溺愛モードな警察官彼氏はチョコレートより甘い!?

すずなり。

文字の大きさ
3 / 35

変化。

しおりを挟む
ーーーーー



翌朝、いつも通り4時に家を出た私は交番が視界に入った時にぎょっとした。

交番に・・・電気がついていたのだ。


(まさか・・・)


歩きながらゆっくり交番に近づいていくと、交番の前に・・・近衛さんが立っていたのだ。


「!!・・・お、おはようございます・・・?」


そう聞くと近衛さんは帽子のつばに手をあて、敬礼のポーズをとった。


「おはようございます。いってらっしゃい。」

「い・・いい・・・いってきます・・・。」


慣れない挨拶に戸惑いながら、私は交番前を通過した。


(昨日の夜からずっと働いてたのかな・・・)


24時間体制であると聞いたことがある警察官のお仕事。

交代制だとは思うけど、夜中も仕事するのは大変なことだ。


(・・・私も仕事頑張ろ。)


そう思って仕事場に向かった私だったけど、まさかの帰りにも近衛さんは交番に立っていたのだ。

『お疲れ様です』と言われ、戸惑いながらも頭を下げる。

そしてまた次の日の朝も近衛さんは立っていて、私に挨拶をしてくれたのだ。


(いやいやいや・・・!あの人一体いつ休んでるの!?)


仕事場でチョコレートを型に流し込みながら、私は近衛さんのことを考えていた。

身分証明を求められてから3日の時間が流れたけど朝4時と夜23時半に交番に立ってることに疑問しかない。

毎日出勤することは法で禁じられてるからできないとしても、もう3日もずっといるのだ。


(明日はいないよね・・・?てか、明日いたとしても明後日はいないはず・・・。)


異物混入を防ぐために、チョコを作ってる間は私は一言も喋らない。

髪の毛も落ちないようにしっかりとバンダナキャップをかぶってマスクもしてあるけど、加工が全て終わるまで喋らないことにしてるのだ。

だから頭の中で悶々と考えながら作っていた。


(何だろう・・もしかして夜とか明け方に不審者が出たとか・・・、それで交番の前に立ってるとか・・!?)


連日見回りをする警察官がいた場合、その近くで『何かが起こった』と考えるのが普通だ。

空き巣や不審者なんかがいい例だ。


(うちは盗まれるようなものは何もないけど・・・不審者だったら困るなぁ・・。突然後ろから刺されたりとか嫌だし・・・。)


