13 / 42
皇女と元婚約者は幼馴染
振り返ると、そこに立っていたのは、夜空色のタキシードを着た驚くほど整った顔立ちの青年だった。その瞳は深く澄み、まっすぐにこちらを見つめている。周りの令嬢たちは、ため息混じりに彼を見つめていた。
「あなたは……?」
「失礼。レオポルトと申します」
レオポルト。その名を聞いて、私は息をのんだ。その人物は、皇太子レオポルト殿下だった。
「まあ、殿下……! ご挨拶が遅れ、申し訳ございません」
私が慌ててカーテシーをすると、殿下は楽しそうに笑って私の手を取った。
「どうか、そんなに固くならないで。聡明で、美しいご令嬢」
私たちは、ワルツの輪の中へと滑り込んだ。殿下は驚くほど踊りが上手で、私は軽やかにステップを踏むことができた。
「ハリントン伯爵家での一件……大変でしたね」
「ええ」
「あなたのような魅力的な方と、貧乏だと言う理由で婚約を破棄するなんて考えられない」
「……はい……悲しかったです」
レオポルトは私に同情的な視線を向ける。私がクロイツベルクの血筋であり、当主が母だということを知らないような口ぶりだった。そう言えば、帝国では侯爵のカール叔父様もクロイツベルクの血筋だということは隠していると話していた。私は表向き、貧乏男爵家の娘として、レオポルトの話に合わせた。
「顔合わせの時に、散々ひどい事を言われたと聞いた」
「……そうです……母と一緒に苦しい思いをしました」
レオポルトは私の顔を見て、かわいそうだという顔をしていた。私と母が婚約の挨拶の際に、ハリントン伯爵家で不当な扱いを受けたことは伝わっているようだ。しかし、私がクロイツベルク家の娘であることは知られていなかった。このような情報管理も世界的な大富豪クロイツベルク家の力の一部なのかと、その影響力に私は衝撃を受けていた。
(皇太子でも、クロイツベルクについてはあまり詳しくないのね)
私たちは、踊りながらたくさんの話をした。経済のこと、文学のこと趣味などのこと。レオポルトは、私のどんな些細な意見にも、真剣に耳を傾けてくれた。私が貧乏な男爵令嬢という立場も関係なく、エリザベートという一人の人間として、私を見てくれているのが伝わってきた。
そして、私は、本当の恋に落ちたのかもしれないと、ぼんやりと思った。元婚約者のヴィクトルへの気持ちは、ただの淡い憧れのようなものだったと今なら思う。けれど、レオポルト殿下へのこの気持ちは、確かなもののような気がした。
「――お兄様、そのような貧しい家の者と話しているなんて、皇太子としての『品格』が損なわれますわ」
背後から響いた高めの声。その冷たい言葉に、周囲の令嬢たちが微かにざわめき、華やかな舞踏会の中で不協和音のように響いた。
「マリーヌ、失礼なことを言うな」
振り向くと、そこには多くの令嬢たちを取り巻きとして従えた皇女の姿があった。彼女の美しい顔と優雅な姿勢は、群衆の中でひときわ目を引いたが、性格には多くの問題がありそうだ。
(マリーヌ? あ!)
その瞬間、私はハリントン伯爵家で耳にした名前を思い出した。マリーヌ――元婚約者であるヴィクトルの幼馴染。そして彼女は、私が心惹かれることとなったレオポルト皇太子の妹でもあった。
「あなたは……?」
「失礼。レオポルトと申します」
レオポルト。その名を聞いて、私は息をのんだ。その人物は、皇太子レオポルト殿下だった。
「まあ、殿下……! ご挨拶が遅れ、申し訳ございません」
私が慌ててカーテシーをすると、殿下は楽しそうに笑って私の手を取った。
「どうか、そんなに固くならないで。聡明で、美しいご令嬢」
私たちは、ワルツの輪の中へと滑り込んだ。殿下は驚くほど踊りが上手で、私は軽やかにステップを踏むことができた。
「ハリントン伯爵家での一件……大変でしたね」
「ええ」
「あなたのような魅力的な方と、貧乏だと言う理由で婚約を破棄するなんて考えられない」
「……はい……悲しかったです」
レオポルトは私に同情的な視線を向ける。私がクロイツベルクの血筋であり、当主が母だということを知らないような口ぶりだった。そう言えば、帝国では侯爵のカール叔父様もクロイツベルクの血筋だということは隠していると話していた。私は表向き、貧乏男爵家の娘として、レオポルトの話に合わせた。
「顔合わせの時に、散々ひどい事を言われたと聞いた」
「……そうです……母と一緒に苦しい思いをしました」
レオポルトは私の顔を見て、かわいそうだという顔をしていた。私と母が婚約の挨拶の際に、ハリントン伯爵家で不当な扱いを受けたことは伝わっているようだ。しかし、私がクロイツベルク家の娘であることは知られていなかった。このような情報管理も世界的な大富豪クロイツベルク家の力の一部なのかと、その影響力に私は衝撃を受けていた。
(皇太子でも、クロイツベルクについてはあまり詳しくないのね)
私たちは、踊りながらたくさんの話をした。経済のこと、文学のこと趣味などのこと。レオポルトは、私のどんな些細な意見にも、真剣に耳を傾けてくれた。私が貧乏な男爵令嬢という立場も関係なく、エリザベートという一人の人間として、私を見てくれているのが伝わってきた。
そして、私は、本当の恋に落ちたのかもしれないと、ぼんやりと思った。元婚約者のヴィクトルへの気持ちは、ただの淡い憧れのようなものだったと今なら思う。けれど、レオポルト殿下へのこの気持ちは、確かなもののような気がした。
「――お兄様、そのような貧しい家の者と話しているなんて、皇太子としての『品格』が損なわれますわ」
背後から響いた高めの声。その冷たい言葉に、周囲の令嬢たちが微かにざわめき、華やかな舞踏会の中で不協和音のように響いた。
「マリーヌ、失礼なことを言うな」
振り向くと、そこには多くの令嬢たちを取り巻きとして従えた皇女の姿があった。彼女の美しい顔と優雅な姿勢は、群衆の中でひときわ目を引いたが、性格には多くの問題がありそうだ。
(マリーヌ? あ!)
