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第11話 ガーランド
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小鳥が囀《さえず》る朝靄《あさもや》の中、ガーランドは釣り糸を垂らしていた。数年前、村人に教わった釣りというものは、彼にとって最近お気に入りの趣味だった。魔法を使えば魚など簡単に手に入るが、この静かな時間が彼にとってはかけがえのないものだった。
しかし、突然、地面から湧き上がる異様な魔力を感じた。彼は反射的に飛びのいたが、遅かった。鋭い黒い刺が左足を貫いた。
「しまった!」
彼は戦場であれば常に風防御を張っていた。しかし、ここは安全だと油断していたのだ。刺に込められた麻痺と毒が瞬く間に体を蝕んだが、彼はすぐに『女神の癒し』を使った。
「くそっ……まさか、ここに魔物が現れるとは……」
地面から次々と現れる黒い刺を焼き払おうかと考えたが、躊躇した。火雷の魔法を使えば、この美しい谷が破壊されてしまう。彼は風の精霊に祈り、敵の位置を探った。その瞬間、上空に微かなな気配を感じた。周囲を竜巻で包み込み、敵を逃さないようにした。そして、風刃を放った。
「やったか……?」
そう思った瞬間、背後に嫌な気配が走った。
「しまった、囮か!」
背後から黒い刺に襲われ、痛みと痺れが彼の体を襲う。毒が再び巡るが、彼は再び、癒しの力と風の守りを施した。
「私としたことが……戦いの勘が鈍ったか……」
次の瞬間、炎の塊となった人の姿をした魔物――魔人が突っ込んできた。彼は咄嗟に水の守りを追加した。魔人が激突すると大爆発が起こり、森が焼け、地面が抉れ、崖が崩れ落ちた。
「魔人だったか……」
ガーランドは全身に力を込め、風刃を再び放とうとしたが、魔人は風と水の守りの中に無理やり左腕を伸ばし、ガーランドの右手を切り落とした。痛みに歯を食いしばりながら、彼は風刃で魔人の左腕を切り落とした。
エルフは元々魔法が得意で肉弾戦は苦手だった。ガーランドが森の被害を考慮せずに広範囲な強力な魔法を使っていれば、簡単に倒せたはずだった。その躊躇が勝機を逃してしまった。
その時、遠くからシリルの叫び声が聞こえた。
「じっちゃん!」
「来るな!魔人だ!」
魔人はシリルの存在に気づき、標的を彼女に変えた。
「させるか!」
ガーランドは体当たりで魔人を山に叩きつけた。だが、魔人はすぐに反撃し、ガーランドを吹き飛ばした。崖が崩れ、森は無残な姿に変わっていった。
「神剣があれば……」
彼は剣を携帯しなかったことに、後悔の念をにじませた。
「シリル、神剣を!」
シリルはすぐに踵を返して、洞窟へと急いだ。魔人は彼女を追ったが、ガーランドは風を纏い超高速で突撃した。魔人の胸を貫き、雷を放った。だが、魔人も炎となって彼の腹を貫いた。
「このまま、やられはせん!」
ガーランドと魔人は地面に激突した。彼は瀕死の状態だったが、魔人を離さず、シリルを到着を待った。やがて、シリルが神剣を持って戻り、魔人に突撃した。その剣が光輝き魔人の体を貫くと、苦痛に叫び、体が溶け始めた。魔人は頭だけになって逃げていった。
「じっちゃん、死なないで!」
シリルが涙を流しながら彼に覆いかぶさると、手から金色の光が溢れ出した。
「シリル……『女神の癒し』を……使えるようになったのか……」
ガーランドはそう呟くと、彼は光の粒になって消えていった。
「じっちゃん!じっちゃん!」
シリルは何度も涙を流し、叫び続けた。そして最後に、燃えるような決意を込めて叫んだ。
「魔人は……一人残らず……殺してやる!」
彼女の瞳は、去っていった魔人の方角を鋭く睨んでいた。
それから70年が経ち、エリアラサースの谷にシリルはゼノアと並んで座っていた。夜空には70年前と同じ星々が輝いていた。
シリルは涙に目を潤ませながら話し終えた。
「ボクの知ってるじっちゃんの話はこんなところ……」
「70年前に再会できれば、良かったのにね」
「うん、姉ちゃがいてくれたら、じっちゃんは死ななかった……」
「ごめんね……」
「そんな意味じゃないよ。姉ちゃんのせいじゃないから」
