声を上げて走ってくる人々がいた。そのはるか後ろから、10匹ほどのワイルドボアが迫ってきていた。
ガーランドは素早く走り出し、風の精霊の力を借りて、逃げる村人たちを追い越し、その前に立ちはだかった。
「風刃!」
その言葉と共に、空気が鋭い刃となって魔物に向かって放たれた。
その刃の風に乗り、シリルが笑顔を浮かべて魔物の群れに飛び込んでいった。その無謀とも言える行動にガーランドの顔が一瞬歪んだ。
「こら、シリル。無茶をするな!」
シリルはその声を聞くことなく、風の刃が魔物に命中する直前跳び上がった。そして次々と切り裂かれる魔物たち、その中で唯一生き残った一匹にシリルは軽やかに着地し、手にした短剣でその目を正確に突き刺した。魔物が倒れる瞬間、彼女は急所の首を一閃し、動きを止めた。
「へへへ、やったよ! じっちゃん!」
「まったく、肝を冷やしたじゃないか……」
シリルは、この三十五年間ガーランドから手解きを受けていたため、既に銅等級冒険者のレベルを超えていた。ガーランドもそのことは分かっていたが、それでもつい心配してしまう。そこにはハイエルフの威厳はなく、人間と同じ親馬鹿の姿があった。
命拾いした村人たちが礼を言いにやってきた。
「ガーランドさん、おかげで助かりました。ありがとうございます」
「無事で何よりです」
「今日は村に寄って行かれますか? 街から行商人も来てますよ」
「おお、それはちょうど良い。シリルに新しい服を買ってあげたいと思っていたところでした」
「なら、ワイルドボアもお運びします」
「うむ、かたじけない」
「最近、ワイルドボアが増えてきて困っています」
「冒険者には頼まないのですか?」
「こんな辺鄙なところには、なかなか来てもらえませんので」
その様子を、森の中から赤い目玉がじっと見つめていた。それは魔人の体の一部だった。本体は山ひとつ超えたところにいて、ひそかに観察していた。
魔人は舌なめずりしながら呟いた。
「エルフとは珍しい。わざわざ遠くまでやってきた甲斐があった……」
その夜は村でちょっとしたお祭りが催された。10匹ものワイルドボアで大量の肉が手に入ったからだった。ガーランドとシリルは村に泊まり、翌日二人はエリアラサースへ帰っていった。魔人の目が彼らを尾行していたとは露程も知らずに……。
ハイエルフは生まれてから成人するまでは世界樹から魔力を貰い成長する。そのためシリルは成長することなく眠り続けていた。ガーランドと周りの精霊から少しずつ魔力を貰い、千年たってようやく目を覚ました。
やがてガーランドはシリルに、剣術、弓術、そして精霊魔法を教えた。しかし精霊魔法に関しては、世界樹を失ったために精霊と契約が叶わず使えなかった。
シリルの傍らには風の大精霊が寄り添っていた。大精霊は前世からの契約によって、シリルを見守り続けていた。魔法を使うことは叶わなかったが、その存在はシリルにとって大きな支えだった。精霊の微かな囁きがシリルに力を与え、風が彼女の動きに寄り添い続けた。
シリルが30歳になった頃、ガーランドはようやくシリルを近隣の村に連れて行くようになった。
どこで覚えたのか、ガーランドのことを「じっちゃん」と呼ぶようになった。それが妙に嬉しくて、ガーランドはシリルを溺愛するようになった。
いつしかシリルは50歳になっていた。しかし、見た目は人間の10歳の女の子にしか見えず、精神年齢も人間の10歳と大して変わらなかった。それはガーランドと二人だけで生活していたためで、ガーランドが溺愛し甘やかしていたせいだった。
ガーランドとシリルは久しぶりに人里を訪れた。
「ま、魔物だ! 魔物が現れた!」
大声を上げて走ってくる人々がいた。そのはるか後ろから、10匹ほどのワイルドボアが迫ってきていた。
ガーランドは素早く走り出し、風の精霊の力を借りて、逃げる村人たちを追い越し、その前に立ちはだかった。
「風刃!」
その言葉と共に、空気が鋭い刃となって魔物に向かって放たれた。
その刃の風に乗り、シリルが笑顔を浮かべて魔物の群れに飛び込んでいった。その無謀とも言える行動にガーランドの顔が一瞬歪んだ。
「こら、シリル。無茶をするな!」
シリルはその声を聞くことなく、風の刃が魔物に命中する直前跳び上がった。そして次々と切り裂かれる魔物たち、その中で唯一生き残った一匹にシリルは軽やかに着地し、手にした短剣でその目を正確に突き刺した。魔物が倒れる瞬間、彼女は急所の首を一閃し、動きを止めた。
「へへへ、やったよ! じっちゃん!」
「まったく、肝を冷やしたじゃないか……」
シリルは、この三十五年間ガーランドから手解きを受けていたため、既に銅等級冒険者のレベルを超えていた。ガーランドもそのことは分かっていたが、それでもつい心配してしまう。そこにはハイエルフの威厳はなく、人間と同じ親馬鹿の姿があった。
命拾いした村人たちが礼を言いにやってきた。
「ガーランドさん、おかげで助かりました。ありがとうございます」
「無事で何よりです」
「今日は村に寄って行かれますか? 街から行商人も来てますよ」
「おお、それはちょうど良い。シリルに新しい服を買ってあげたいと思っていたところでした」
「なら、ワイルドボアもお運びします」
「うむ、かたじけない」
「最近、ワイルドボアが増えてきて困っています」
「冒険者には頼まないのですか?」
「こんな辺鄙なところには、なかなか来てもらえませんので」
その様子を、森の中から赤い目玉がじっと見つめていた。それは魔人の体の一部だった。本体は山ひとつ超えたところにいて、ひそかに観察していた。
魔人は舌なめずりしながら呟いた。
「エルフとは珍しい。わざわざ遠くまでやってきた甲斐があった……」
その夜は村でちょっとしたお祭りが催された。10匹ものワイルドボアで大量の肉が手に入ったからだった。ガーランドとシリルは村に泊まり、翌日二人はエリアラサースへ帰っていった。魔人の目が彼らを尾行していたとは露程も知らずに……。
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