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第一部 第一章 異世界転移の篇

29-2 異世界での生活

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アユミ「あとは道具があるといいんだけど…」
ナオ「確かに…私とアユミと、ハムとかソーセージとか出せるみたいなんだけど…」
ルカ「私も野菜…トマトとキュウリは出せるみたい…」
アユミ「野菜は私も出せるんだけど…何にしろ、今のままじゃ、食パン切るのもできないものね…」

 話が途切れたところで、なぜかソラがナオの顔をジッと見つめる。ソラがあまりにずっと見ているので、ナオはちょっとれくさそうにした。

ナオ「うん?私の顔に何か付いてる(笑)?」
ソラ「違う、違う…学校にいた時にこんなしゃべったことないなー、って思って…」
ナオ「なに言ってんの?あんたもあんまり話さなかったじゃん…」
ソラ「まあ、確かに(笑)…」
アユミ「…でも、ソラが言うの、分かるよ…私もナオとホントに話したこと、なかったから…」
ツグミ「なんでって、ずっと思ってた…私と2人の時はよく喋ってたのに…」

 ナオはみんなから少し顔をそむけるように川の方を見る。

ナオ「…まあ、なんて言うか…ちょっと決めつけられてたでしょ…頭いいって…なんかそれへの…反発みたいな感じかな…」
ソラ「…何となく分かる……」
ナオ「でも、今はそんなこと、誰も言わないし、気にしないでしょ…誰かがそんなこと言ってたら、違ってたかも…」
ルカ「……そんな……」

 ソラもしゃがみながら川へ向かって小石を何個か投げる。

ソラ「確かに…私も今は普通にいられるかな…なんかこうしろとかないから…」
モア「分かるー……」
ナオ「でも、ここじゃ結構素直すなおに誰かに言われたことしてるよね…」

 ナオは自分のそばでしゃがんだままのソラを見る。

ソラ「そりゃあ…それがそのまま自分に返ってくるじゃん…それにみんなも私のためにしてくれてるわけだし…」
アユミ「……私……学校でも……みんなのためにしてたけど……」

 アユミがそう言って少し残念そうに下を向いたのを見て、ルカとツグミがすぐにアユミのそばへ行く。

ルカ「……アユミちゃん……」
ソラ「……ゴメン……」

 ソラは立ち上がって、素直にアユミに頭を下げる。ナオもアユミの方へ向き直った。

ナオ「……まあ、学校のことって、どうしても誰かのためかが見えにくいから……」
アユミ「…ソラ……ゴメンね…そんなつもりで言ったんじゃないから…」
ソラ「ううん…私が悪かったから……ごめんなさい…」
ルカ「……でも、今はソラも一生懸命き木や石や集めてくれてるよ…」
アユミ「そうだね……ありがとう…」
ソラ「…いや~、言われるほどじゃないよ…」
ナオ「あそこにある焚き木も取ってきてくれたんでしょ?」

 ナオが川原の向こうの道に置かれている木々を指差す。

ソラ「あれはアイとアカリと持ってきたんだけど、大きすぎて折れなくて、仕方なくあそこに置いてるの。」
アユミ「使えるのは?それぞれのストレージに入れてるの?」
ソラ「そう…あと、広場のすみかためてる。」

 アユミがふと見ると、モアとルカがツグミといっしょに本をのぞいている。

ソラ「ツグミ…さっきからなに見てんの?」
ツグミ「ううん…攻撃魔法の出し方…ちょっとだけ説明が書いてるから…」
ナオ「何て書いてるの?」
モア「え~と、なんかイメージしてとか書いてる…」
ソラ「イメージ?…」

 ツグミが立ち上がって、川の方を向く。

ツグミ「例えば『ファイア』を使って火の玉を出す時は、杖の先とか手の先から火の玉が飛び出して、目標に飛んでいくのをイメージするんだって…」

 ツグミはそう言いつつ、川の方へ手を伸ばす。
 するとばした手の先からソフトボールぐらいの大きさの火の玉が、ほわほわと飛び出し、川の真ん中ぐらいで風に流されて消えた。

ツグミ「火の玉を出せるのは出せるんだけど…」
ソラ「へぇー、私もやってみよう、っと」

 ソラもツグミのように川の方へ手を伸ばす。今度は野球のボールほどの火の玉が飛び出すが、すぐに消えてしまう。

ソラ「意外と難しい…」
モア「私もするー…」

 モアも手を伸ばすが、今度は一瞬手元てもとでボッと大きな火が燃え上がって、その場にいた全員が驚いて「わっ‼」と叫んだ。

モア「きゃあ~!」
ソラ「危ねぇー…」
ナオ「モア、気をつけないと…」
ツグミ「難しいでしょ…」
アユミ「ナオもできるんじゃないの…」
ナオ「一応『ファイア』はあるけど…」

