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第二章 冒険出発の篇

44-1 初めての村

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 アイたちがドニアたちと共に彼らの住む村へと向かって一時間ほど経った。
 アユミがかかえられているギリアが痛そうな様子なのに気づき、ドニアに声をかける。

アユミ「あの…一度止まって休みませんか?ギリアさんも痛がってるみたいですし…」

 ドニアはアユミの言葉で急いでギリアを下ろさせた。アユミがすぐギリアのそばに行き、怪我けがの箇所に『ヒーラー』をかける。
 ドニアを始め、村の男たちはアユミが魔法をかける様子を見て、信じられないというふうに頭を振った。

ナオ「村には魔法を使う方はおられないのですか?」
ドニア「我々の村は辺鄙へんぴで貧しいのでまじない師のようなものもおりません。
 私を含めて村の者のほとんどが魔法を見たこともありませんし…」

 ルカが水を出してアイたちに配り、ドニアたちにも持っていく。

ルカ「お疲れだと思うので…」

 ドニアと村の男たちはルカが渡したコップをまじまじと見つめる。

ドニア「これは?」
ルカ「ただの水です…すいません…」

 だがドニアたちは手ぶらで歩いていたルカが水の入った器を取り出したのに驚き、なかなかそれを口にできない。ドニアが恐る恐る口をつけ、一口飲む。
 ドニアが大丈夫とうなずいたので他の者もやっとそれを口にした。モアがギリアにも水を渡す。

 ドニアは水を飲み干すと、ルカにおずおずとコップを差し出した。

ドニア「申し訳ないが…もう一杯ずつもらえないだろうか…」

 ルカはにっこりと笑って彼ら全員にまた水を注いで回る。それでもリカはまだ警戒を解かず、リアと持ってきた革袋の水を飲んでいた。

 休憩を終えて再び歩き出すと、また村の方から向かってくる人影がある。それはドニアたちよりもずっと多く、手には何か持っているように見える。

 やがてやって来たのはやはりドニアの村の男たちで、大きな板を持っていた。彼らはその板を担架たんかにしてギリアをせた。
 村の男の一人がアイたちに向かってひざまずき、頭を下げる。

男「村長はギリア親子が魔獣に襲われたと聞いて大変驚き、村の者を助けていただいた皆様を村の客人としておむかえしたいと申しております。」

 アイたちはまた丁寧な挨拶あいさつをされたことに驚き、顔を見合わせる。

アイ「ありがとうございます。ご招待しょうたいをお受けいたします…申し訳ありません、不作法ぶさほうで上手くお答えできませんが…」

 男が跪いたまま、もう一度深く頭を下げると、立ち上がり出発するように合図する。
 アイがドニアの方を向くと、ドニアも軽く頭を下げる。一行は改めて村へと出発した。
 さらに一時間ほど歩くと、遠くに大きな影が見えてきた。
 ツグミがアイやナオにささやく。

ツグミ「たくさん影が固まってるから、人が集まってると思う…」

 ナオが他のメンバーのそばに行き、村が近いことを教えると、やがて多くの人影が現れた。相当な人の数だ。
 アイとドニアたちがそばまで行くと30人ほどの人々が彼ら彼女らがやって来るのを待っていた。
 その集団から一人の女性が飛び出して来る。
 リカたちと同じような麻のワンピースを着ていて、少しせ型で面長おもながだが整った顔をしていて美人と言っていい。

 彼女は脇目わきめも振らずにギリアのそばへと行くと担架に横たわる彼の手を取った。
 リカがすぐにその人のそばへ行き、ドニアもその女性に近寄り話をした。
 その様子を見て、アカリがアイの耳元でつぶやく。

アカリ「あの人がギリアさんの奥さんみたいね…」

 アイたちが人だかりのすぐ前まで行くと、ギリアを載せた担架はその女性やリカ、リアとともにそのまま人だかりの向こうへ行ってしまう。
 そして、人だかりの真ん中にいた初老の男性がアイたちに近づいてきた。
 瘦せて立派な口髭くちひげをたくわえているが、髪にも髭にも白いものが混じっている。
 その男性はアイたちの前で跪いて頭を下げた。

男「私がこの村の村長です…この度は村の者の命を救っていただき、心より感謝申し上げます。何もない村ですが、是非ともお立ち寄りください。」

 アイたちは丁寧な礼に戸惑とまどって、全員が深くお辞儀をした。アイが代表して礼を言う。

アイ「ご招待いただき、本当にありがとうございます。私たちはこの世界の礼を知らないので、本当に申し訳ありません。」

 村長は立ち上がるとにっこり笑う。

村長「皆様は「彷徨さまよい人」だとうかがいました。どうかくわしくお話をお聞かせください。私の家で飲み物でも差し上げましょう。」

 そう言うとこちらへというしぐさをする。するとドニアが村長のそばにいき、何か耳打ちをした。
 村長はドニアの言葉に何度かうなずき、彼の言葉が終わるとアイたちの方へ向き直る。

村長「皆様は今日倒したクマをお持ちとのこと。本来ならば我々が狩ってきた獲物で歓待かんたいせねばならないのですが、今はそのようなものがないのです。
 大変申し訳ないですが、もしよければそのクマをいただければ、そのクマの肉で歓待できるのですが…」

