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変化。
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ーーーーー
翌朝、いつも通り4時に家を出た私は交番が視界に入った時にぎょっとした。
交番に・・・電気がついていたのだ。
(まさか・・・)
歩きながらゆっくり交番に近づいていくと、交番の前に・・・近衛さんが立っていたのだ。
「!!・・・お、おはようございます・・・?」
そう聞くと近衛さんは帽子のつばに手をあて、敬礼のポーズをとった。
「おはようございます。いってらっしゃい。」
「い・・いい・・・いってきます・・・。」
慣れない挨拶に戸惑いながら、私は交番前を通過した。
(昨日の夜からずっと働いてたのかな・・・)
24時間体制であると聞いたことがある警察官のお仕事。
交代制だとは思うけど、夜中も仕事するのは大変なことだ。
(・・・私も仕事頑張ろ。)
そう思って仕事場に向かった私だったけど、まさかの帰りにも近衛さんは交番に立っていたのだ。
『お疲れ様です』と言われ、戸惑いながらも頭を下げる。
そしてまた次の日の朝も近衛さんは立っていて、私に挨拶をしてくれたのだ。
(いやいやいや・・・!あの人一体いつ休んでるの!?)
仕事場でチョコレートを型に流し込みながら、私は近衛さんのことを考えていた。
身分証明を求められてから3日の時間が流れたけど朝4時と夜23時半に交番に立ってることに疑問しかない。
毎日出勤することは法で禁じられてるからできないとしても、もう3日もずっといるのだ。
(明日はいないよね・・・?てか、明日いたとしても明後日はいないはず・・・。)
異物混入を防ぐために、チョコを作ってる間は私は一言も喋らない。
髪の毛も落ちないようにしっかりとバンダナキャップをかぶってマスクもしてあるけど、加工が全て終わるまで喋らないことにしてるのだ。
だから頭の中で悶々と考えながら作っていた。
(何だろう・・もしかして夜とか明け方に不審者が出たとか・・・、それで交番の前に立ってるとか・・!?)
連日見回りをする警察官がいた場合、その近くで『何かが起こった』と考えるのが普通だ。
空き巣や不審者なんかがいい例だ。
(うちは盗まれるようなものは何もないけど・・・不審者だったら困るなぁ・・。突然後ろから刺されたりとか嫌だし・・・。)
今度話すような機会があれば聞いてみようと思いながら、私は型に流し込んだチョコレートを冷蔵庫に入れていったのだった。
ーーーーー
凜華がチョコレートを作ってるとき、交番では俺、近衛と三橋が書類仕事をしながら雑談をしていた。
「近衛くん、この交番に配属されてから随分張り切ってるねぇ。あの女の子が気になるのかい?」
そう言われ、俺はペンを止めた。
「・・・気になるというか、人通りが少ない時間に出勤退勤してるみたいなんで危ないかなと。」
幼い顔立ちに危険を感じたのだ。
不審者に狙われるんじゃないか・・・と。
「まぁ、あんなに幼い顔立ちの子が夜中とか朝に歩いてたら声をかけにいく奴は出てきそうだけどねぇ・・・。」
「自分が出勤してるときは見守ろうかと思います。未然に防げるのが一番ですから。」
「うん、そうだね。・・・ところでうちの子の話、聞いてくれる?」
三橋さんは俺よりだいぶ年上の人だ。
御年50だそうで、娘さんがいる。
そして時々その娘さんの話を俺に持ち掛けてくるのだ。
面倒だとは思わないけど、娘を溺愛しすぎてるのか少々話が重いのが難点だ。
「どうしたんですか?」
「実はさー・・・この前初めて『個展』を開いたんだよ。」
「『個展』?・・・あ、確か絵描きさんでしたっけ、娘さん。」
幼いころから絵を描くことに長けていたという三橋さんの娘さん。
『絵で生きていくのだろう』とは聞いたことはあったけど、個展まで開けれる実力があるのは初耳だった。
「そうなんだよ、絵を描くのが好きだから個展を開いてみたんだけど・・・思いのほか絵が売れたみたいでさ。」
三橋さんの話によると、娘さんは販売型の個展を開き、用意していた商品は全て売れたのだとか。
初めての個展でそれだけ売れるということは名前も売れてるということ。
でも三橋さんはなんだか困ったような顔をしていたのだ。
「喜ばしいことなんじゃないんですか?」
「絵が売れたことはいいとは思ってるんだよ?婚約者も喜んでたみたいだし?」
「婚約されてるんですか?おめでとうございます。」
「結婚の約束をしてるだけだよ。・・・でもその個展が終わった後に婚約者の家でひと悶着あって・・・」
「?」
一体何があったのかと思ってると、三橋さんは俺に耳打ちをするようにして小声で話し始めた。
「うちの子・・・彩(あや)の婚約者、一条組若頭なんだよ。」
その言葉を聞き、俺は思わず大きな声を出してしまった。
「は・・!?」