 ナオも川の方へ近づくが、腕を伸ばしたまま川の向こうを見て、しばらくジッとしている。
 みんなが黙って見ていると、ナオの手先から野球のボールぐらいの大きさの火の玉がポンポンポンといくつか勢いよく飛んでいった。

ソラ「へぇー…」
ツグミ「すごいなー…」
モア「え~、なんで?なんで?…」
ナオ「まずは飛ばす目標をしっかりと見定めるのと、あとは出てくる火の玉の大きさとスピードをちゃんとイメージしてから出そうとするといいみたい。」
ソラ「オーケー、ちょっとやってみる。」

 ソラがもう一度、川に向かって手を伸ばす。今度は少し時間をかけると最初と同じくらいの大きさの火の玉が、さっきよりもずっと勢いよく飛んでいった。

モア「やったー…」
ソラ「どうよ(笑)…」
ナオ「うまい、うまい。」
ツグミ「じゃあ、次は私…」

 ツグミも時間をかけてから火の玉を出すと、風船ほどの大きさのものがヒュー、ヒューと飛び出した。

ソラ「すごーい…」
ナオ「ホント、すごいね…」
モア「え~、いいなぁー…」
ルカ「ツグミちゃんが一番レベルが高いの?…」
ツグミ「レベルよりも、さっきもちょっとだけ練習したし…」
ナオ「そう言えば午前中も練習してたもんね…」
ソラ「やっぱ練習か~…」

モア「練習しなきゃダメ…」
ツグミ「それは……」
ナオ「モアはちゃんとしなきゃ…さっきも結構危なかったでしょ…」
モア「え~~~⁉そんな~…」
ソラ「この子だけはしろって言わなきゃダメだね…」
アユミ「みんなでがんばろうよ…」

 ソラやナオに言われて下を向くモアに、アユミはやさしく声をかける。

ツグミ「ねぇ、モアちゃん、いっしょにやるから…」
モア「……うん、わかった……」
ソラ「そんなしんみりすんなよー…格好よく出せるようになりたいでしょ…」
モア「…うん、なりたい…」

アユミ「火の玉で怖いもの、撃退したら、みんなからすごいって言われるよ…」
モア「ホント?」
ツグミ「ホントだよ…」
モア「じゃあ、がんばる!」
ソラ「そう、その勢い!」
ナオ「もう一度、出してみよう…」
モア「オーケー!」

 あっという間に機嫌きげんなおったモアの様子を見て、アユミとソラとルカが顔を見合わせて笑った。アユミは目が合ったルカに言う。

アユミ「ねぇ、ルカ…私たち、もう少し食べ物と飲み物をストックしておかない?」
ソラ「じゃあ、私も行こうか?」
ルカ「ありがとう…でも、今はみんなと魔法の練習してたらいいよ…」
ソラ「…うん、わかった。」
アユミ「じゃあ、私たち、小屋にいるから。」

モア「あっ、ちょっと待って!私にも『ヒール』して。」
ナオ「そうだ、肝心かんじんなこと、忘れてた…」
アユミ「ハイハイ、背中向いて」
モア「お願~い…『ヒール』好き~、気持ちいいー。」
ルカ「…私も、お願い…」
モア「いいよー、私がするから…前に来なよ…」

 アユミとモアとルカが並んで魔法を掛け合うのを見て、ソラがクスクスと笑う。

ソラ「何でだろう…でも可笑おかしい(笑)…」
ナオ「わかる(笑)…」
ツグミ「(笑)」

 ルカとモアが同じように腕を上げてすじばすような動きをする。
 アユミはそんなモアのお尻をポンと叩いた。

アユミ「もう元気になったでしょ?」
モア「なったー。」
ルカ「フフフ(笑)」
ナオ「じゃあ、私たちは魔法の練習してるから…」
アユミ「了解…」

ルカ「アユミちゃん、私たち、お皿をもう少し出してた方がよくない?」
アユミ「そうだね…じゃあ、お皿とか食べ物とか出しておいて、アイたちが終わったら夕食の準備をしようか…」
ナオ「その時はまた呼んで…」
ルカ「うん、分かった…それじゃあ小屋にいるね…」
ソラ「オーケー。」

 アユミとルカが小屋に入ろうとした時、誰かの魔法が上手くいったのか、川の方から大きな歓声かんせいがあがった。







*楽しんでくださった方や今後が気になるという方は、「いいね」や「お気に入り」をいただければ励みになります。
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 2025年11月29日
 文字数がかなり多いエピソードが増えてきましたので、エピソードを分割して読みやすくしていきます。
 現状では文字数で機械的に分割を行っていますので、単純にページが増えているという感じでお読み下さい。
 こちらもマイペースで進行いたしますので、ご容赦ください。
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