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産みたい。

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それはわかる。

わかるけど・・・この命を自分の手で終わらせるなんて、私にはできない。




千冬「・・・・・・。」

医師「薬は出してあげる。でも1週間分ね。」

千冬「ありがとう。」

医師「『ちゃんと』話合いなさい。わかった?」




『ちゃんと』って言っても秋也さんが聞く耳を持たない時点で意味がない。




千冬「わかった。」

医師「うん。お大事に。」




私は診察室を出た。

調剤部に寄って薬をもらい、自分の病室に戻る。

その途中にある呼吸器内科で・・・足を止めた。





千冬「お姉さんに相談してみようかな。」




同じ『女性』である秋也さんのお姉さんは相談しやすい。

でも・・・私と秋也さんの問題にお姉さんを巻き込んでいいのか悩んだ。




千冬「確か、お姉さんって結婚もしてて子供さんもいたよね。」




そんな人に『中絶』の相談はしにくく、私は病室に向かって歩き始めた。







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病室に帰ってきた私は、持ってる薬の数を数える。



千冬「1、2、3・・・・・・40日分ある。7週間にちょっと足りないくらいか。」



今が妊娠6週目。

12週を過ぎたら・・・産むしか道は残されない。




千冬「・・・よし。」







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秋也side・・・






千冬の手術が3日後に控えてる。

念のため、点滴を増やそうと思って俺は千冬の病室に行った。




コンコン・・・ガラガラガラ・・・




秋也「千冬?調子どう?」




病室の中に入ると、千冬は窓際に立っていた。




千冬「元気だよ?ちょっと相談があるんだけど・・・。」

秋也「なに?」




千冬のそばにある点滴台にもう1本点滴をぶら下げる。




千冬「産む方法はないのかな。」

秋也「・・・ない。千冬の命が危険だ。」

千冬「ほんとに?死なないかもしれないよ?」

秋也「『死ぬ』確率のほうが高い。」




チューブを繋げて点滴を開始する。




千冬「この子・・・生きてるよ?」

秋也「そんなことはわかってる!」

千冬「この子を産んで・・・一緒に育てよう?」




お腹を擦る千冬。

その姿を見ていられなくて、俺は背を向けた。




秋也「・・・手術は明明後日の昼だから。」

千冬「秋也さん・・・!」

秋也「またあとで様子見に来るから。」





俺はそのまま病室を出た。





秋也(今からほんの少しずつでも貯血すれば産めるのか?いや、それでもリスクは高い・・・。)





『産む』のがゴールじゃない。

そのあとの子育ては?

俺もするけどどうしたって千冬に負担がいくのが目に見えてる。




秋也「堕ろすのが一番いい。」




そう自分に言い聞かせて、俺は仕事に戻った。






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2時間後・・・




千冬の点滴が終わる時間だから、俺は千冬の病室に向かった。

手には新しい点滴を持って。




コンコン・・・ガラガラガラ・・・




秋也「千冬ー?点滴の交換・・・って、いないのか。どっか遊びに行ったか?」




ベッドの上はもぬけの殻。

暇になると千冬はどこかに出掛けていく。

点滴台をガラガラ押して。




秋也「・・・点滴終わる頃にはちゃんといるのにな。トイレか?」




病室にあるトイレのドアをノックする。



コンコン・・・




秋也「・・・千冬?いないのか?開けるぞ?」




ガラガラと引き戸を開けた。




秋也「!!・・・え!?」




トイレに千冬の姿はなかった。

代わりに・・・千冬の点滴台がある。

針は便座に固定され、針先から出てる薬液は便器の中に滴り落ちてた。




秋也「針・・・自分で抜いた・・・?ーーーっ!・・・千冬!どこだ!?」




俺は病室を飛び出し、ナースステーションに行った。




秋也「千冬がいない!手の空いてるやつは探してくれ!」

看護師「は・・・はいっ!」





手分けして千冬を探す。

談話室や食堂、待ち合いもくまなく探したけど千冬は見つからない。




秋也「くそっ・・・!どこいったんだ!?・・・あっ!」




俺は確認したいことができて千冬の病室に戻った。

病室にある小さなクローゼットを開ける。




秋也「・・・ない。」




千冬の服や鞄、靴・・・ベッド脇に置いてあった薬も無くなっていた。




秋也「病院から出た・・・?なんで・・・。」




窓から外を見てると、バタバタと廊下を走ってくる音が聞こえた。

その足音はこの病室に入ってきた。



医師「千冬ちゃんがいなくなったって!?」




入ってきたのは千冬の主治医だ。



秋也「服も鞄もないので・・・おそらく出ていったと・・・」

医師「!!・・・なんで・・」

秋也「こっちが聞きたいですよ!」



















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