「分かってる。でも私もガーランドに会いたかったな……」
ゼノアも目に涙を浮かべていた。
「姉ちゃんが、じっちゃんと知り合ったのは、いつなの?」
「五千年前」
「ええ、そんな前。姉ちゃんのこと全然話してくれなかったよ」
「魔王とか、勇者とか、聖女の話は聞いたことある?」
「それなら、あるよ。でもゼノア姉ちゃんの話は聞いたことない」
「一緒に魔王を倒した仲間なのに、やっぱり嫌われてたのか。私が魔物だからかな?」
「ボクは魔物だろうが姉ちゃんが好きだよ」
「ありがとう。でも初めて会った時、魔人は殺す!って問答無用で切りかかったきたじゃない」
「ご、ごめんなさい。あ、あれは……」
「別に、気にしてないわよ。ちゃんと分かり合えたんですもの」
ゼノアは笑って、シリルの肩に手を廻した。
「私の知っているガーランドと全然違って、人間味があって驚いちゃった」
「へえ、どんな感じだったの?」
「いつも無表情で笑顔なんて見たことなかったわ。エルフはそれが普通だと言っていたわね」
「ええ、信じられない」
「人間味があるガーランドに会ってみたかったな……」
ハイエルフとエルフは世界樹を守ることが全てだった。だから彼らには感情がほとんどなかった。
五千前魔王が誕生したとき、女神は世界中に神託を下した。
「魔王を討伐せよ」
エルフの里も神託に従い魔王討伐のエルフを派遣することにしたが、誰も望まなかった。
仕方なくガーランドが行くことになり、その時神剣を授けられた。
ガーランドは人間の世界を旅し、勇者一行とゼノアと出会って魔王を討伐した。
ガーランドの精霊たちはゼノアが魔物であるから恐れ嫌っていた。当然ガーランドも同じだった。
しかし勇者一行はゼノアのことを信頼し慕っていたし、ゼノアの力は魔王討伐に必要なことも理解していたので、仕方なく同行していた。
でも最後までガーランドはゼノアを恐れ好きになれなかった。
シリルがゼノアを嫌いにならなかったのは、シリルが正式に精霊と契約していなかったからだ。
ガーランドはエルフの里に戻ると、人間の世界の話を、皆に聞かせた。興味を持ったエルフが少しづつ里の外に出ていくようになった。もちろんガーランドは何回も旅にでて、いろいろな人間と付き合うようになり、次第に人間臭くなっていった。しかし精霊がゼノアを嫌っていたため、二度と二人が出会うことはなかった。
しかし、突然、地面から湧き上がる異様な魔力を感じた。彼は反射的に飛びのいたが、遅かった。鋭い黒い刺が左足を貫いた。
「しまった!」
彼は戦場であれば常に風防御を張っていた。しかし、ここは安全だと油断していたのだ。刺に込められた麻痺と毒が瞬く間に体を蝕んだが、彼はすぐに『女神の癒し』を使った。
「くそっ……まさか、ここに魔物が現れるとは……」
地面から次々と現れる黒い刺を焼き払おうかと考えたが、躊躇した。火雷の魔法を使えば、この美しい谷が破壊されてしまう。彼は風の精霊に祈り、敵の位置を探った。その瞬間、上空に微かなな気配を感じた。周囲を竜巻で包み込み、敵を逃さないようにした。そして、風刃を放った。
「やったか……?」
そう思った瞬間、背後に嫌な気配が走った。
「しまった、囮か!」
背後から黒い刺に襲われ、痛みと痺れが彼の体を襲う。毒が再び巡るが、彼は再び、癒しの力と風の守りを施した。
「私としたことが……戦いの勘が鈍ったか……」
次の瞬間、炎の塊となった人の姿をした魔物――魔人が突っ込んできた。彼は咄嗟に水の守りを追加した。魔人が激突すると大爆発が起こり、森が焼け、地面が抉れ、崖が崩れ落ちた。
「魔人だったか……」
ガーランドは全身に力を込め、風刃を再び放とうとしたが、魔人は風と水の守りの中に無理やり左腕を伸ばし、ガーランドの右手を切り落とした。痛みに歯を食いしばりながら、彼は風刃で魔人の左腕を切り落とした。
エルフは元々魔法が得意で肉弾戦は苦手だった。ガーランドが森の被害を考慮せずに広範囲な強力な魔法を使っていれば、簡単に倒せたはずだった。その躊躇が勝機を逃してしまった。
その時、遠くからシリルの叫び声が聞こえた。
「じっちゃん!」
「来るな!魔人だ!」
魔人はシリルの存在に気づき、標的を彼女に変えた。
「させるか!」
