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最終話。

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アイビーがニゲラのもとに行った翌日の昼前。

朝起きてからしーんとした部屋をずっと見まわしていたシャガがぼそっと呟いた。


「もうアイビーの飯も食えないな・・・。」


それでも時間は過ぎて腹は減る。


「飯にするか。」


シャガが昼ご飯の準備をするために立ち上がった時、家の玄関の戸が勢いよく開いた。


「とうさんっ!おはよっ!!」


驚いて目線を戸にやると、そこにはアイビーがいた。

走ってきたのか、肩で息をしてる。


「え・・・アイビー・・・!?」

「ただいまっ。そろそろご飯でしょ?私作るから待っててー。」


そう言って家に入ってきて、飯の準備をし始めた。

置いてあった野菜を取り、手際よく切って行く。


「おま・・・ニゲラは!?」

「え?仕事だよ?お弁当持って行ったよ?」

「え・・・」

「とうさん一人だし、私も一人だし?一緒に食べようと思って。・・・あ、もしかしてもう食べた?」

「いや、まだだけど・・・。」

「なら待っててー。お弁当の残りは持って来たからお汁だけ作るからー。」


トントンと野菜を切って行くいい音が部屋に響く。

昨日なくなったと思った光は戻ってきて、部屋の中を明るく照らしてる。


(・・・娘って・・いいな。)


昨日とは真反対の感情だ。

いなくなれば寂しいし、側にいればそれだけで嬉しい。

何もしなくていいのに、俺のために飯を作ってくれてる。

その光景は見慣れたものだったけど、改めていいものだと思った。


「?・・・どうしたの?じっと見て・・・。」

「なんでもない。ほら、どれ運んだらいいんだ?」

「持ってきた鞄のやつ出してー。」

「わかった。」


アイビーはささっと作った汁を机に置いた。

俺はアイビーが作ってきたものを鞄から出して並べる。

向かい合うようにして座って・・・手を合わせた。


「アイビー、食べる前に言いたいことがある。」

「?・・・なに?」

「前も言ったけど・・・この世界に来てくれてありがとう。お前と出会えてほんとに幸せだ。」


前の世界で『死ぬ』なんて体験をして、この世界にアイビーは来た。

ゆっくりする時間なんてほとんどない中で、涼花は仕事も家のこともしていた。

俺も・・満たされた人生を送っていたかと言われたらちゃんとした答えは出せれないけど、それでもアイビーと出会えたことで変わったものもある。

できればアイビーも『幸せだ』と感じていて欲しい。


「・・・私も幸せだよ?拾ってくれてありがとう。とうさん。」


そう言ったアイビーは・・・昨日までのアイビーとは違うような気がした。

俺のもとを離れたからか・・・少し大人びた表情で笑ってる。

大人になったアイビーを手離したことにまた後悔を覚えながら口を開いた。


「・・・幸せならいいんだ。食べようか。」

「うんっ。」


こうやって、たまに来てくれたらそれでいい。

そう思いながら二人の時間を味わった。




ーーーーー



その日の夜。

ニゲラが帰ってくるのを本の部屋で待っていたアイビーは、背もたれにもなる大きいクッションにもたれて眠っていた。

足の上には3冊の本。

顔の上には開きっぱなしの本が乗ってる。


「・・・zzz。」


その様子を、仕事から帰ってきたニゲラが本の部屋の戸に手をつきながら見ていた。


「あーあー・・・。」


ニゲラは部屋に入り、アイビーの足の上に乗ってる本を取った。

それを棚に戻し、顔に乗ってる本に手をかけた。


「ふぁっ・・!?」

「あ、悪い・・・起こした?」


顔に乗っていた本を取るときに擦れたようで、アイビーの目が覚めた。

身体を起こして、両手で目を擦ってる。


「んー・・・。」

「ちょっと話があんだけど・・・。」


目を擦りながらアイビーは立ち上がった。

俺が取った本を手に取り、もとあった棚に戻しに行った。


「なんの話ー・・・?」


まだ寝ぼけてるのか、ふわふわした話し方をしながら聞いてきた。


「・・・ジニアのことだ。」


そう言った瞬間、アイビーの動きが止まった。

目を開いて・・・ゆっくり俺を見た。


「ジニア・・・?」

「今日、山向こうの町まで行ってたんだけど・・・そこでジニアのことを聞いたんだ。」


資料を貰うために向かった山向こうの町。

その町で懇意にしてくれてる人が、ジニアらしき人を見かけた話をくれた。

日持ちする食料や水を持てるだけ買って、さらに向こうにある山に向かって行ったことを。


「もう戻ってくるつもりはないだろう。それだけ言っておきたくて・・・。」


アイビーにとってはきっと、辛い記憶なはずだ。

少しでも安心させたくて話した方がいいと思った。


「・・・そうなんだ。」


アイビーは驚いた顔を見せたけど、すぐににこっと笑った。

まるであまり気にしてないかのように。


「大丈夫か?」

「え?なにが?」

「なにがって・・・ジニアのこと・・・」


そう言うと両手をぶんぶんと振って笑顔で答えた。


「大丈夫だよ?だって・・・」


アイビーは振っていた手を下ろして、少し俯いた。

それが不安をかき立て始める。


「『だって』?」


俯いたのは一瞬で、すぐに顔を上げた。

その顔はこれでもかというくらい幸せに満ち溢れた表情をしていて・・・目を閉じてふにゃっと笑いながら答えた。


「・・・ニゲラがいるもんっ。」

「---っ!!」


俺はその笑顔に、手でデコを押さえて一呼吸置いた。


(かわいすぎるだろ・・・。)


もとから可愛いのは分かってたけど、俺のことを想いながら見せた笑顔は格別だった。

想い想われることがこんなに幸せな気持ちになるなんて・・・


「そんな顔で俺のこと見て・・・どうなるかわかってんのか?」

「・・・へ?」


棚の側で立っていたアイビーをぎゅっと抱きしめ、手で顎をすくった。

そのまま真上を向かせて口を塞ぐ。



ちゅ・・・



「んぅっ・・!」

「たとえジニアがまたお前を攫おうとしても・・・俺が守るよ。お前の命が終わる日まで。」

「!!・・・ふふ。」





ーーーーー






もしも、今の生活に嫌気がさしていても、何かのきっかけでガラッと変わることがあるかもしれない。

一つの出来事に対して、考え方を変えるだけでプラスにもマイナスにもなる。

異世界に転生することは私にとっての大きな・・・大きすぎる転機だった。

でも、もしかしたら異世界に来なくても・・・転機はあったのかもしれない。

そのきっかけは、大きいものなのか小さいものなのかはわからない。

でもきっと、そこら中に転機のきっかけは落ちてる。

それを・・・それのどれを掴むかは自分次第だ。





「あ、アイビー?」

「ん?なぁに?」

「早く子供ができるといいな。」

「・・・・。」

「アイビー?」

「・・・・ど・・努力します・・。」




ーーーーーおわり。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

最初に思っていた話とはがらっと変わってしまったのですが・・・すみません、精進します。

またお会いできる日を楽しみに。すずなり。


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