41 / 93
第一部 第一章 異世界転移の篇
30 ゴブリンの襲撃
しおりを挟む
この世界にやって来て6日目も終わり、夜になると全員が早々と毛布に包まって眠りについた。
そして真夜中。
みんなが寝静まっている中、暗闇にツグミが一人だけもぞもぞと起き上がった。
しばらく何かを確認するように辺りの様子をうかがう。だがいつものように虫の声と鳥の声、そして時々遠くでサルか何かの鳴き声が響いているだけだ。
しかし、ツグミは意を決して隣で眠っているナオの身体を揺さぶる。
ツグミ「ナオ、ナオ…」
ナオ「…ううん…なに?まだ真っ暗だよ……」
ツグミ「ねぇ、何も感じない?」
ナオ「え~?何のこと?…」
ツグミ「『索敵』って能力。何か、近づいてきてるみたいなの…」
ナオは面倒くさそうに起き上がり、ぼんやりと虚空を眺める。だが、直ぐに真剣な表情に変わった。
ナオ「…山から確かに…」
ツグミ「ねぇ。何か来てるでしょ?」
ナオは直ぐに『光源』で灯りをつける。
ツグミはアイやアカリを揺さぶって起こした。
アイ「え~、何よ?こんな時間に……」
アカリ「…う~…まだ夜中じゃないの?……」
ツグミ「ねぇ、何かがこの小屋に近づいてるの…」
アイ「何か、って何?」
ツグミ「分からないの…でも、山の方から…それに…」
アカリ「それに…」
ツグミ「一匹とかじゃないと思うの…結構な数だと思う…」
アイはやっと事情を飲み込み、毛布から起き上がる。眠っていた者も皆、目を覚ました。
アイ「それって、獣か何かなの?」
ナオ「うん…『索敵』って能力があって、私とツグミには分かるんだけど…」
モア「あー!ホントだ。何かこっちへ来てる!」
アカリ「モアにも分かるんだ。」
モア「うん。」
アイは立ち上がって毛布をしまうと、すぐにみんなに指示を出す。
アイ「分かった。とにかく準備をしよう。ルカ、引き戸のつっかえ棒はちゃんとなってる?」
ルカ「ちょっと待ってね……うん、大丈夫。」
アイ「じゃあ、ここは小屋だし、戸締りもしているから直ぐに獣が入ってくるわけじゃない。落ち着いて準備をしよう。」
ソラ「何が要るの?」
アイ「とりあえず、私とアカリとソラとルカ、そしてタクミにはこないだ拾ってきた木の棒があるでしょ?それを棍棒代わりにして、それと拾っておいた石ね。これを獣にぶつけよう。」
タクミ「オレ、棒はもらったけど石はないよ…」
アカリ「あんたには『投石』の能力はないから、要らないんじゃない。」
アイ「タクミはとにかくアユミのそばにいて、その棒でアユミが襲われないように守ること。」
タクミ「了解…」
ツグミ「私たち、魔法を使えるメンバーはどうしよう。」
アイ「え~とね……」
アイが腕組みをしたのを見て、タクミが話し出す。
タクミ「あのさ、いきなり接近戦って危険すぎるから、とにかくアイさんたちは石を投げて、ツグミさんたちは離れて『ファイア』とか『ウインド』とか『サンダー』とかで攻撃をしようよ。それで出来るだけ接近しないようにしよう。」
アイ「その通りね……オーケー、とにかく物理戦闘ができるメンバーが前に並んで、その後ろに魔法が使えるメンバーが攻撃する形にしよう。」
ツグミ「前にいる人に当てないように気をつけないと……」
モア「そうか……」
ソラ「そうだよ!当てたりしないでね。」
モア「オーケー(笑)…」
アユミ「……私、どうしよう……」
アカリ「あの、アユミは後ろから灯りで照らしてくれない。この『光源』の灯りだけだと見にくいかもしれないから……」
アユミ「分かった……」
全員がアイとタクミの指示で引き戸から離れ、物理戦闘ができる者が石を持って前に、魔法が使える者が後ろになって二列に並び外の音に耳をすませる。
すると「ザザッ、ザザッ。」という地面を踏む音が次第に近づいてくる。それもかなりの数のようだ。
アイ「ツグミ、いったい何か分かる?」
ツグミ「何かは分からないの…でも、どうやら獣みたい…」
ルカ「獣って?」
ツグミ「ごめんなさい…それが何なのかも……」
アカリ「でも、鳴き声とかはしないね…」
ナオ「声を小さくした方がいいよ…」
アイ「オーケー……」
いつの間にか獣たちの足音は小屋のすぐ前にまでやってきていた。
だが、野犬やオオカミのような吠え声やサルのような鳴き声は聞こえない。
ソラ(小声で)「ねぇ、窓を開けて何がいるのか見ようか…」
タクミ(小声)「いや、灯りが見えるとこっちへ向かってくるかも…」
ギー、ギー!
ズン、ズン!
全員「!!!」
何かが引き戸を引っかいたり、ぶつかってきたりするような音がして、全員が緊張で身体を硬くする。
ズン、ズン、ズン!
ドン、ドン、ドン!
ここが入り口だと分かっているのか、引き戸への衝撃がだんだんと大きくなってきた。
アカリ「アイ、このままじゃ……」
アイ「…分かってる……タクミ…」
タクミ「えっ?」
アイ「あんた、引き戸のそばにいって、私が合図したらつっかえ棒を取って、引き戸を開けて。」
タクミ「…わ、わかった…」
アイ「前のみんなは、もし何かが入ってきたら、直ぐに石を投げつけること。」
前に並んだメンバーはみんな、黙ってうなずく。タクミは棒を手に、おずおずと引き戸のすぐ横へと近づく。
その間も何かが戸にぶつかってきている。その衝撃はどんどん強くなって、次第に引き戸がたわむようになってきた。
ソラ「ヤバい……」
アイ「開けて‼」
タクミはつっかえ棒を取ると、大急ぎで引き戸を開ける。
そこにいたのは元の世界では誰も見たことがない生き物だった。
身長は140㎝ほどか。背の高いものでも150㎝もないだろう。
ずんぐりした身体に短い太い足二本で立っていて、腕は短く、指先の爪は長く尖っている。
顔はカピバラを思わせるのだが、口から何本も牙が出ており、目も吊り上がっていておまけに真っ赤だ。
全身はサルやウサギと同じように毛で覆われている。
戸の前に何匹も密集していて、その奥は真っ暗なのでどれだけの数がいるのか分からない。
全員がその未知の獣の群れに身構えて、戦闘態勢を取る。
しかしヤツらは頭が良くないのか、一斉に中に入ろうとして詰まってしまい逆に自分たちで動けなくなった。
アイ「今だ!いけっ!」
アイの合図で前衛のメンバーが一斉に獣たちに石を投げつけた。
ヤツらは詰まって動けないので、石を投げれば当たる。石をぶつけられた獣たちが泣き叫ぶような声を出し、引き戸の前から逃げ出そうとした。
ツグミ「いくよー!」
ツグミは腕を伸ばすと、いくつもの炎の玉を獣たちの頭上を越えた向こう側へと飛ばす。
すると闇の向こうからも大きな声が次々と上がった。
ツグミの攻撃を見てモアやナオも同じように火球を飛ばしていく。
グギャ!ゲヤァ!
聞いたことのない鳴き声があちこちから響いて、獣たちは後退して逃げ出した。
アイはストレージから木の棒を取り出して指示する。
アイ「さあ、一気に追い返すよ!」
アユミ「みんな、もっと辺りを光で照らそう!」
アイを先頭に物理攻撃ができるメンバーが逃げる獣たちを追いかけると、魔法使いのメンバーは両手に灯りを持ってその後を追う。
小屋の前では仲間に踏み潰されたのか、伸びてしまっている獣もいれば、まだ頭に火がついているものもいた。
獣たちは倒れたり、火が点いたままであったりする仲間を放って、皆、一目散に山へ続く道へと逃げていく。
アイ「ここにいる獣はソラとルカが始末して。私とアカリは全部が逃げてしまうか確認するから。」
ソラ「殴ちゃえばいいの?」
アイ「そう。」
ナオ「私とツグミがアイについていくから…」
ソラとルカが逃げ惑っている獣を棒で殴ってまわる。獣たちは木の棒で一発殴られただけでその場に伸びてしまう。
モアは倒れている獣に点いていた火が拡がらないように消してまわった。
アイとアカリは逃げずに向かってくる獣を同じように殴って倒し、どれもこれも一発でけりがついてしまう。
未知の獣たちはアイたちの誰かを傷つけることもなく、あっという間に山の中に逃げていってしまった。
獣たちが逃げた後には獣たちの死骸がいくつも転がっていた。
アイ「みんな、大丈夫?何ともなかった?」
ソラ「大丈夫…結構ちょろっかった(笑)…」
ナオ「大したことないのでよかった…」
ツグミ「ホント、何ともなくてよかった…」
ツグミは安心したのか、ナオに抱きついて泣き出した。
ソラ「泣かなくてもいいよ(笑)…」