その瞬間、私はハリントン伯爵家で耳にした名前を思い出した。マリーヌ――元婚約者であるヴィクトルの幼馴染。そして彼女は、私が心惹かれることとなったレオポルト皇太子の妹でもあった。
あなたにおすすめの小説
婚約者を妹に取られた私、幼馴染の〝氷の王子様〟に溺愛される日々
佐藤 美奈
恋愛
エリーゼ・ダグラス公爵家の令嬢は、フレックス・グリムベルク王子と婚約していた。二人の結婚は間近に迫り、すべてが順調に進んでいると思われた。しかし、その幸せは突然崩れ去る。妹のユリア・ダグラスが、フレックスの心を奪ってしまったのだ。婚約破棄の知らせが届くとき、エリーゼは絶望に打ちひしがれた。
「なぜ?」心の中で何度も繰り返した問いに、答えは見つからない。妹に取られたという嫉妬と、深い傷を負ったエリーゼが孤独に沈んでいた。そのとき、カイル・グリムベルク王子が現れる。
彼はエリーゼにとって、唯一の支えであり安らぎの源だった。学園で『氷の王子様』と呼ばれ、その冷徹な態度で周囲を震えさせているが、エリーゼには、その冷徹さとは対照的に、昔から変わらぬ温かい心で接してくれていた。
実は、エリーゼはフレックスとの婚約に苦しんでいた。彼は妹のユリアに似た我儘で気まぐれな性格で、内心では別れを望んでいた。しかし、それを言い出せなかった。
「奇遇ですね。私の婚約者と同じ名前だ」
もちもちほっぺ
恋愛
侯爵家の令嬢リリエット・クラウゼヴィッツは、伯爵家の嫡男クラウディオ・ヴェステンベルクと婚約する。しかし、クラウディオは婚約に反発し、彼女に冷淡な態度を取り続ける。
学園に入学しても、彼は周囲とはそつなく交流しながら、リリエットにだけは冷たいままだった。そんな折、クラウディオの妹セシルの誘いで茶会に参加し、そこで新たな交流を楽しむ。そして、ある子爵子息が立ち上げた商会の服をまとい、いつもとは違う姿で社交界に出席することになる。
その夜会でクラウディオは彼女を別人と勘違いし、初めて優しく接する。
冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。
もちもちほっぺ
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。
事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw
私を売女と呼んだあなたの元に戻るはずありませんよね?
ミィタソ
恋愛
アインナーズ伯爵家のレイナは、幼い頃からリリアナ・バイスター伯爵令嬢に陰湿ないじめを受けていた。
レイナには、親同士が決めた婚約者――アインス・ガルタード侯爵家がいる。
アインスは、その艶やかな黒髪と怪しい色気を放つ紫色の瞳から、令嬢の間では惑わしのアインス様と呼ばれるほど人気があった。
ある日、パーティに参加したレイナが一人になると、子爵家や男爵家の令嬢を引き連れたリリアナが現れ、レイナを貶めるような酷い言葉をいくつも投げかける。
そして、事故に見せかけるようにドレスの裾を踏みつけられたレイナは、転んでしまう。
上まで避けたスカートからは、美しい肌が見える。
「売女め、婚約は破棄させてもらう!」
醜い私は妹の恋人に騙され恥をかかされたので、好きな人と旅立つことにしました
つばめ
恋愛
幼い頃に妹により火傷をおわされた私はとても醜い。だから両親は妹ばかりをかわいがってきた。伯爵家の長女だけれど、こんな私に婿は来てくれないと思い、領地運営を手伝っている。
けれど婚約者を見つけるデェビュタントに参加できるのは今年が最後。どうしようか迷っていると、公爵家の次男の男性と出会い、火傷痕なんて気にしないで参加しようと誘われる。思い切って参加すると、その男性はなんと妹をエスコートしてきて……どうやら妹の恋人だったらしく、周りからお前ごときが略奪できると思ったのかと責められる。
会場から逃げ出し失意のどん底の私は、当てもなく王都をさ迷った。ぼろぼろになり路地裏にうずくまっていると、小さい頃に虐げられていたのをかばってくれた、商家の男性が現れて……
【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。
しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」
その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。
「了承しました」
ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。
(わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの)
そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。
(それに欲しいものは手に入れたわ)
壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。
(愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?)
エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。
「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」
類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。
だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。
今後は自分の力で頑張ってもらおう。
ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。
ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。
カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*)
表紙絵は猫絵師さんより(。・ω・。)ノ♡
諦めていた自由を手に入れた令嬢
しゃーりん
恋愛
公爵令嬢シャーロットは婚約者であるニコルソン王太子殿下に好きな令嬢がいることを知っている。
これまで二度、婚約解消を申し入れても国王夫妻に許してもらえなかったが、王子と隣国の皇女の婚約話を知り、三度目に婚約解消が許された。
実家からも逃げたいシャーロットは平民になりたいと願い、学園を卒業と同時に一人暮らしをするはずが、実家に知られて連れ戻されないよう、結婚することになってしまう。
自由を手に入れて、幸せな結婚まで手にするシャーロットのお話です。
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています