溺愛×甘彼は最強!?初めての彼氏はレスキュー隊!

すずなり。

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パソコン2。

ーーーーー


「このあたりに置く感じで大丈夫ですか?」
「はい、そこにお願いします。」

伊藤さんがノートパソコンの箱をテーブルの上に置き、早速箱を開けはじめる。
私はというと、せっかく来てもらったのだから――と、ちょっと緊張しつつ台所でコーヒーを淹れていた。

(男の人が家にいるって、なんかそわそわする……)

とはいえ、伊藤さんは明るくて気さくな人だし、黒崎さんがそばにいるという安心感もあって自然と肩の力は抜けていた。

「あの…コーヒーをお出ししますけど、お二人は砂糖とかミルクとかいります?」

こぽこぽとお湯が沸くのを横目に聞くと、二人は首を横に振っていた。

「俺たちブラックで大丈夫だよ。…というか、コーヒーとかも大丈夫だから。」
「そんなわけにはいきませんよー。ちょっとお待ちくださいね」

ペーパーに挽いた豆を入れ、一杯ずつ丁寧に抽出していく。
コーヒーの香りが部屋の中に漂い始めたころ、私はカップをトレイに置いてテーブルに運んだ。

「お待たせしました。邪魔にならないように少し離して置いておきますね。」
「ありがとう。」

伊藤さんの分はパソコンから少し離れた位置に置き、黒崎さんの分は彼の前に出した。
そんな彼はパソコンを見ているのかと思いきや、私の部屋をぐるっと見回していたのだ。

壁際の棚には、整然と並べられた洋書や翻訳された書籍、そして辞書や文法書がぎっしりと詰まっている。

「すげぇな、まるで図書館みたいだ……」
「昔はもっと雑に並べてたんですけど、ジャンルごとに分けるようになったんです。こっちがヨーロッパ圏、こっちがアジア圏……って。」
「この辺、ぜんぶ読んでるの?」
「読んでいないと訳せないので、一応……。」

そう言うと、黒崎さんは立ち上がり、一冊の本を手に取った。
それは、数年前に私が翻訳したフランスの短編集だ。

「へえ……訳に成海美織って書いてある……これ、もう刊行されてるやつ?」
「はい、でもマイナーな本なので……おそらく店頭にはないと思います。」

自分の本を棚に並べていることをおかしく思われないか、一瞬不安になる。
でもそんな私の不安を吹き飛ばすような一言を、黒崎さんは言った。

「なんか、すげえな……あの現場で出会ったとき、通りすがりの女の子くらいに思ってたのにさ。」
「ふふ、たしかに。私も、まさかあのときの消防士さんと家でコーヒー飲むことになるとは思ってませんでした。」
「あぁ、それは俺も。」

笑いながらそんなやりとりをしていると、

「よーし、完了ー!セットアップも、Wi-Fiもオーケー!」

テンション高く伊藤さんが宣言し、私はパソコンの画面を見に行った。
そこで一通りの説明を受け、なんとか一人で電源のオンオフと文字の打ち込み方を教わったのだ。

「まー、あとは慣れだね。画面を見ずに文字を打てるようになるまでは結構時間がかかると思うけど…」
「がんばりますっ。」
「わかんないことあったら連絡して?仕事が終わったらすぐに返信するし。」
「何から何まですみません…」

その後、黒崎さんと伊藤さんはコーヒーをすぐに飲み干し、帰っていったのだった。
玄関先での最後の挨拶を終えたあと、私は新しいパソコンにそっと触れてみる。

「ふふ、これからよろしくね?」

こうして私はパソコンで翻訳の作業に取り掛かった。
でも、文字を打つにもキーボードの列がいまいちよくわからず…

「えっと…『そ』『こ』…『で』『、』……」

紙に書けば3秒ほどで終わる文字を、10秒ほどかけて入力。
単純計算で3倍以上の時間を使うことになることがわかり、しばらくは紙にお世話になりそうだった。

「近藤さぁぁん…こっちに転勤してきてくださいぃぃー…」

三谷さんとの原稿受け渡しの日が怖くてたまらなくなる私なのだった。


ーーーーー

そんなある日の夜。
パソコンを開いて翻訳の作業に挑もうとするけれど、画面が急にフリーズしてしまった。
カーソルも動かないし、どこを押しても何も起きてくれない。

「……え? なにこれ……動かない……」

私は慌てて伊藤さんにメッセージを送った。
けれど、しばらくしても返信はない。

(どうしよう……短い翻訳の仕事だけでもパソコンで出そうと思ってたのに……まさか中身まで消えちゃうとか…!?)

パニックになる寸前、私の頭に浮かんだのは黒崎さんの名前だった。
手は少し迷ったけれど、恐る恐るメッセージを打つ。

『すみません、あの……パソコンの調子が悪くて……どうしたらいいかわからなくて……』

すると、送信した数分後――

『今仕事終わったとこだから、あと30分くらいで行けるけど…行っても大丈夫?』

その返事が、胸に沁みた。

『よろしくお願いします…!』

そして30分後、インターホンが鳴った。

「黒崎さん……!ほんとにすみません、遅い時間に……!」
「いいって。仕事終わったとこだったし、帰り道だし。」

そう言って来てくれた黒崎さんは、迷うことなくパソコンの前へと向かう。
そしてジャケットを脱ぎ、画面を確認し始めた。

「……うーん、これ、一時的なフリーズっぽいな。電源長押しで再起動かければいけるかも。」

黒崎さんは電源ボタンを長押しした。
すると、数秒のちに画面がパッと消えたのだ。
そしてまた電源ボタンを押すと、画面が無事に動き始めた。

「よ、よかった……」

ほっと胸を撫で下すと、彼はくすっと笑みを零した。

「緊張しすぎじゃない?顔こわばってるぞ。」
「そ、そんなことないですよっ…ただ…」
「『ただ』?」
「がんばって作った訳が消えちゃったらどうしようとか…考えましたけど…」

そう言うと、黒崎さんは画面のついたパソコンを操作し始めた。
そして、私が作った『訳ファイル』を開けたのだ。

「基本的に自動保存されるから大丈夫。ほら。」

そう言われて画面をのぞき込むと、たしかにさっきまで作業していた内容がそのまま残っていた。

「あ…ありがとうございます……!」
「ん。…じゃあ俺はこれで。」

作業が終わったことから立ち上がり、ジャケットを着ようとする黒崎さん。
ここまで来てもらって作業だけしてもらってさよならなんてこと、できるはずない。

「えと…!コーヒー!コーヒー淹れますので…」
「いや…こんな遅い時間にお邪魔してるのもあれだから…」
「いやっ…でも申し訳なくて…!」
「いやいやいや…」

不毛な押し問答が始まってしまい、私たちはお互いにどうすればいいのかわからなくなってしまう。

「あっ…じゃあ今度ご飯奢らせてください…!」

苦肉の代替え案を出した私。
すると、黒崎さんは観念したのか吹き出すように笑い始めたのだ。

「ははっ…!わかったわかった。お礼にご飯、行こうか。」
「!!…ありがとうございますっ。」

そう言って笑いながら帰っていった黒崎さん。
復活したパソコンを撫でながら、私は彼との食事を楽しみにしたのだった。




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