 アイたちはお互いにひたいを集めて小声で相談をする。

アイ「どうしよう…」
アカリ「ゴブリンとかは売れるとか、書いてたけど…」
ナオ「でも、ギルドって今どこにあるか分からないし…」
アカリ「これからいろいろと教えてもらわないといけないから、そのお礼の代わりになるかもしれない…」
アイ「分かった…じゃあ、クマを受け取ってもらおう。」

 アイは村長の前に進み出る。

アイ「私たちもこの村のことやこの世界のことを教えていただきたいので、どうかクマを受け取って下さい。」

 村長はほっとした表情になった。

村長「申し訳ありません。本当ならお金をお渡しすべきなのですが…では、お願い致します。」

 アイがタクミを呼ぶと、タクミは人たちと少し離れたところにクマの死骸を出した。そのあまりの大きさに集まった人々から驚きの声が上がる。
 ドニアはクマの死骸を見ると、集まった中の何人かの男たちに合図をして自分の腰からナイフを抜いてクマの死骸に近寄る。

 猟師であろう男たちが集まってクマの死骸の解体が始まった。
 村長は改めて頭を下げ、アイたちを自分の家へと案内しようと歩き出した。アイたちもそれについていく。

 人々の間を抜けると道があり、その両側に木の柵でかこわれた畑がずっと続いていた。
 右側の畑は麦畑だろう、青々としたが整然と並んで風にれている。

 左側は休耕しているのか、何頭かの牛と馬が生えている雑草を食べていた。
 村長についていってしばらく進むと、今度は左側の畑の真ん中にまた道があって、曲がってそこを抜けると集落の中に入っていく。

 集落に並んでいる家はほとんどが板き、板壁の小屋だった。いくつかの家は麦わら葺きだが、どの家も小さく簡素なものばかりだ。

 案内された村長の家も村の他の家とほとんど変わらない板葺と板壁の小屋だったが、他の家よりも少し大きいように見える。
 家に入ると板張りの床で左手に簡素なテーブルが隅に置いてあり、反対側の奥に木のつるんだ椅子が四つ並んでいて、かなり高齢の男性と女性二人ずつ、それぞれが椅子に座っていた。

 アイたちが家に入ると、何人かの女性が入ってきてそこに椅子を並べ始める。
 椅子はどれも手作りで高さも大きさもまちまちで、どうやらアイたちのために近所から椅子を集めてきたようだ。
 アイたちは自分に合った高さの椅子を選んで座った。

 全員が椅子に座るとそれぞれに飲み物が入った木製のコップが渡されたが、中身が何なのかは分からない。
 ナオが給仕をしてくれる女性にたずねた。

ナオ「あの~、この飲み物は何ですか?…」

 女性は恥ずかしそうに答える。

女性「すいません…これはただの水です…」
村長「この村には良いき水が出るところがありますので…」

 アイたちはお酒か、そうでなければ得体えたいの知れない飲み物かもしれないと思っていたので、少し安心して飲み物に口をつける。
 アイたちが落ち着いたところで村長も椅子に腰け、口を開いた。

村長「客人の皆様、改めて私はこの村の村長のバルジと申します。我々の村はレアという名ですが…」
長老の女性「誰もレアなどという名で呼んだりせぬ。」
長老の男性「他の村や町の者は皆、ここを最果さいはての村と呼んでおるわ。」

 長老たちはそう言うと可笑おかしそうに笑う。

村長「こちらにいるのはこの村の長老たちです。左からアズル、ダル、ケイ、エレナです。
 この村には文字のある者も少なく、皆様がお知りになりたいことにお答えできるか分かりませんが、何かあればこの者たちにもお尋ねください。」

 アイが立ち上がって頭を下げた。

アイ「皆さん、ありがとうございます。私はアイと言います。そして、ここにいるのが私の仲間で、アカリ、ソラ、ツグミ、アユミ、ナオ、モア、ルカ、そしてタクミと言います。」

 アイがそれぞれの名前を告げると全員が椅子から立ち上がって、一斉に頭を下げた。

アイ「私たちはこの世界とは全く別の世界からやって来ました。
 私たち全員が、気づいたら向こうに連なっている山の中の小屋にいて、その小屋にあった本に魔法で元の世界からこの世界に連れてきたと書かれてあったのです。」

 アイの話を聞いて、アユミが自分のストレージから例の本を取り出し、最初のページを開くと村長のところへ持っていく。
 村長は見づらそうにながめていたが、それでも書かれていたことを理解したのだろう、そのことを長老たちに伝える。

村長「確かに元居た世界からこの世界へと召喚しょうかんされたと書かれている…」

 村長の話をきいた長老たちはある者は目を閉じ、ある者は首を振って驚きをかくせない。

アズル「にわかには信じ難いが…」

 するとダルと紹介された男性の長老が長く伸びたあご髭を何度かしごいて話し始めた。








*楽しんでくださった方や今後が気になるという方は、「いいね」や「お気に入り」をいただければ励みになります。
 また、面白かったところや気になったところなどの感想もいただければ幸いです。よろしくお願いします。

*2025年10月15日
 読みやすさ改善のため、文章を大幅に変更しました。
 一部の語句や文章の修正も行っていますが、内容は変更していません。
 今後も文章の改変を随時行っていきます。ゆっくりマイペースで行いますので、どうかご理解下さい。

 2025年12月15日。
 文字数がかなり多いエピソードが増えてきましたので、エピソードを分割して読みやすくしていきます。
 現状では文字数で機械的に分割を行っていますので、単純にページが増えているという感じでお読み下さい。
 こちらもマイペースで進行いたしますので、ご容赦ください。
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