「その個展のあとさ、侵入者が彩を人質に取って何かしたらしくて・・・キレた若頭が銃をね?だから後始末が大変でさー・・・。」
三橋さんの話では、若頭がぶっ放した銃弾は玄関の扉を突き抜けて外壁にめり込んだらしい。
その音を聞いて駆け付け、後処理をしたのだとか。
「いやいやいや・・その話、俺にしてよかったんですか?警察とヤクザが繋がってるって・・・・」
普通に考えたら繋がってることはおかしいことだ。
『もみ消しあってる』とか思われるかもしれない。
でも、三橋さんは俺が想像するより遥かに上の話をし始めた。
「繋がってるから大人しくさせてるんだよ。」
「それってどういう・・・」
「こちらとしてもあまり派手に動かれるのは厄介だろう?向こうもこちらに干渉はされたくない。」
「まぁ・・そうですね・・・。」
「ならイーブンになるようにお互いに調整すればいい。僕の場合は彩がちょっと特殊でさ、誘拐とかざらにあったし・・・若頭に助けてもらってることも多いんだよ。」
なんでも娘さんが小さい頃はしょっちゅう誘拐されていたのだとか。
その度に救出してきたけど、それも一個人で警察を動かすのは至難の業。
三橋さんが警官だからできたことだけど、事が起こらないと警察は動けない。
だから守ってもらうつもりで一条組の本家の隣に家を買って引っ越したらしいのだ。
「大胆ですね・・・・」
「ははっ、誉め言葉と受け取っとこう。・・・彼は高利貸しをしてるからさ、貸した金の回収の為に債務者をよく船に乗せるんだよ。それが僕たちにしわ寄せでやってくる。これはわかるね?」
「行方不明者ですね?」
「そう。だから金利を下げさせるために彩を・・・うちの娘の絵の売り上げを全て差し出してる。まぁ、彩も彼もお互いを想ってるからさ。」
「なるほど・・・。」
ヤクザと繋がってるのはいささか頂けない気がするけど、二人が愛し合ってるのなら口出しはできない。
そういうのに・・・憧れたりもする自分がいる。
「お互いに有名人が家族にいると大変だね?『近衛くん』?」
「!・・・まぁ、そうですね。」
うちの事情を知ってそうな口ぶりに一瞬背筋が冷えた俺だったけど、事務仕事を再開させた。
でも三橋さんの言葉に、俺の頭の中は『過去のこと』が渦巻いてしまってる。
(・・・『お互いに有名人が家族にいると』・・・か。)
うちの家族は少し複雑だった。
父と母、俺と妹の4人家族だけど、家族が家に揃うことがない家庭だったのだ。
父は有名なチェロ奏者、母はオペラ歌手。
世界を股に掛ける二人は日本国内にいることが珍しいくらいで、基本的に海外を飛び回っていた。
俺と妹が幼いときは連れまわされたものだけど、進学を重ねるうちにそれも難しくなってきて俺たちは日本に残ることに。
そして妹の高校進学が決まったと同時に俺はこの交番への配属が決まり、妹とはお互いに一人暮らしをすることになったのだ。
妹は実家、俺はマンションで。
(まぁ、一日あれば往復できる距離だから様子は見に行けるし・・・。琴葉(ことは)も俺に干渉されるのは好きじゃないみたいだし・・・。)
妹は年が離れていて、現在15歳。
思春期真っ只中で、扱いも難しい時期だ。
それに・・・
(琴葉が事故に巻き込まれた後からやる気が消えたんだよなー・・・。変に口出しもできないし・・・)
なかなか複雑な俺の家。
面倒だとは思わないけど、有名な両親たちにあやかろうと言い寄って来る女は後を絶たなかった。
そんなだからか、三橋さんの娘さんの婚約話は憧れたりもするのだ。
「・・・三橋さん。」
「なんだい?」
「俺の家の事情って・・・どこまで知ってるんですか?」
気になって聞くと、三橋さんは両肘を机に置き、手に顎を乗せて優しい笑みを俺に向けた。
「さぁ・・・どこまでかな?」
「----っ。」
『この人は敵に回してはいけない』と・・・強く思った瞬間だったのだった。
翌朝、いつも通り4時に家を出た私は交番が視界に入った時にぎょっとした。
交番に・・・電気がついていたのだ。
(まさか・・・)
歩きながらゆっくり交番に近づいていくと、交番の前に・・・近衛さんが立っていたのだ。
「!!・・・お、おはようございます・・・?」
そう聞くと近衛さんは帽子のつばに手をあて、敬礼のポーズをとった。
「おはようございます。いってらっしゃい。」
「い・・いい・・・いってきます・・・。」
慣れない挨拶に戸惑いながら、私は交番前を通過した。
(昨日の夜からずっと働いてたのかな・・・)
24時間体制であると聞いたことがある警察官のお仕事。
交代制だとは思うけど、夜中も仕事するのは大変なことだ。
(・・・私も仕事頑張ろ。)
そう思って仕事場に向かった私だったけど、まさかの帰りにも近衛さんは交番に立っていたのだ。
『お疲れ様です』と言われ、戸惑いながらも頭を下げる。
そしてまた次の日の朝も近衛さんは立っていて、私に挨拶をしてくれたのだ。
(いやいやいや・・・!あの人一体いつ休んでるの!?)