今度話すような機会があれば聞いてみようと思いながら、私は型に流し込んだチョコレートを冷蔵庫に入れていったのだった。




ーーーーー



凜華がチョコレートを作ってるとき、交番では俺、近衛と三橋が書類仕事をしながら雑談をしていた。


「近衛くん、この交番に配属されてから随分張り切ってるねぇ。あの女の子が気になるのかい?」


そう言われ、俺はペンを止めた。


「・・・気になるというか、人通りが少ない時間に出勤退勤してるみたいなんで危ないかなと。」


幼い顔立ちに危険を感じたのだ。

不審者に狙われるんじゃないか・・・と。


「まぁ、あんなに幼い顔立ちの子が夜中とか朝に歩いてたら声をかけにいく奴は出てきそうだけどねぇ・・・。」

「自分が出勤してるときは見守ろうかと思います。未然に防げるのが一番ですから。」

「うん、そうだね。・・・ところでうちの子の話、聞いてくれる?」


三橋さんは俺よりだいぶ年上の人だ。

御年50だそうで、娘さんがいる。

そして時々その娘さんの話を俺に持ち掛けてくるのだ。

面倒だとは思わないけど、娘を溺愛しすぎてるのか少々話が重いのが難点だ。


「どうしたんですか?」

「実はさー・・・この前初めて『個展』を開いたんだよ。」

「『個展』?・・・あ、確か絵描きさんでしたっけ、娘さん。」


幼いころから絵を描くことに長けていたという三橋さんの娘さん。

『絵で生きていくのだろう』とは聞いたことはあったけど、個展まで開けれる実力があるのは初耳だった。


「そうなんだよ、絵を描くのが好きだから個展を開いてみたんだけど・・・思いのほか絵が売れたみたいでさ。」


三橋さんの話によると、娘さんは販売型の個展を開き、用意していた商品は全て売れたのだとか。

初めての個展でそれだけ売れるということは名前も売れてるということ。

でも三橋さんはなんだか困ったような顔をしていたのだ。


「喜ばしいことなんじゃないんですか?」

「絵が売れたことはいいとは思ってるんだよ?婚約者も喜んでたみたいだし?」

「婚約されてるんですか?おめでとうございます。」

「結婚の約束をしてるだけだよ。・・・でもその個展が終わった後に婚約者の家でひと悶着あって・・・」

「?」


一体何があったのかと思ってると、三橋さんは俺に耳打ちをするようにして小声で話し始めた。


「うちの子・・・彩(あや)の婚約者、一条組若頭なんだよ。」


その言葉を聞き、俺は思わず大きな声を出してしまった。


「は・・!?」

「その個展のあとさ、侵入者が彩を人質に取って何かしたらしくて・・・キレた若頭が銃をね?だから後始末が大変でさー・・・。」


三橋さんの話では、若頭がぶっ放した銃弾は玄関の扉を突き抜けて外壁にめり込んだらしい。

その音を聞いて駆け付け、後処理をしたのだとか。


「いやいやいや・・その話、俺にしてよかったんですか?警察とヤクザが繋がってるって・・・・」


普通に考えたら繋がってることはおかしいことだ。

『もみ消しあってる』とか思われるかもしれない。

でも、三橋さんは俺が想像するより遥かに上の話をし始めた。


「繋がってるから大人しくさせてるんだよ。」

「それってどういう・・・」

「こちらとしてもあまり派手に動かれるのは厄介だろう?向こうもこちらに干渉はされたくない。」

「まぁ・・そうですね・・・。」

「ならイーブンになるようにお互いに調整すればいい。僕の場合は彩がちょっと特殊でさ、誘拐とかざらにあったし・・・若頭に助けてもらってることも多いんだよ。」


なんでも娘さんが小さい頃はしょっちゅう誘拐されていたのだとか。

その度に救出してきたけど、それも一個人で警察を動かすのは至難の業。

三橋さんが警官だからできたことだけど、事が起こらないと警察は動けない。

だから守ってもらうつもりで一条組の本家の隣に家を買って引っ越したらしいのだ。


「大胆ですね・・・・」

「ははっ、誉め言葉と受け取っとこう。・・・彼は高利貸しをしてるからさ、貸した金の回収の為に債務者をよく船に乗せるんだよ。それが僕たちにしわ寄せでやってくる。これはわかるね?」

「行方不明者ですね?」

「そう。だから金利を下げさせるために彩を・・・うちの娘の絵の売り上げを全て差し出してる。まぁ、彩も彼もお互いを想ってるからさ。」

「なるほど・・・。」


ヤクザと繋がってるのはいささか頂けない気がするけど、二人が愛し合ってるのなら口出しはできない。

そういうのに・・・憧れたりもする自分がいる。


「お互いに有名人が家族にいると大変だね?『近衛くん』?」

「!・・・まぁ、そうですね。」


うちの事情を知ってそうな口ぶりに一瞬背筋が冷えた俺だったけど、事務仕事を再開させた。

でも三橋さんの言葉に、俺の頭の中は『過去のこと』が渦巻いてしまってる。


(・・・『お互いに有名人が家族にいると』・・・か。)


うちの家族は少し複雑だった。

父と母、俺と妹の4人家族だけど、家族が家に揃うことがない家庭だったのだ。

父は有名なチェロ奏者、母はオペラ歌手。

世界を股に掛ける二人は日本国内にいることが珍しいくらいで、基本的に海外を飛び回っていた。

俺と妹が幼いときは連れまわされたものだけど、進学を重ねるうちにそれも難しくなってきて俺たちは日本に残ることに。

そして妹の高校進学が決まったと同時に俺はこの交番への配属が決まり、妹とはお互いに一人暮らしをすることになったのだ。

妹は実家、俺はマンションで。


(まぁ、一日あれば往復できる距離だから様子は見に行けるし・・・。琴葉(ことは)も俺に干渉されるのは好きじゃないみたいだし・・・。)


妹は年が離れていて、現在15歳。

思春期真っ只中で、扱いも難しい時期だ。

それに・・・


(琴葉が事故に巻き込まれた後からやる気が消えたんだよなー・・・。変に口出しもできないし・・・)


なかなか複雑な俺の家。

面倒だとは思わないけど、有名な両親たちにあやかろうと言い寄って来る女は後を絶たなかった。

そんなだからか、三橋さんの娘さんの婚約話は憧れたりもするのだ。


「・・・三橋さん。」

「なんだい?」

「俺の家の事情って・・・どこまで知ってるんですか?」


気になって聞くと、三橋さんは両肘を机に置き、手に顎を乗せて優しい笑みを俺に向けた。


「さぁ・・・どこまでかな?」

「----っ。」


『この人は敵に回してはいけない』と・・・強く思った瞬間だったのだった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