ルカ「ツグミちゃんのおかげだね…」
アカリ「ねぇ…心配したもんね…」
アカリはナオの胸の中で泣いているツグミの頭を撫でる。みんながホッとして笑顔でその様子を見ていた。
ソラ「…で、この死骸とかって、どうすればいいの?…」
アユミ「ちょっと待ってね……本、見てみるね……」
ルカが手から灯りを出して照らし、みんなでアユミが取り出した本を覗き込む。
アユミ「今、襲ってきたのが『ゴブリン』って言う『魔獣』で、魔獣のレベルとしては最弱級なんだって…」
アイ「だろうね……」
アカリ「石と木の棒でやっつけられるんだから…」
アユミ「で、『ゴブリンの肉は人間の食用には向かないが、その毛皮は衣類用として重宝され、一定の値で取引される。』っと…」
タクミ「このゴブリンのそばにこんな石が落ちてるけど……」
タクミは灯りの下に拾った石を差し出す。それはくるみほどの大きさの真っ赤な石だ。
アユミ「え~と…その石はなになに…それは『魔石』って言うんだって。
え~、『魔石は魔獣の中にある石で、この魔石から出る魔力によって獣は魔獣になると考えられている。』…
で、『魔獣が死ぬとそのそばから魔石は見つかるものである。』と……」
ルカ「じゃあ、その魔石ってヤバくないの?これでゴブリンが魔獣になるんでしょ」
アユミ以外の女の子たち全員が、タクミが持っている魔石から一斉に離れた。
アユミ「え~と、『魔石が帯びている魔力は、時にそれを持つ人に悪しき影響を与える。
例えば頭痛や嘔吐、もしくは魔法使いならば魔法の暴走などが起こりえる。
なので、魔石には必ず『シールド』や『スクリーン』のような、魔法守備の魔法を掛けておく必要がある。
また、魔石はカットを施して宝石にすると、さらに強く、安全に魔力を得られる。』…」
モア「じゃあ、結構ヤバいよ、それ……」
モアは怖くなってきたのか、そばにいたアカリの肩にしがみつく。
アユミ「『しかし、ゴブリンの魔石は魔力が弱く、魔石としての価値はほとんどない』だって…」
モア「それを早く言ってよ!」
ソラ「(笑)」
アユミ「『ただし、ゴブリンの魔石は磨いてボタンなどにされることが多く、数があるとギルドでも引き取られる』だってさ。」
ナオ「じゃあ、このゴブリンの死骸も魔石も持っていったら売れるってことね。」
アカリ「どこへ持っていけばいいかが問題ね。ギルドって言ってるけど…」
アイ「とりあえずストレージにしまっとこう。タクミ、あんたのとこに入れといてね。」
タクミ「オレ……?」
ソラ「ハイハイ、手伝うよ(笑)…」
ルカ「みんなでやっちゃおうよ。」
アカリ「じゃあ私は、あっちの道の方ね。」
ナオ「私がついていくね…」
アカリ「ありがとう。」
アイ「急いで片づけちゃおう。」
みんなはそれぞれ手分けしてゴブリンの死骸と魔石を回収して、さらに『ウォーター』のような魔法を使い、辺りに流れたゴブリンの血を洗い流すこともした。
こうして初めての魔獣の襲撃の後始末は深夜遅くまで行われた。
*楽しんでくださった方や今後が気になるという方は、ブックマークや評価をいただければ励みになります。
また、面白かったところや気になったところなどの感想もいただければ幸いです。よろしくお願いします。
2025年10月7日。
読みやすさ改善のため、文章を大幅に変更しました。
一部の語句や文章の修正も行っていますが、内容は変更していません。
今後も文章の改変を随時行っていきます。ゆっくりマイペースで行いますので、どうかご理解下さい。
そして真夜中。
みんなが寝静まっている中、暗闇にツグミが一人だけもぞもぞと起き上がった。
しばらく何かを確認するように辺りの様子をうかがう。だがいつものように虫の声と鳥の声、そして時々遠くでサルか何かの鳴き声が響いているだけだ。
しかし、ツグミは意を決して隣で眠っているナオの身体を揺さぶる。
