短編集

裏歩人

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花よりも君が好きだった

微笑みと涙

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私がやっと笑ったのは、まだ少し寒さも残るような、空がそれほど高くない頃だった。君が来る少し前に私は笑った。私は彼を満面の笑みで迎えた。少年は言った。「わぁ、きれい!」と。嬉しかった。一番美しい時期を君と過ごすことができて。君に見てもらうことができて。


ところで、私は彼が泣くところをほとんど見なかった。どんなにつらそうな顔をしても、あざが増えても。そんな彼がある時初めて泣いた。

暖かくなってきたころのこと。その日は珍しく少しだけ冷えていた。もう、私は微笑んでいなかった。とても眠たいなか、なぜか得も言われぬ感情に襲われていた。花を切る作業のため、「まんしょん」の人はたくさん出てきていた。大勢の中に彼の姿を探す。人ごみの中の遠くに見つけた彼は泣いていた。周りの大人たちがなだめている。
「どうして花を切り取らなきゃいけないの!」「『らいねん』も花がきれいに咲いてほしいと思わない?」「思わない!僕はこの花がいいんだ!『らいねん』なんて知らないよ!この花を『つまない』で!」
そんな話をしているのがこんなに遠くにいてもわかる。

なんとなく_私のことを想ってくれているとわかる。私の儚い命を懸念してくれているのだろう。うれしい。こんな風に思ってくれる友ができたこと、とてもうれしく思う。
だから_「少年、私は構わないのだ。君に切り取られるのなら。だから、どうか切り取ってくれ。また、次に目覚めたときも、話しかけてくれ。それが私にとっての最大の至福なのだ。」と諭した。泣いたままではあったものの、彼はやっと大きな声を出すのをやめた。私の花を彼は切り取った。すべての花が切られた後、彼はその花を家に持って帰った。

次の日、彼は来なかった。
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