仕事場でチョコレートを型に流し込みながら、私は近衛さんのことを考えていた。
身分証明を求められてから3日の時間が流れたけど朝4時と夜23時半に交番に立ってることに疑問しかない。
毎日出勤することは法で禁じられてるからできないとしても、もう3日もずっといるのだ。
(明日はいないよね・・・?てか、明日いたとしても明後日はいないはず・・・。)
異物混入を防ぐために、チョコを作ってる間は私は一言も喋らない。
髪の毛も落ちないようにしっかりとバンダナキャップをかぶってマスクもしてあるけど、加工が全て終わるまで喋らないことにしてるのだ。
だから頭の中で悶々と考えながら作っていた。
(何だろう・・もしかして夜とか明け方に不審者が出たとか・・・、それで交番の前に立ってるとか・・!?)
連日見回りをする警察官がいた場合、その近くで『何かが起こった』と考えるのが普通だ。
空き巣や不審者なんかがいい例だ。
(うちは盗まれるようなものは何もないけど・・・不審者だったら困るなぁ・・。突然後ろから刺されたりとか嫌だし・・・。)
今度話すような機会があれば聞いてみようと思いながら、私は型に流し込んだチョコレートを冷蔵庫に入れていったのだった。
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凜華がチョコレートを作ってるとき、交番では俺、近衛と三橋が書類仕事をしながら雑談をしていた。
「近衛くん、この交番に配属されてから随分張り切ってるねぇ。あの女の子が気になるのかい?」
そう言われ、俺はペンを止めた。
「・・・気になるというか、人通りが少ない時間に出勤退勤してるみたいなんで危ないかなと。」
幼い顔立ちに危険を感じたのだ。
不審者に狙われるんじゃないか・・・と。
「まぁ、あんなに幼い顔立ちの子が夜中とか朝に歩いてたら声をかけにいく奴は出てきそうだけどねぇ・・・。」
「自分が出勤してるときは見守ろうかと思います。未然に防げるのが一番ですから。」
「うん、そうだね。・・・ところでうちの子の話、聞いてくれる?」
三橋さんは俺よりだいぶ年上の人だ。
御年50だそうで、娘さんがいる。
そして時々その娘さんの話を俺に持ち掛けてくるのだ。
面倒だとは思わないけど、娘を溺愛しすぎてるのか少々話が重いのが難点だ。
「どうしたんですか?」
「実はさー・・・この前初めて『個展』を開いたんだよ。」
「『個展』?・・・あ、確か絵描きさんでしたっけ、娘さん。」
幼いころから絵を描くことに長けていたという三橋さんの娘さん。
『絵で生きていくのだろう』とは聞いたことはあったけど、個展まで開けれる実力があるのは初耳だった。
「そうなんだよ、絵を描くのが好きだから個展を開いてみたんだけど・・・思いのほか絵が売れたみたいでさ。」
三橋さんの話によると、娘さんは販売型の個展を開き、用意していた商品は全て売れたのだとか。
初めての個展でそれだけ売れるということは名前も売れてるということ。
でも三橋さんはなんだか困ったような顔をしていたのだ。
「喜ばしいことなんじゃないんですか?」
「絵が売れたことはいいとは思ってるんだよ?婚約者も喜んでたみたいだし?」
「婚約されてるんですか?おめでとうございます。」
「結婚の約束をしてるだけだよ。・・・でもその個展が終わった後に婚約者の家でひと悶着あって・・・」
「?」
一体何があったのかと思ってると、三橋さんは俺に耳打ちをするようにして小声で話し始めた。
「うちの子・・・彩(あや)の婚約者、一条組若頭なんだよ。」
その言葉を聞き、俺は思わず大きな声を出してしまった。
「は・・!?」
「その個展のあとさ、侵入者が彩を人質に取って何かしたらしくて・・・キレた若頭が銃をね?だから後始末が大変でさー・・・。」
