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第47話 それぞれの思い
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迷宮都市ザーランドの路地裏の建物の一室。
ひとりの眼鏡をかけた男が渋い顔をして報告書を読んでいた。
「まさか人攫いの男が捕まるとは……」
眼鏡の男は、迷宮都市軍とタダン軍を壊滅させたドナシェル隊長の部下で、迷宮都市でのバーラント帝国軍の作戦参謀バルナルトである。
帝国はエトニアを併合すべく動いていた。
その中でも、エトニア最大の力を持つ迷宮都市とダンジョンを手中に収めることが、帝国の最優先目標だった。。
帝国は各地で領土拡大戦争を起こしてきたため、国力が疲弊してきていた。
ダンジョンを奪えば魔石やら魔物の素材を得られ、国力を回復する手助けになる。
そして人攫いは帝国の戦力増強の一環だった。
人攫いの男は非常に優秀で、しかも金のためなら何でもやる男だったので使い勝手が良かった。
「隠遁のマント」も貸し与え、帝国の作戦だと気づかれないように、いくつもの仲介を通して仕事を依頼していた。
帝国だとばれることはないと考えたが、優秀な駒を失ったのは大きな損失だった。
「それにダルマリオ商会の会長の呪いが破られるとは信じられない」
迷宮都市は合議制だったので、議員たちを買収や篭絡し、内部から崩そうとバルナルトは画策していた。
ダルマリオ商会の会長も議員のひとりで、買収も篭絡も効かなかったので呪いを使った。
軍の錬金術部門が開発した特殊な呪いで、女神での癒しでは解呪できないはずだった。それが解呪されてしまった。
この二つとも漆黒の魔女が関わっていた。
ドナシェル隊長が言ったように、帝国の障害になってきた。
相手は金等級冒険者を上回る化け物だ。敵対すれば、かなりの損害が出るだろう。
どうしたものか……とバルナルトは思案していた。
その頃、帝国の第三軍の一室でバージル軍団長がドナシェル隊長を呼んでいた。
「諜報部から黒い女の調査報告が届いたよ。タダンの前はボルダイン王国にいたことが分かった。8年前にダドン辺境伯領のバステトという町に現れて、1年に1回教会を訪れている。その町では漆黒の魔女と恐れられているそうだ。そしてボルダイン王と深い関係があるという噂もある」
ドナシェルの顔色が変わった。
「ボルダイン王とですか?」
「たんなる噂話だが、その教会の孤児院が王家直轄になったらしい」
「孤児院が王家直轄ですか……」
「だから噂話と片付けるわけにもいかない」
「下手をすればボルダイン王国が参戦、あるいは邪魔をしてくるかもしれない……」
「そうだ。だが主戦派を抑える良いネタではある」
「それだけですか?」
「今はそれだけだ。だが各国の諜報部に調査は依頼しているから、いずれはもっと情報が集まるだろう」
ドナシェルはしばらく考えていたが、頭を切り替えた。
「ダンジョン攻略の増員はどうなりました?」
「金等級相当の実力者を送ることになった。それと新設の魔道部隊も」
「新しい魔道兵器が完成したのですか?」
「いや、まだ試作品だ。テストを兼ねての運用だ」
「役に立つかどうか分からないのを送られても困るのですが」
「仕方ない。戦争続きで戦力が落ちている。使えるものは使えということだ」
迷宮都市はダンジョンで成り立っている。
ダンジョンを攻略し支配できれば、迷宮都市を無傷で手に入れることができる。それが謀略派の作戦のひとつだった。
その頃、迷宮都市の教会の大司教は驚愕していた。
ダルマリオ商会の会長が全快したからだ。もはや総本山にある「聖女の秘宝」でなければ解呪は無理だと考えていたが、それを冒険者が成し遂げたのだ。あり得なかった、信じられなかった。しかし事実は受け入れるしかなかった。
「もしかしたら失われた秘宝か?」
大司教は昔、「聖女の秘宝」の儀式に参加したことがあった。ある国の国王の解呪のため数百人の巫女や聖職者が集められた儀式だったが、後にも先にもその一度だけだった。その時に師匠から「聖女の秘宝」はもうひとつ存在したが、勇者一行の大賢者が秘匿し、その後行方知らずとなったことを教えられた。もしかしたら、その失われた秘宝ではないかと考えた。
