溺愛×甘彼は最強!?初めての彼氏はレスキュー隊!

すずなり。

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処置後。

その後、処置をしてもらった私は病院の待合ロビーでスマホを取り出した。
処置にくわえて事務手続きなどがあり、結局すべてが終わったのは午後8時半ごろ。
診察受付はとっくに終わり、館内はすっかり静まり返っていた。

(もうバスないし…タクシーで帰ろうかな…っと、その前に黒崎さんに連絡)

搬送先の病院が決まった瞬間、私は病院名だけを黒崎さんにメールしておいた。
彼からの返事はいまだになく、あの火事の処理などに追われていることがうかがえる。

(えーと…『全部終わりました、入院の必要はないとのことなので帰ります。タクシーで帰ります』っと)

そう打ち込み、タクシー乗り場に向かって歩き出そうとしたとき黒崎さんから返信が来た。
内容は『もうすぐ仕事終わるから待ってて!迎えに行く!』というもの。

(それは申し訳ないけど…でも…)

あんなことがあったあとだ。
不安に押しつぶされるわけではないけど、彼のぬくもりに触れたいと思った。

(……)

私は自分の気持ちに正直に従うように、スマホをタップする。

『うれしいです。体調は大丈夫ですし、とくに急いでいるわけでもないので…ゆっくり来てください。…待ってます』

そう返信し、私は黒崎さんを待つことに。
いつまでも病院の中にいるわけにもいかず、外にあるターミナルのベンチに腰掛けること1時間。
1台の車がターミナルに入ってきて、私の前で止まる。
そんな動きをする車なんて、もちろん1台しかなく…

「ごめん!待った!?」

焦り顔の黒崎さんが、運転席から降りてきたのだ。

「ふふ、待ってはいましたけど、ぜんぜん大丈夫ですよ?」
「救急搬送されたんだから、大丈夫なわけないだろ…」
「いえ、ほんとに。…ちょっと聞こえないのが残念ですけど…」

壊れた補聴器のパーツを無理矢理カバー内に押し込み、耳に入れてみたけど何も聞こえなかった。
完全に壊れてしまったことは、間違いないだろう。

「…送ってく。ほら、ゆっくり乗って?」
「ありがとうございます」

助手席に乗せてもらい、私はアパートまで送ってもらった。
車の中で会話は難しく、黒崎さんは信号待ちで止まるたびに私のほうを向いてくれ、唇の動きがわかるように話をしてくれたけど…そのキャッチボールはなかなかのハードルの高さだ。
青になれば会話は進まず、なんだかぎくしゃくしてしまう。

(ちゃんと会話ができないのって…もどかしい)

今までだって会話に苦労をしたことはあった。
なかには『もういっか』や『伝わらなくても大丈夫なことは伝えなくてもいいか』なんて、勝手に取捨してきたときもある。
でも…

(好きな人の言葉って…全部聞きたい、覚えていたい…)

そう思ったのは初めてのことだった。
それと同時に補聴器を最短で直すルートを考えるものの、修理以外の道は再購入しかなくため息が漏れてしまう。

(できれ修理…それでも時間はかかるだろうし、昔の補聴器か代替えの安い補聴器を買うか…それか新品?)

悩んでるうちに車はアパートに到着してしまい、私は助手席のドアを開けて降りた。
同時に黒崎さんも降りてくる。

「今日は…寝れないかもしれないけど寝るんだよ。脳が興奮してて寝れない可能性もあるから…」

黒崎さんは、私のことを心配しながらそう説明してくれた。
慣れないショッピングモールでの原稿の受け渡しにくわえ、火事に救助、それに救急搬送までされた私の脳は、きっと興奮しているのだろう。

「大丈夫です。寝れなかったら…何か本でも読みますし、明日は病院を再受診しないといけないので、そのときに相談もしますし…」

そう答えると、黒崎さんは私の体をふわっと抱きしめてきた。

「へっ…?」
「…メール見たとき、心臓が止まるかと思った…。返事も来ないし、現場に到着するまでは火災の規模も分からなかったし…。救助されてる人の中を探したけど姿はないし…」

黒崎さんは、私を抱きしめながら何か喋っているようだった。
微かに感じる振動が、彼が何かを話している証拠だ。

「黒崎さん…?」

何を言っているのか確認しようとしたとき、彼は私を抱きしめたままほんの少しだけ手を緩めた。
その隙をついて上を向くと、黒崎さんは切ない顔をしながら私を見ていたのだ。

「あ…」

この瞬間、彼が何を言っていたのか、想像がついた。

(私を…心配している顔…)

火事は…私のせいではない。
でも、黒崎さんからのメールには気づけたはずだ。
ちゃんと見てなかった私が…彼にこんな顔をさせてしまっていたのだ。

「ごめんなさい…メールに気づけなくて…何も聞こえなくて…」

そう言ったとき、黒崎さんは私の両頬をそっと包み込んだ。

「謝らなくていいんだよ。大変だったんだから…」

その言葉に、私は素直に安心することはできなかった。
心配をかけたくない思いと、自分でできることがまだあったはずだという考えが頭の中で渦巻いている。

「……」
「…その顔、何かいらないこと考えてる?」
「え…?」
「気にしなくていいこと考えてる顔してる」
「―――っ」

バレてしまったことに思わず顔を背ける。
でも、私の顔は黒崎さんの両手に包まれているわけで、すぐにくぃっ…と、戻されてしまった。

「ふぁっ!?」
「…聞こえてはいないけど、『見えて』るよね?よく聞いて」
「?」

一体何を言うのかと思ったそのとき―――

「…無事でよかった、本当に」
「!!」
「何かあったら、真っ先に連絡して?必ず…助けに行くから」

私の目から涙が溢れる。
それは、黒崎さんの言葉に安心したからか、それとも違う理由があるのかはわからない。

「ありがとう…ございます…」

その言葉を、ちゃんと音で聞きたいと思った私の目からぽろぽろと涙が零れた。

「名前で呼びたいところだけど…補聴器が直ってからにしようか」
「!!わ…私も呼びたい…です…」
「じゃあ、その日を楽しみに」

そう言うと、黒崎さんはそっと顔を近づけてきた。
唇が触れるか触れないかの距離まで近づいてきて、軽く…ほんとに軽く唇を重ねた。

「…おやすみ、しっかり休んで」

黒崎さんは車に乗り込み、帰っていく。
私はというと、唇を手で軽く触れ、さっきの出来事を思い返していた。

(キス…?)

あまりにも優しくて、怖がるようなキス。
黒崎さんの気持ちが溢れているようで、途端に顔が熱くなる。

(~~~~っ。火事で眠れないどころじゃないよぉ…)

このあと家に帰った私は、しばらくごろごろしながら余韻に浸ったのだった。

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