三橋さんの話では、若頭がぶっ放した銃弾は玄関の扉を突き抜けて外壁にめり込んだらしい。
その音を聞いて駆け付け、後処理をしたのだとか。
「いやいやいや・・その話、俺にしてよかったんですか?警察とヤクザが繋がってるって・・・・」
普通に考えたら繋がってることはおかしいことだ。
『もみ消しあってる』とか思われるかもしれない。
でも、三橋さんは俺が想像するより遥かに上の話をし始めた。
「繋がってるから大人しくさせてるんだよ。」
「それってどういう・・・」
「こちらとしてもあまり派手に動かれるのは厄介だろう?向こうもこちらに干渉はされたくない。」
「まぁ・・そうですね・・・。」
「ならイーブンになるようにお互いに調整すればいい。僕の場合は彩がちょっと特殊でさ、誘拐とかざらにあったし・・・若頭に助けてもらってることも多いんだよ。」
なんでも娘さんが小さい頃はしょっちゅう誘拐されていたのだとか。
その度に救出してきたけど、それも一個人で警察を動かすのは至難の業。
三橋さんが警官だからできたことだけど、事が起こらないと警察は動けない。
だから守ってもらうつもりで一条組の本家の隣に家を買って引っ越したらしいのだ。
「大胆ですね・・・・」
「ははっ、誉め言葉と受け取っとこう。・・・彼は高利貸しをしてるからさ、貸した金の回収の為に債務者をよく船に乗せるんだよ。それが僕たちにしわ寄せでやってくる。これはわかるね?」
「行方不明者ですね?」
「そう。だから金利を下げさせるために彩を・・・うちの娘の絵の売り上げを全て差し出してる。まぁ、彩も彼もお互いを想ってるからさ。」
「なるほど・・・。」
ヤクザと繋がってるのはいささか頂けない気がするけど、二人が愛し合ってるのなら口出しはできない。
そういうのに・・・憧れたりもする自分がいる。
「お互いに有名人が家族にいると大変だね?『近衛くん』?」
「!・・・まぁ、そうですね。」
うちの事情を知ってそうな口ぶりに一瞬背筋が冷えた俺だったけど、事務仕事を再開させた。
でも三橋さんの言葉に、俺の頭の中は『過去のこと』が渦巻いてしまってる。
(・・・『お互いに有名人が家族にいると』・・・か。)
うちの家族は少し複雑だった。
父と母、俺と妹の4人家族だけど、家族が家に揃うことがない家庭だったのだ。
父は有名なチェロ奏者、母はオペラ歌手。
世界を股に掛ける二人は日本国内にいることが珍しいくらいで、基本的に海外を飛び回っていた。
俺と妹が幼いときは連れまわされたものだけど、進学を重ねるうちにそれも難しくなってきて俺たちは日本に残ることに。
そして妹の高校進学が決まったと同時に俺はこの交番への配属が決まり、妹とはお互いに一人暮らしをすることになったのだ。
妹は実家、俺はマンションで。
(まぁ、一日あれば往復できる距離だから様子は見に行けるし・・・。琴葉(ことは)も俺に干渉されるのは好きじゃないみたいだし・・・。)
妹は年が離れていて、現在15歳。
思春期真っ只中で、扱いも難しい時期だ。
それに・・・
(琴葉が事故に巻き込まれた後からやる気が消えたんだよなー・・・。変に口出しもできないし・・・)
なかなか複雑な俺の家。
面倒だとは思わないけど、有名な両親たちにあやかろうと言い寄って来る女は後を絶たなかった。
そんなだからか、三橋さんの娘さんの婚約話は憧れたりもするのだ。
「・・・三橋さん。」
「なんだい?」
「俺の家の事情って・・・どこまで知ってるんですか?」
気になって聞くと、三橋さんは両肘を机に置き、手に顎を乗せて優しい笑みを俺に向けた。
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「----っ。」
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