ツグミ「ナオ、ナオ…」
ナオ「…ううん…なに?まだ真っ暗だよ……」
ツグミ「ねぇ、何も感じない?」
ナオ「え~?何のこと?…」
ツグミ「『索敵』って能力。何か、近づいてきてるみたいなの…」
ナオは面倒くさそうに起き上がり、ぼんやりと虚空を眺める。だが、直ぐに真剣な表情に変わった。
ナオ「…山から確かに…」
ツグミ「ねぇ。何か来てるでしょ?」
ナオは直ぐに『光源』で灯りをつける。
ツグミはアイやアカリを揺さぶって起こした。
アイ「え~、何よ?こんな時間に……」
アカリ「…う~…まだ夜中じゃないの?……」
ツグミ「ねぇ、何かがこの小屋に近づいてるの…」
アイ「何か、って何?」
ツグミ「分からないの…でも、山の方から…それに…」
アカリ「それに…」
ツグミ「一匹とかじゃないと思うの…結構な数だと思う…」
アイはやっと事情を飲み込み、毛布から起き上がる。眠っていた者も皆、目を覚ました。
アイ「それって、獣か何かなの?」
ナオ「うん…『索敵』って能力があって、私とツグミには分かるんだけど…」
モア「あー!ホントだ。何かこっちへ来てる!」
アカリ「モアにも分かるんだ。」
モア「うん。」
アイは立ち上がって毛布をしまうと、すぐにみんなに指示を出す。
アイ「分かった。とにかく準備をしよう。ルカ、引き戸のつっかえ棒はちゃんとなってる?」
ルカ「ちょっと待ってね……うん、大丈夫。」
アイ「じゃあ、ここは小屋だし、戸締りもしているから直ぐに獣が入ってくるわけじゃない。落ち着いて準備をしよう。」
ソラ「何が要るの?」
アイ「とりあえず、私とアカリとソラとルカ、そしてタクミにはこないだ拾ってきた木の棒があるでしょ?それを棍棒代わりにして、それと拾っておいた石ね。これを獣にぶつけよう。」
タクミ「オレ、棒はもらったけど石はないよ…」
アカリ「あんたには『投石』の能力はないから、要らないんじゃない。」
アイ「タクミはとにかくアユミのそばにいて、その棒でアユミが襲われないように守ること。」
タクミ「了解…」
ツグミ「私たち、魔法を使えるメンバーはどうしよう。」
アイ「え~とね……」
アイが腕組みをしたのを見て、タクミが話し出す。
タクミ「あのさ、いきなり接近戦って危険すぎるから、とにかくアイさんたちは石を投げて、ツグミさんたちは離れて『ファイア』とか『ウインド』とか『サンダー』とかで攻撃をしようよ。それで出来るだけ接近しないようにしよう。」
アイ「その通りね……オーケー、とにかく物理戦闘ができるメンバーが前に並んで、その後ろに魔法が使えるメンバーが攻撃する形にしよう。」
ツグミ「前にいる人に当てないように気をつけないと……」
モア「そうか……」
ソラ「そうだよ!当てたりしないでね。」
モア「オーケー(笑)…」
アユミ「……私、どうしよう……」
アカリ「あの、アユミは後ろから灯りで照らしてくれない。この『光源』の灯りだけだと見にくいかもしれないから……」
アユミ「分かった……」
全員がアイとタクミの指示で引き戸から離れ、物理戦闘ができる者が石を持って前に、魔法が使える者が後ろになって二列に並び外の音に耳をすませる。
すると「ザザッ、ザザッ。」という地面を踏む音が次第に近づいてくる。それもかなりの数のようだ。
アイ「ツグミ、いったい何か分かる?」
ツグミ「何かは分からないの…でも、どうやら獣みたい…」
ルカ「獣って?」
ツグミ「ごめんなさい…それが何なのかも……」
アカリ「でも、鳴き声とかはしないね…」
ナオ「声を小さくした方がいいよ…」
アイ「オーケー……」
いつの間にか獣たちの足音は小屋のすぐ前にまでやってきていた。
だが、野犬やオオカミのような吠え声やサルのような鳴き声は聞こえない。
ソラ(小声で)「ねぇ、窓を開けて何がいるのか見ようか…」
タクミ(小声)「いや、灯りが見えるとこっちへ向かってくるかも…」
ギー、ギー!