「もし本当に秘宝なら、手に入れれば教皇になるのも夢ではない」
彼の野望に火が付き、その瞳には欲望が燃えだしていた。
同じ頃、ゼノアは四人組を連れて、冒険者ギルドの訓練場に来ていた。
四人組も死にそうになったことで、自分たちの未熟さとダンジョンの怖さを思い知り、真剣に訓練に取り込む気持ちでいた。
みんな13歳になっていた。あと2年もすれば成人である。
「あなたたちはまだ子供です。あらゆる点で未熟です」
「はい」
「今は基礎をしっかり鍛える時期だと心得て下さい」
「分かりました」
「面白くなく辛いでしょう。しかし成人した時必ず飛躍的伸びます。頑張ってください」
「はい!」
ゼノアは、以前ダンに行っていた剣を回避する訓練を行い、体力、回避する素早さ、相手の動きを見る観察眼など基礎を徹底的に鍛えることにした。
四人同時に行われ、午前中訓練は続いた。それは13歳には過酷と思われる訓練で、周りで訓練していた者は驚いていた。
週に1日休みを設けたが、休みの日以外は毎日行われた。
やがて周りで見ていた者たちの中で真似する者が出てきて、この訓練は徐々に広まっていき、後に迷宮都市の名物訓練となる。
午後はダンジョン3階でラージボア相手に実地訓練をした。
男の子たちには回避すると同時に攻撃を加えることを目標とし、メルには回避すると同時に水壁を展開する訓練と、それとは別に四重の水壁をできるだけ早く展開できるように訓練をした。
特にメルには難しすぎる試練だった。13歳で魔法を3つ瞬時に使える者はいなかったし、4つとなると最年少記録を破る偉業だった。しかし、それをできない限り四人組が4階を突破するのは無理だとゼノアは考えていた。
4階はハウンドが仲間を呼ぶため、殲滅する速度と耐久力が必要になる。3階のラージボアを倒せて有頂天になった冒険者が、4階で死ぬことが多く、そのため4階は試練の階と言われていた。
一方シリルはダンジョンの中を支援隊の護衛をしながら進んでいた。
支援隊とは、48階を攻略中の「金の木漏れ日」のため1か月に1回食料や薬、武器防具を運び、代わりに魔石や魔物の素材などを持って帰える運び屋とその護衛だ。
「ゼノア姉ちゃんに認められ許してもらえるように頑張るんだ」
その翠色の瞳には固い決意がこめられていて、近くの魔物を一刀両断していた。
ひとりの眼鏡をかけた男が渋い顔をして報告書を読んでいた。
「まさか人攫いの男が捕まるとは……」
眼鏡の男は、迷宮都市軍とタダン軍を壊滅させたドナシェル隊長の部下で、迷宮都市でのバーラント帝国軍の作戦参謀バルナルトである。
帝国はエトニアを併合すべく動いていた。
その中でも、エトニア最大の力を持つ迷宮都市とダンジョンを手中に収めることが、帝国の最優先目標だった。。
帝国は各地で領土拡大戦争を起こしてきたため、国力が疲弊してきていた。
ダンジョンを奪えば魔石やら魔物の素材を得られ、国力を回復する手助けになる。
そして人攫いは帝国の戦力増強の一環だった。
人攫いの男は非常に優秀で、しかも金のためなら何でもやる男だったので使い勝手が良かった。
「隠遁のマント」も貸し与え、帝国の作戦だと気づかれないように、いくつもの仲介を通して仕事を依頼していた。
帝国だとばれることはないと考えたが、優秀な駒を失ったのは大きな損失だった。
「それにダルマリオ商会の会長の呪いが破られるとは信じられない」
迷宮都市は合議制だったので、議員たちを買収や篭絡し、内部から崩そうとバルナルトは画策していた。
ダルマリオ商会の会長も議員のひとりで、買収も篭絡も効かなかったので呪いを使った。
軍の錬金術部門が開発した特殊な呪いで、女神での癒しでは解呪できないはずだった。それが解呪されてしまった。
この二つとも漆黒の魔女が関わっていた。
ドナシェル隊長が言ったように、帝国の障害になってきた。
相手は金等級冒険者を上回る化け物だ。敵対すれば、かなりの損害が出るだろう。
どうしたものか……とバルナルトは思案していた。
その頃、帝国の第三軍の一室でバージル軍団長がドナシェル隊長を呼んでいた。
「諜報部から黒い女の調査報告が届いたよ。タダンの前はボルダイン王国にいたことが分かった。8年前にダドン辺境伯領のバステトという町に現れて、1年に1回教会を訪れている。その町では漆黒の魔女と恐れられているそうだ。そしてボルダイン王と深い関係があるという噂もある」