フェチらぶ〜再会した紳士な俺様社長にビジ婚を強いられたはずが、世界一幸せな愛され妻になりました〜

羽村 美海
恋愛
【※第17回らぶドロップス恋愛小説コンテスト最終選考の結果が出たので再公開しました。改稿済みですが、キャラ名を一部変更しただけで内容に大きな変更はありません🙇‍♀️】 思い入れのあるレストランで婚約者に婚約破棄された挙げ句、式場のキャンセル料まで支払う羽目になった穂乃香。 帰りに立ち寄ったバーでしつこいナンパ男を撃退しようとカクテルをぶちまけるが、助けに入ってきた男の優れた見目に見蕩れてしまった穂乃香はそのまま意識を手放してしまう。 目を覚ますと、見目の優れた男とホテルにいるというテンプレ展開が待ち受けていたばかりか、紳士だとばかり思っていた男からの予期せぬ変態発言により思いもよらない事態に……! 数ヶ月後、心機一転転職した穂乃香は、どういうわけか社長の第二秘書に抜擢される。 驚きを隠せない穂乃香の前に社長として現れたのは、なんと一夜を共にした、あの変態男だった。 しかも、穂乃香の醸し出す香りに一目惚れならぬ〝一嗅ぎ惚れ〟をしたという社長から、いきなりプロポーズされて、〝業務の一環としてのビジネス婚〟に仕方なく応じたはずが……、驚くほどの誠実さと優しさで頑なだった心を蕩かされ、甘い美声と香りに惑わされ、時折みせるギャップと強引さで熱く激しく翻弄されてーー 嗅覚に優れた紳士な俺様社長と男性不信な生真面目秘書の遺伝子レベルで惹かれ合う極上のラブロマンス! .。.:*・゜+.。.:*・゜+.。.:*・゜+.。.:*・゜ *竹野内奏(タケノウチカナタ)32歳・働きたい企業ランキングトップを独占する大手総合電機メーカー「竹野内グループ」の社長・海外帰りの超絶ハイスペックなイケメン御曹司・優れた嗅覚の持ち主 *葛城穂乃香(カツラギホノカ)27歳・男性不信の生真面目秘書・過去のトラウマから地味な装いを徹底している .。.:*・゜+.。.:*・゜+.。.:*・゜+.。.:*・゜ ※この作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません .。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚ ✧エブリスタ様にて先行初公開23.1.9✧

絶体絶命!!天敵天才外科医と一夜限りの過ち犯したら猛烈求愛されちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
絶体絶命!!天敵天才外科医と一夜限りの過ち犯したら猛烈求愛されちゃいました

ハイスぺ男子は私のおもちゃ ~聖人君子な彼の秘めた執着愛~

幸村真桜
恋愛
 平凡なぽっちゃりOL、細井璃湖はある日、社内の高嶺の花として有名な福永恭弥に食事に誘われる。 「君にしか相談できないことなんだ」  今まで接点のなかった福永のそんな言葉に好奇心を刺激され誘いにのるが……そこで知った秘密は璃湖の日常を変えてしまうものだった。 ※10/21 タイトルがしっくりこず、変更しました

男嫌いな王女と、帰ってきた筆頭魔術師様の『執着的指導』 ~魔道具は大人の玩具じゃありません~

花虎
恋愛
魔術大国カリューノスの現国王の末っ子である第一王女エレノアは、その見た目から妖精姫と呼ばれ、可愛がられていた。  だが、10歳の頃男の家庭教師に誘拐されかけたことをきっかけに大人の男嫌いとなってしまう。そんなエレノアの遊び相手として送り込まれた美少女がいた。……けれどその正体は、兄王子の親友だった。  エレノアは彼を気に入り、嫌がるのもかまわずいたずらまがいにちょっかいをかけていた。けれど、いつの間にか彼はエレノアの前から去り、エレノアも誘拐の恐ろしい記憶を封印すると共に少年を忘れていく。  そんなエレノアの前に、可愛がっていた男の子が八年越しに大人になって再び現れた。 「やっと、あなたに復讐できる」 歪んだ復讐心と執着で魔道具を使ってエレノアに快楽責めを仕掛けてくる美形の宮廷魔術師リアン。  彼の真意は一体どこにあるのか……わからないままエレノアは彼に惹かれていく。 過去の出来事で男嫌いとなり引きこもりになってしまった王女(18)×王女に執着するヤンデレ天才宮廷魔術師(21)のラブコメです。 ※ムーンライトノベルにも掲載しております。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

再婚相手は溺愛消防士!?二度と結婚しないと決めてたのに、どうしてこんなことに!

すずなり。
恋愛
都会を離れて田舎に引っ越してきた主人公『三井 那智(みつい なち)』。3歳になる娘の真那を連れての転居に不安を覚えるものの、地域の温かさに一安心する。歌が好きな那智は喘息を持っていて、それが一つの原因での引っ越しだったのだ。過疎な地域では子供はいないが、『新入居者への挨拶』として来てくれた消防署員に子供がいることを知り、次第に町になじんでいく。そんな中、真那の父親である那智の『元旦那』が現れて・・・・ 「那智、お前・・・稼いでるらしいじゃねーか。」 旦那と別れて真那と二人で生きていくためには収入が必要だ。幸いにも那智には仕事があったのだ。たくさん稼いでいるとは言えないけど、真那と二人で生きていく分には十分だった。でもその稼ぎに目をつけたのか、元旦那は復縁を迫ってきたのだ。 「いい加減にして!私は真那と二人で暮らしていくの!真那のことを何も気に留めないあなたとは暮らせるはずがないでしょう!?」 そんな会話を聞いた消防署員の『長谷川 圭吾』は、二人の間に割って入った。この町で真那と一緒に暮らす那智に惹かれていたのだ。 「俺が二人を守るんで。」 ※お話は全て想像の世界です。現実とは何の関係もございません。 ※メンタルが薄氷の為、コメントは受け付けることができません。申し訳ありません。 ただただすずなり。の世界を楽しんでいただけたら幸いです。 それではれっつごー。

処理中です...