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第12話 継母と義妹の動揺
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主要な癌細胞(使用人)を切除したところで、いよいよ本体への攻撃を開始する。攻撃といっても、私は彼女たちを殴ったりはしない。ただ当たり前の管理を『厳格化』するだけだ。
昼下がり。予想通り、イザベルとローザが怒鳴り込んできた。
「セリーヌ! どういうことなの!?」
執務室のドアが乱暴に開けられる。ローザは半泣きで、イザベルは鬼の形相だった。
「フィリップがいないじゃない! 朝食が質素なオムレツだけなんて、どうなってるの!? 私のタルトは!?」
「ドロテアもいないわ! ドレスの着付けをさせようと思ったら、姿が見えないのよ! 誰が私の髪を結うの!?」
私は優雅に紅茶を口に運び、香りと温度を確かめるように一口だけ味わった。そして何事もなかったかのように、音を立てぬようカップをソーサーへ戻した。この紅茶は、新しく厨房に入れたリュシアンが淹れたものだ。美少年の誠実な味がする。
「お二人とも、ごきげんよう。騒がしいですね」
「ごきげんようですって!? 質問に答えなさい!」
「フィリップとドロテアなら、辞めましたわ」
私は落ち着いた声で告げた。パワハラ行為を行っていた料理長フィリップと、これに同調していたメイド長ドロテアが、すでに職を辞したことを伝えた。
「「はぁ!?」」
二人はほとんど同時に口を開き、言葉の出だしがぶつかった。驚いたように一瞬だけ間が空き、重なった声の余韻だけが気まずく残った。
「フィリップは食材の横領が発覚したので解雇。ドロテアは実家の事情で急遽退職です。二人とも、私には止める権利も義務もありませんでしたので」
「横領ですって? フィリップがそんなことするはずないじゃない!」
「証拠は全て揃っています。見ますか?」
私が分厚い帳簿を持ち上げると、イザベルはフンと鼻を鳴らして視線を逸らした。彼女は細かい数字を見ると頭痛がする体質だ。
「で、でもっ! じゃあ私のタルトはどうなるの!?」
「新しい料理人に作らせればいいでしょう。ただし、材料費はローザ、あなたのお小遣いから引かせてもらうわ」
「えっ……」
「当然でしょう? 今までフィリップが不正な会計処理で捻出していたけれど、それがなくなった以上、正規の手続きを踏んでもらいます。砂糖も卵もタダではありません」
「ひどい! お姉様のいじわる!」
「いじわるではなく、経済の勉強よ。……それと、継母様」
私はイザベルの方へ身体を向けた。
「ドロテアがいなくなったので、新しいメイド長を探さなければなりませんが、今の財政状況では高給取りのベテランは雇えません。当面は、若いメイドたちに交代で担当させます」
「冗談じゃないわ! あんな不慣れな娘たちに、私のドレスを触らせる気!?」
「でしたら、ご自分で着替えられてはいかがですか? 良い運動になりますよ」
「なっ……!」
「ああ、それと。来月の夜会用に注文されていた新しいドレスですが、キャンセルしておきました」
私は視線を合わせたまま、声の調子を変えることもなく、必要な事実だけを簡潔に伝えていた。イザベルの顔から表情がすっと消え、能面を被せたかのように固まった。驚きも怒りも読み取れず、ただ目だけが瞬きを忘れたようにこちらを映していた。
「……な、なんて?」
「キャンセルです。メゾンへの支払いが滞っており、これ以上のツケは認められないと通達がありましたので。借金を返済するまでは、新しいドレスの購入は凍結です」
「あ、ありえない……私は公爵夫人よ!? 流行遅れのドレスで夜会に出ろと言うの!?」
「誰もそんなことは言っていません。クローゼットには百着以上のドレスがあるでしょう? 一度しか袖を通していないものも山ほどあります。それを着回せば十分です」