ズン、ズン!
全員「!!!」
何かが引き戸を引っかいたり、ぶつかってきたりするような音がして、全員が緊張で身体を硬くする。
ズン、ズン、ズン!
ドン、ドン、ドン!
ここが入り口だと分かっているのか、引き戸への衝撃がだんだんと大きくなってきた。
アカリ「アイ、このままじゃ……」
アイ「…分かってる……タクミ…」
タクミ「えっ?」
アイ「あんた、引き戸のそばにいって、私が合図したらつっかえ棒を取って、引き戸を開けて。」
タクミ「…わ、わかった…」
アイ「前のみんなは、もし何かが入ってきたら、直ぐに石を投げつけること。」
前に並んだメンバーはみんな、黙ってうなずく。タクミは棒を手に、おずおずと引き戸のすぐ横へと近づく。
その間も何かが戸にぶつかってきている。その衝撃はどんどん強くなって、次第に引き戸がたわむようになってきた。
ソラ「ヤバい……」
アイ「開けて‼」
タクミはつっかえ棒を取ると、大急ぎで引き戸を開ける。
そこにいたのは元の世界では誰も見たことがない生き物だった。
身長は140㎝ほどか。背の高いものでも150㎝もないだろう。
ずんぐりした身体に短い太い足二本で立っていて、腕は短く、指先の爪は長く尖っている。
顔はカピバラを思わせるのだが、口から何本も牙が出ており、目も吊り上がっていておまけに真っ赤だ。
全身はサルやウサギと同じように毛で覆われている。
戸の前に何匹も密集していて、その奥は真っ暗なのでどれだけの数がいるのか分からない。
全員がその未知の獣の群れに身構えて、戦闘態勢を取る。
しかしヤツらは頭が良くないのか、一斉に中に入ろうとして詰まってしまい逆に自分たちで動けなくなった。
アイ「今だ!いけっ!」
アイの合図で前衛のメンバーが一斉に獣たちに石を投げつけた。
ヤツらは詰まって動けないので、石を投げれば当たる。石をぶつけられた獣たちが泣き叫ぶような声を出し、引き戸の前から逃げ出そうとした。
ツグミ「いくよー!」
ツグミは腕を伸ばすと、いくつもの炎の玉を獣たちの頭上を越えた向こう側へと飛ばす。
すると闇の向こうからも大きな声が次々と上がった。
ツグミの攻撃を見てモアやナオも同じように火球を飛ばしていく。
グギャ!ゲヤァ!
聞いたことのない鳴き声があちこちから響いて、獣たちは後退して逃げ出した。
アイはストレージから木の棒を取り出して指示する。
アイ「さあ、一気に追い返すよ!」
アユミ「みんな、もっと辺りを光で照らそう!」
アイを先頭に物理攻撃ができるメンバーが逃げる獣たちを追いかけると、魔法使いのメンバーは両手に灯りを持ってその後を追う。
小屋の前では仲間に踏み潰されたのか、伸びてしまっている獣もいれば、まだ頭に火がついているものもいた。
獣たちは倒れたり、火が点いたままであったりする仲間を放って、皆、一目散に山へ続く道へと逃げていく。
アイ「ここにいる獣はソラとルカが始末して。私とアカリは全部が逃げてしまうか確認するから。」
ソラ「殴ちゃえばいいの?」
アイ「そう。」
ナオ「私とツグミがアイについていくから…」
ソラとルカが逃げ惑っている獣を棒で殴ってまわる。獣たちは木の棒で一発殴られただけでその場に伸びてしまう。
モアは倒れている獣に点いていた火が拡がらないように消してまわった。
アイとアカリは逃げずに向かってくる獣を同じように殴って倒し、どれもこれも一発でけりがついてしまう。
未知の獣たちはアイたちの誰かを傷つけることもなく、あっという間に山の中に逃げていってしまった。
獣たちが逃げた後には獣たちの死骸がいくつも転がっていた。
アイ「みんな、大丈夫?何ともなかった?」
ソラ「大丈夫…結構ちょろっかった(笑)…」
ナオ「大したことないのでよかった…」
ツグミ「ホント、何ともなくてよかった…」
ツグミは安心したのか、ナオに抱きついて泣き出した。
ソラ「泣かなくてもいいよ(笑)…」
ルカ「ツグミちゃんのおかげだね…」
アカリ「ねぇ…心配したもんね…」
アカリはナオの胸の中で泣いているツグミの頭を撫でる。みんながホッとして笑顔でその様子を見ていた。
ソラ「…で、この死骸とかって、どうすればいいの?…」
アユミ「ちょっと待ってね……本、見てみるね……」
ルカが手から灯りを出して照らし、みんなでアユミが取り出した本を覗き込む。
アユミ「今、襲ってきたのが『ゴブリン』って言う『魔獣』で、魔獣のレベルとしては最弱級なんだって…」
アイ「だろうね……」
アカリ「石と木の棒でやっつけられるんだから…」
アユミ「で、『ゴブリンの肉は人間の食用には向かないが、その毛皮は衣類用として重宝され、一定の値で取引される。』っと…」
タクミ「このゴブリンのそばにこんな石が落ちてるけど……」