ドナシェルの顔色が変わった。
「ボルダイン王とですか?」
「たんなる噂話だが、その教会の孤児院が王家直轄になったらしい」
「孤児院が王家直轄ですか……」
「だから噂話と片付けるわけにもいかない」
「下手をすればボルダイン王国が参戦、あるいは邪魔をしてくるかもしれない……」
「そうだ。だが主戦派を抑える良いネタではある」
「それだけですか?」
「今はそれだけだ。だが各国の諜報部に調査は依頼しているから、いずれはもっと情報が集まるだろう」
ドナシェルはしばらく考えていたが、頭を切り替えた。
「ダンジョン攻略の増員はどうなりました?」
「金等級相当の実力者を送ることになった。それと新設の魔道部隊も」
「新しい魔道兵器が完成したのですか?」
「いや、まだ試作品だ。テストを兼ねての運用だ」
「役に立つかどうか分からないのを送られても困るのですが」
「仕方ない。戦争続きで戦力が落ちている。使えるものは使えということだ」
迷宮都市はダンジョンで成り立っている。
ダンジョンを攻略し支配できれば、迷宮都市を無傷で手に入れることができる。それが謀略派の作戦のひとつだった。
その頃、迷宮都市の教会の大司教は驚愕していた。
ダルマリオ商会の会長が全快したからだ。もはや総本山にある「聖女の秘宝」でなければ解呪は無理だと考えていたが、それを冒険者が成し遂げたのだ。あり得なかった、信じられなかった。しかし事実は受け入れるしかなかった。
「もしかしたら失われた秘宝か?」
大司教は昔、「聖女の秘宝」の儀式に参加したことがあった。ある国の国王の解呪のため数百人の巫女や聖職者が集められた儀式だったが、後にも先にもその一度だけだった。その時に師匠から「聖女の秘宝」はもうひとつ存在したが、勇者一行の大賢者が秘匿し、その後行方知らずとなったことを教えられた。もしかしたら、その失われた秘宝ではないかと考えた。
「もし本当に秘宝なら、手に入れれば教皇になるのも夢ではない」
彼の野望に火が付き、その瞳には欲望が燃えだしていた。
同じ頃、ゼノアは四人組を連れて、冒険者ギルドの訓練場に来ていた。
四人組も死にそうになったことで、自分たちの未熟さとダンジョンの怖さを思い知り、真剣に訓練に取り込む気持ちでいた。
みんな13歳になっていた。あと2年もすれば成人である。
「あなたたちはまだ子供です。あらゆる点で未熟です」
「はい」
「今は基礎をしっかり鍛える時期だと心得て下さい」
「分かりました」
「面白くなく辛いでしょう。しかし成人した時必ず飛躍的伸びます。頑張ってください」
「はい!」
ゼノアは、以前ダンに行っていた剣を回避する訓練を行い、体力、回避する素早さ、相手の動きを見る観察眼など基礎を徹底的に鍛えることにした。
四人同時に行われ、午前中訓練は続いた。それは13歳には過酷と思われる訓練で、周りで訓練していた者は驚いていた。
週に1日休みを設けたが、休みの日以外は毎日行われた。
やがて周りで見ていた者たちの中で真似する者が出てきて、この訓練は徐々に広まっていき、後に迷宮都市の名物訓練となる。
午後はダンジョン3階でラージボア相手に実地訓練をした。
男の子たちには回避すると同時に攻撃を加えることを目標とし、メルには回避すると同時に水壁を展開する訓練と、それとは別に四重の水壁をできるだけ早く展開できるように訓練をした。
特にメルには難しすぎる試練だった。13歳で魔法を3つ瞬時に使える者はいなかったし、4つとなると最年少記録を破る偉業だった。しかし、それをできない限り四人組が4階を突破するのは無理だとゼノアは考えていた。
4階はハウンドが仲間を呼ぶため、殲滅する速度と耐久力が必要になる。3階のラージボアを倒せて有頂天になった冒険者が、4階で死ぬことが多く、そのため4階は試練の階と言われていた。
一方シリルはダンジョンの中を支援隊の護衛をしながら進んでいた。
支援隊とは、48階を攻略中の「金の木漏れ日」のため1か月に1回食料や薬、武器防具を運び、代わりに魔石や魔物の素材などを持って帰える運び屋とその護衛だ。
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