論理の壁。彼女たちの『感情やわがまま』を、私は全て『予算と契約』という盾で弾き返す。これまでは、家族なのだからという甘えで押し通せてきた理屈が通用しない。その現実に、二人は初めて向き合わされ、どうしていいかわからず動揺していた。
昼下がり。予想通り、イザベルとローザが怒鳴り込んできた。
「セリーヌ! どういうことなの!?」
執務室のドアが乱暴に開けられる。ローザは半泣きで、イザベルは鬼の形相だった。
「フィリップがいないじゃない! 朝食が質素なオムレツだけなんて、どうなってるの!? 私のタルトは!?」
「ドロテアもいないわ! ドレスの着付けをさせようと思ったら、姿が見えないのよ! 誰が私の髪を結うの!?」
私は優雅に紅茶を口に運び、香りと温度を確かめるように一口だけ味わった。そして何事もなかったかのように、音を立てぬようカップをソーサーへ戻した。この紅茶は、新しく厨房に入れたリュシアンが淹れたものだ。美少年の誠実な味がする。
「お二人とも、ごきげんよう。騒がしいですね」
「ごきげんようですって!? 質問に答えなさい!」
「フィリップとドロテアなら、辞めましたわ」
私は落ち着いた声で告げた。パワハラ行為を行っていた料理長フィリップと、これに同調していたメイド長ドロテアが、すでに職を辞したことを伝えた。
「「はぁ!?」」
二人はほとんど同時に口を開き、言葉の出だしがぶつかった。驚いたように一瞬だけ間が空き、重なった声の余韻だけが気まずく残った。
「フィリップは食材の横領が発覚したので解雇。ドロテアは実家の事情で急遽退職です。二人とも、私には止める権利も義務もありませんでしたので」
「横領ですって? フィリップがそんなことするはずないじゃない!」
「証拠は全て揃っています。見ますか?」
私が分厚い帳簿を持ち上げると、イザベルはフンと鼻を鳴らして視線を逸らした。彼女は細かい数字を見ると頭痛がする体質だ。
「で、でもっ! じゃあ私のタルトはどうなるの!?」
「新しい料理人に作らせればいいでしょう。ただし、材料費はローザ、あなたのお小遣いから引かせてもらうわ」
「えっ……」
「当然でしょう? 今までフィリップが不正な会計処理で捻出していたけれど、それがなくなった以上、正規の手続きを踏んでもらいます。砂糖も卵もタダではありません」
「ひどい! お姉様のいじわる!」
「いじわるではなく、経済の勉強よ。……それと、継母様」
私はイザベルの方へ身体を向けた。
「ドロテアがいなくなったので、新しいメイド長を探さなければなりませんが、今の財政状況では高給取りのベテランは雇えません。当面は、若いメイドたちに交代で担当させます」
「冗談じゃないわ! あんな不慣れな娘たちに、私のドレスを触らせる気!?」
「でしたら、ご自分で着替えられてはいかがですか? 良い運動になりますよ」
「なっ……!」
「ああ、それと。来月の夜会用に注文されていた新しいドレスですが、キャンセルしておきました」
私は視線を合わせたまま、声の調子を変えることもなく、必要な事実だけを簡潔に伝えていた。イザベルの顔から表情がすっと消え、能面を被せたかのように固まった。驚きも怒りも読み取れず、ただ目だけが瞬きを忘れたようにこちらを映していた。
「……な、なんて?」
「キャンセルです。メゾンへの支払いが滞っており、これ以上のツケは認められないと通達がありましたので。借金を返済するまでは、新しいドレスの購入は凍結です」
「あ、ありえない……私は公爵夫人よ!? 流行遅れのドレスで夜会に出ろと言うの!?」
「誰もそんなことは言っていません。クローゼットには百着以上のドレスがあるでしょう? 一度しか袖を通していないものも山ほどあります。それを着回せば十分です」
論理の壁。彼女たちの『感情やわがまま』を、私は全て『予算と契約』という盾で弾き返す。これまでは、家族なのだからという甘えで押し通せてきた理屈が通用しない。その現実に、二人は初めて向き合わされ、どうしていいかわからず動揺していた。
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