ガーランドは体当たりで魔人を山に叩きつけた。だが、魔人はすぐに反撃し、ガーランドを吹き飛ばした。崖が崩れ、森は無残な姿に変わっていった。
「神剣があれば……」
彼は剣を携帯しなかったことに、後悔の念をにじませた。
「シリル、神剣を!」
シリルはすぐに踵を返して、洞窟へと急いだ。魔人は彼女を追ったが、ガーランドは風を纏い超高速で突撃した。魔人の胸を貫き、雷を放った。だが、魔人も炎となって彼の腹を貫いた。
「このまま、やられはせん!」
ガーランドと魔人は地面に激突した。彼は瀕死の状態だったが、魔人を離さず、シリルを到着を待った。やがて、シリルが神剣を持って戻り、魔人に突撃した。その剣が光輝き魔人の体を貫くと、苦痛に叫び、体が溶け始めた。魔人は頭だけになって逃げていった。
「じっちゃん、死なないで!」
シリルが涙を流しながら彼に覆いかぶさると、手から金色の光が溢れ出した。
「シリル……『女神の癒し』を……使えるようになったのか……」
ガーランドはそう呟くと、彼は光の粒になって消えていった。
「じっちゃん!じっちゃん!」
シリルは何度も涙を流し、叫び続けた。そして最後に、燃えるような決意を込めて叫んだ。
「魔人は……一人残らず……殺してやる!」
彼女の瞳は、去っていった魔人の方角を鋭く睨んでいた。
それから70年が経ち、エリアラサースの谷にシリルはゼノアと並んで座っていた。夜空には70年前と同じ星々が輝いていた。
シリルは涙に目を潤ませながら話し終えた。
「ボクの知ってるじっちゃんの話はこんなところ……」
「70年前に再会できれば、良かったのにね」
「うん、姉ちゃがいてくれたら、じっちゃんは死ななかった……」
「ごめんね……」
「そんな意味じゃないよ。姉ちゃんのせいじゃないから」
「分かってる。でも私もガーランドに会いたかったな……」
ゼノアも目に涙を浮かべていた。
「姉ちゃんが、じっちゃんと知り合ったのは、いつなの?」
「五千年前」
「ええ、そんな前。姉ちゃんのこと全然話してくれなかったよ」
「魔王とか、勇者とか、聖女の話は聞いたことある?」
「それなら、あるよ。でもゼノア姉ちゃんの話は聞いたことない」
「一緒に魔王を倒した仲間なのに、やっぱり嫌われてたのか。私が魔物だからかな?」
「ボクは魔物だろうが姉ちゃんが好きだよ」
「ありがとう。でも初めて会った時、魔人は殺す!って問答無用で切りかかったきたじゃない」
「ご、ごめんなさい。あ、あれは……」
「別に、気にしてないわよ。ちゃんと分かり合えたんですもの」
ゼノアは笑って、シリルの肩に手を廻した。
「私の知っているガーランドと全然違って、人間味があって驚いちゃった」
「へえ、どんな感じだったの?」
「いつも無表情で笑顔なんて見たことなかったわ。エルフはそれが普通だと言っていたわね」
「ええ、信じられない」
「人間味があるガーランドに会ってみたかったな……」
ハイエルフとエルフは世界樹を守ることが全てだった。だから彼らには感情がほとんどなかった。
五千前魔王が誕生したとき、女神は世界中に神託を下した。
「魔王を討伐せよ」
エルフの里も神託に従い魔王討伐のエルフを派遣することにしたが、誰も望まなかった。
仕方なくガーランドが行くことになり、その時神剣を授けられた。
ガーランドは人間の世界を旅し、勇者一行とゼノアと出会って魔王を討伐した。
ガーランドの精霊たちはゼノアが魔物であるから恐れ嫌っていた。当然ガーランドも同じだった。
しかし勇者一行はゼノアのことを信頼し慕っていたし、ゼノアの力は魔王討伐に必要なことも理解していたので、仕方なく同行していた。
でも最後までガーランドはゼノアを恐れ好きになれなかった。
シリルがゼノアを嫌いにならなかったのは、シリルが正式に精霊と契約していなかったからだ。
ガーランドはエルフの里に戻ると、人間の世界の話を、皆に聞かせた。興味を持ったエルフが少しづつ里の外に出ていくようになった。もちろんガーランドは何回も旅にでて、いろいろな人間と付き合うようになり、次第に人間臭くなっていった。しかし精霊がゼノアを嫌っていたため、二度と二人が出会うことはなかった。
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