タクミは灯りの下に拾った石を差し出す。それはくるみほどの大きさの真っ赤な石だ。
アユミ「え~と…その石はなになに…それは『魔石』って言うんだって。
え~、『魔石は魔獣の中にある石で、この魔石から出る魔力によって獣は魔獣になると考えられている。』…
で、『魔獣が死ぬとそのそばから魔石は見つかるものである。』と……」
ルカ「じゃあ、その魔石ってヤバくないの?これでゴブリンが魔獣になるんでしょ」
アユミ以外の女の子たち全員が、タクミが持っている魔石から一斉に離れた。
アユミ「え~と、『魔石が帯びている魔力は、時にそれを持つ人に悪しき影響を与える。
例えば頭痛や嘔吐、もしくは魔法使いならば魔法の暴走などが起こりえる。
なので、魔石には必ず『シールド』や『スクリーン』のような、魔法守備の魔法を掛けておく必要がある。
また、魔石はカットを施して宝石にすると、さらに強く、安全に魔力を得られる。』…」
モア「じゃあ、結構ヤバいよ、それ……」
モアは怖くなってきたのか、そばにいたアカリの肩にしがみつく。
アユミ「『しかし、ゴブリンの魔石は魔力が弱く、魔石としての価値はほとんどない』だって…」
モア「それを早く言ってよ!」
ソラ「(笑)」
アユミ「『ただし、ゴブリンの魔石は磨いてボタンなどにされることが多く、数があるとギルドでも引き取られる』だってさ。」
ナオ「じゃあ、このゴブリンの死骸も魔石も持っていったら売れるってことね。」
アカリ「どこへ持っていけばいいかが問題ね。ギルドって言ってるけど…」
アイ「とりあえずストレージにしまっとこう。タクミ、あんたのとこに入れといてね。」
タクミ「オレ……?」
ソラ「ハイハイ、手伝うよ(笑)…」
ルカ「みんなでやっちゃおうよ。」
アカリ「じゃあ私は、あっちの道の方ね。」
ナオ「私がついていくね…」
アカリ「ありがとう。」
アイ「急いで片づけちゃおう。」
みんなはそれぞれ手分けしてゴブリンの死骸と魔石を回収して、さらに『ウォーター』のような魔法を使い、辺りに流れたゴブリンの血を洗い流すこともした。
こうして初めての魔獣の襲撃の後始末は深夜遅くまで行われた。
*楽しんでくださった方や今後が気になるという方は、ブックマークや評価をいただければ励みになります。
また、面白かったところや気になったところなどの感想もいただければ幸いです。よろしくお願いします。
2025年10月7日。
読みやすさ改善のため、文章を大幅に変更しました。
一部の語句や文章の修正も行っていますが、内容は変更していません。
今後も文章の改変を随時行っていきます。ゆっくりマイペースで行いますので、どうかご理解下さい。
1
あなたにおすすめの小説
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます
neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。
松田は新しい世界で会社員となり働くこととなる。
ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。
PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。
↓
PS.投稿を再開します。ゆっくりな投稿頻度になってしまうかもですがあたたかく見守ってください。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
美醜逆転世界の学園に戻ったおっさんは気付かない
仙道
ファンタジー
柴田宏(しばたひろし)は学生時代から不細工といじめられ、ニートになった。
トラックにはねられ転移した先は美醜が逆転した現実世界。
しかも体は学生に戻っていたため、仕方なく学校に行くことに。
先輩、同級生、後輩でハーレムを作ってしまう。
人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる
歩く魚
恋愛
かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。
だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。
それは気にしてない。俺は深入りする気はない。
人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。
だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。
――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる