恋とはすなわち

冴華

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群青

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うだるように暑い夏の放課後。
もうすぐ夏休みということもありクラスメイトたちはテンションが高い。

放課後どこに行く、だとか
早く帰ってバイト行かなきゃ、だとか
いかにも高校生らしい会話が繰り広げられている。

そんなキラキラした雰囲気の中、それをぶち壊すかのように机に突っ伏している男がいる。

そう、俺だ。

今の俺には、キラキラした雰囲気には耐えられそうにない。
机に突っ伏しみんなが帰るのを待っている。

「隼人?何してるの?」
突然、俺を呼ぶ声が上から降ってくる。

俺が机に突っ伏す原因になった奴だ。

今一番会いたくなくて、会いたい奴だ。

「ねえ、隼人?寝てるの?大丈夫?」

くそっ。俺の気も知らないで、お構いなしに話しかけてくる。
奴の名前はヨシノ。
俺の幼なじみでもあり、初恋の人。
親同士が仲が良く、俺らも当然仲良しだ。
小さい頃に交わした
「大人になったら結婚しようね」
というありきたりな約束も、俺は信じていた。
それなのに……。

「ヨシノ!帰ろうぜ!」
教室のドアからおれの最愛の人を呼ぶ声。

「うん!待ってね。じゃあね。隼人。具合が悪いなら早く帰って寝なよ。」
そう言ってサッサと、その声の主と帰ってしまうヨシノ。

そう。ヨシノに彼氏ができたのだ。
彼氏ができたその日、俺に嬉しそうに打ち明けてきたヨシノ。
皮肉な物で彼女にとって俺は親友という位置づけだったようだ。

俺は突っ伏していた顔をあげ教室の窓をソッと覗く。
そこには幸せそうに笑うヨシノと彼氏の姿があった。
どんどん遠くなる彼女。

「さよなら。」
そう呟く俺。

女々しい俺の片想いが華麗に散っていく様を見ててくれ。
好きな子に、好きだと伝える勇気もない俺の。

青春は青い春と書くが、青なんかじゃない。

ここは深い海の中。まるで群青の世界だ。
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