溺愛×甘彼は最強!?初めての彼氏はレスキュー隊!

すずなり。

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起こる事件

――その数日後の昼、消防署の休憩室では伊藤が黒崎を頭のてっぺんからつまさきまで何往復も見ていた。

「なーんかさぁ、最近の黒崎、雰囲気変わったよなぁー…?」

ニヤニヤと話しかけられ、黒崎は睨みつけるようにして伊藤を見る。

「……は?」
「いやいや、そう構えんなって。ほら、例の成海さんといい感じなんだろ?」
「別に、そういうんじゃ――」
「いやいやいやいや、わかるって。いろいろ会ったりしてるんだろ?もうデートじゃんそれ!」

その場にいた若手の隊員も「えっ、なにそれマジすか」なんて面白がるように反応してくる。

「おい伊藤、お前な……」
「ははっ、ごめんごめん。でもな、黒崎。成海さんのことを大事に思ってるなら、からかわれたって堂々としてろ。じゃないと相手を守れないぞ」

その言葉に、黒崎は何も言い返せなかった。

――同じころ、カフェでは美織が三谷に原稿を渡していた。

「このページまでで一区切りです。ここまで訳しました」

テーブルに紙とUSBを置いて、美織はぺこりと頭を下げた。
三谷はそれを受け取ると、コーヒーを一口飲んでからつぶやく。

「……思ったより遅かったですね。風邪でしたっけ?」

納期が遅れそうなことを連絡しておいた私。
三谷さんがどう捉えるかはわからないけど、体調不良のときの納期遅れは許してもらえることになっているはずだ。

「はい……すみません、数日間寝込んでしまって」
「ふうん。まぁいいですけど、もしかしてながら翻訳のせいだったりしません?ほら、デートするときもイヤホンつけてたじゃないですか」
「……あれは、補聴器です」
「はいはい。でも結果的に遅れてるのは事実ですからね。というわけで、間に合わなかったぶんの提出は2日後でお願いします」
「……え?」
「急ぎの案件ですから。よろしくお願いしますね」

そう言い残して、三谷さんは笑いながら席を立った。
残された私は、胸の奥がぎゅっと苦しくなっていく。

(こんな時は黒崎さんの声が聴きたくなる…)

私はスマホを取り出し、電話のアプリを開いた。
付き合い始めてから毎日のようにする電話。
一度だけ、私が電話を取り損ね、黒崎さんが留守電に残してくれたことがあった。
それを消せず、私はときどき聞いているのだ。

『お預かりしているメッセージは1件です』

―――『もしもし?仕事が終わったから電話してみたんだけど、もう寝たかな?今日もお疲れさま。…今度さ、休みの日にデートしない?場所は―――お互いに考えておくってのはどう?何も浮かばなければそれでいいし、どっちかの案に乗ってもいいし…。俺は成海さんと一緒にいれたらそれで嬉しいし…あっ!もう留守電の時間切れる!じゃあおやすみ!』

最後にあわただしくなる言い方に、私は何度聞いても笑みが零れる。
結局、このデートは大きな公園に行って散歩をして、私が作ったお弁当を食べて帰るというピクニックのようなデートになった。
次はどこに行こうかなんて話をしながら歩くあの時間は、とても楽しかったことを覚えている。

(ふふ、私もがんばろっと)

こうして二日後、翻訳を仕上げた私はデータと手書きの原稿をカバンに詰めて外に出た。

(体調が戻ったとはいえ、やっぱり少しきついな…)

数日寝込んだことですっかりなくなってしまった私の体力。
そんな私のもとに届いた三谷さんからのメッセージは、短く冷たいもので―――

『仕事でカフェに行けないので、ショッピングモールの3階エントランスで。15時。』

(……断ったら、また何か言われるかもしれないし)

私はしぶしぶ、その場所へ向かうことにした。
いつものカフェでの受け渡しじゃないことに不満を持った私は、とりあえず黒崎さんにメールをする。

『原稿の受け渡しのため、ショッピングモールに行ってきます。…帰ったら声が聴きたいです。』

約束の時間ぴったりに着くと、三谷さんの姿がすでにある。

「遅くなってすみません。こちらが訳文です」

駆け寄るようにして声をかけると、三谷さんは原稿をチェックし始めた。

「はいはい、お疲れさま。……ふぅん、データもあるんですか?前より進歩してるんですね?」

その物言いに少し胸がつかえたけれど、私は黙ってうなずく。
けれど、次の瞬間――

「……それにしても、イヤホンはまだやめないんですね。いつになったらやめてくれるんですか?通告、出しましょうか?契約解除の通告」
「!!……引き継ぎで補聴器をつけているって話、聞いてませんか?」

私は思わず問い返した。
もう、限界だ。

「引き継ぎ?そんな話はなかったですよ。ただ、手書きの原稿を受け取ること、受け渡しはカフェ、単価はキープもしくは上乗せ方向、それくらいです。……でも、仮にそれが補聴器だったとしても聞こえてるんでしょ?」
「聞こえるなら補聴器なんて……」
「じゃあ、見せてください。それがイヤホンじゃないってことを確かめます」

私はためらいながらも、補聴器を二つとも外して手のひらに置いた。
三谷さんはその補聴器を指でつまみあげ、空にかざすようにしてじっと見ている。

と、そのとき――

「どう見てもイヤホンじゃないですか。ながら作業ができないように、これは預かっておきますね」

そう言って三谷さんは、補聴器をジャケットのポケットに入れてしまったのだ。

「……っ!!」
「会社からたくさん報酬もらってるんでしょ?また買えばいいじゃないですか。まぁ、またこうやって没収しますがね。いいですね、なんか先生と生徒みたいで」
「ふ、ふざけないでください!返して…!」
「では、次の本はデータとしてメールに添付しますのでよろしくお願いしますね」

そう言って、彼は人混みの中へ歩き出した。

「待って…!返してください…!」

私は慌てて追いかけた。
けれど、ショッピングモールの通路は多くの人でごった返していて、すぐには前に進めない。
小さな子どもやスマホを見ながら歩いてくる人が、進路に立ちふさがる。

気がつけば三谷さんはエスカレーターを一段飛ばしで降りていき、とてもじゃないけど追いつけるような距離ではなくなってしまった。

(どうしよう…会社に問い合わせて返してもらう…?)

そんなことをして問題視されないか不安に思いながら下の階に行く三谷さんを見ていると、彼はジャケットのポケットに手を入れた。
そして、何かを握りしめるような動作をしながら辺りを見回し、通路の端に寄っていく。

(まさか―――)

彼の視線の先には、大きなゴミ箱があった。
そこに一直線に向かっていく三谷さんは、その手にある何かを―――捨てたのだ。

(―――っ!)

私は慌ててエスカレーターを降りた。
補聴器を捨てられたであろうゴミ箱に駆け寄り、中を覗き込む。

(どこ!?どこにあるの!?)

補聴器は軽いことから、すぐにごみ箱の下までは行かない。
きっと上辺に乗っているはずと思うものの、なかなか見つからない。

(捨ててない…とか?いや、そんなのわからないし…)

そのとき、ふと視線を感じた私は顔を上げた。
すると、近くにいた人たちが私を怪訝な表情で見ていたのだ。

「あ…」

明らかに不審者で仕方ない私は、ゴミ箱のふたを開けて袋ごと取り出した。
そしてそのまま近くのトイレに行き、手洗い場の隅で袋の中を覗き込む。

(全部ひっくり返せば見つかるかもしれないけど、こんなところでできないし、ゴミを持って帰るわけにもいかない…)

袋の中のゴミを少しずつかき分け、私は途方もない作業に明け暮れることになったのだった。

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