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「トゥレイス!どうなった?」


空を飛んできた3人は、ふわっと地面に着地した。


「あぁ、ステラは今日一緒にピストニアに行くことになった。ただそれはちょっと行くだけで、ステラが『森に帰る』と言ったらすぐにここまで送ることになってる。タウの方は?」

「王には報告した。『残念だ』と言っておられたよ。」

「そうか。」

「あとはハマル様の家族として女の子がいたことも報告済みだ。とりあえず国に来たときは登録をしてもらうようにとのことだ。」

「あぁ。」

「一般の登録口じゃなくて城でできるように手配してくれるらしい。」

「そのほうがいいだろうな。」


よくわからない話が私の前でされたあと、レイスさんがくるっと振り返って私を見た。


「さてステラ?この前みたいに森を駆け抜けるのと空を飛ぶの、どっちがいい?」

「へっ・・?」

「高いところは平気かな?」

「た・・たぶん平気だと・・・・」


前世でも高いところはさほど苦手ではなかった。

そう考えたら平気なはずだけど、この世界で木より高いところは行ったことがないのだ。


「じゃあ飛ぼうか!」


にこっと笑ったレイスさんは自分の黒いマントを取り、私にかぶせてくれた。

そして私の背中に右手を添え、左手を膝裏にあてて私を姫炊きで抱え上げた。


「ひぁぁっ・・!?」

「落とす気はないけど、できるだけ暴れたりしないでね?」


そう言った瞬間、レイスさんの体がふわっと浮いた。

そしてゆっくり上昇していき、森の木のてっぺんの上に出た。


「すごい・・・。」


私の眼下に広がってる森の姿に、私は言葉を失っていた。

見渡す限りある緑の木は終わりがあるのか疑問に思うくらい続いている。

川が流れてるはずなのにその姿は見えず、ただただ木が覆い茂ってるのだ。


「ステラ、あっちがピストニアだよ。」


レイスさんが体の向きを変え、国がある方を教えてくれた。

目を凝らしてじっと見ると、遥か遠くに微かに何かがあるように見える。


「怖くなったら言って?下に降りるから。」

「は・・はい・・・。」

「じゃ、行こうか。」


そう言ってレイスさんはゆっくりと進み始めた。

この前と同じように、少しずつ加速していくのを肌で感じる。


「あの・・・どれくらいで着くんですか?」


遥か遠くに見えるような気がするところまで随分と距離がありそうだった。

一つの大きな国が薄っすら見えるくらいだったら相当遠いことが考えられる。


「そうだな。息ができるように風を調整しながら飛ぶと・・・2時間くらいか?」

「にっ・・!?」

「結構距離あるからな。ここから国の入口までだったら・・・500キロくらいあるんじゃないか?」

「500!?・・・え、500キロを2時間って・・・新幹線より速いんじゃ・・・」

「シンカンセン・・・?」

「あ・・・いや、なんでもないです・・・。」


落ちたら即死状態の時速250キロで空を飛んでることに恐怖を感じながら、ピストニアに着くまでの時間、耐え忍ぶことになってしまったのだった。




ーーーーー



「ステラ、見えてきたぞ。」


2時間もの間レイスさんに抱かれて空にいた私は、落ちる恐怖からほぼ目を閉じていた。

レイスさんに声をかけられて視線を前に向けると、大きな街が見えてきたのだ。


「わ・・・すごい・・・」

「本当なら国の入口で手続きしないといけないんだがこのまま城まで行く。そこでステラの登録をしよう。」


そう言ってレイスさんは空を飛んだまま、国の中に入った。

私に見えるようにか少し低めに飛んでくれ、ピストニアの国の中がよく見えた。

眼下に広がるのは町並みで、家やお店が立ち並んでるのが見える。

そのお店にはたくさん人がいて、手に荷物を持っていたり、何かを食べながら歩いてる人もいるのだ。


「気になる店でもあるか?」

「そうですね・・・。」

「じゃああとで行こう。森での生活に必要なものがあれば買ってやるから言えよ?」

「それは申し訳ないんで・・・見るだけで充分です・・。」


そんな会話をしたとき、レイスさんは少し上昇した。

視線の先にあるのは・・・大きなお城だ。


「もう着くぞ。」


そう言ってレイスさんはお城の敷地内に入った。

大きな中庭のような場所に降り立ち、私の足をそっと地面につけてくれた。


「わっ・・・。」


2時間も空を飛んでいたからか私の足は平衡感覚を失っていた。

思うように立てない体を、そっとレイスさんが支えてくれた。


「大丈夫か?」

「だいじょうぶ・・です・・。」


感覚を取り戻そうとその場で軽く足踏みをしてると、パタパタと走ってきた人がいた。

女の人で、よくあるメイド服を身にまとってる。


「トゥレイス様、タウ様、ミンカル様、アダーラ様、おかえりなさいませ。」


そう言ってこの人はピシッときれいな姿勢で頭を下げた。


「ただいま。」

「そちらの方はお客様でしょうか?」

「そうなんだよ。王に謁見するから準備してくれる?」

「かしこまりました。ではどうぞこちらに。」


レイスさんは私の肩をぽんぽんっと叩いた。


「ステラ、この侍女についっていって?」

「へ・・?」

「かわいい服がたくさんあるところに連れて行ってくれるから、好きな服選んでおいで?」

「・・・え!?」

「ほらほら、行った行った。」


ぐいぐいと体を押しやられ、私は侍女さんに手を取られた。


「参りましょう。」

「行ってらっしゃい、ステラ。またあとで。」

「え・・!?ちょ・・え!?」


よくわからないまま私はレイスさんと別れ、侍女さんに背中を支えられながらお城の中に入らされてしまった。




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