妹に婚約者を奪われましたが、私の考えで家族まとめて終わりました。

佐藤 美奈

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第17話 慌ただしい商人

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エドガー様という最大の防波堤(だと思い込んでいたもの)が崩壊したことを、イザベルとローザはまだ知らない。その日の午後。『ざまぁ』の第二幕が上がった。

屋敷の玄関ホールが騒がしい。私は執務室を出ると、足音を立てないように階段を下り、途中で立ち止まってその光景を見下ろした。ホールには、見覚えのある顔ぶれがずらりと集まっている。

ふくよかな体格の男は、いつも派手な布や調度品を売りつけてくる高級服飾商会の主。その横で落ち着きなく指を動かしている痩せた男は宝石商だ。ほかにも数人、皆そろって同じように落ち着かない様子で立っている。

「なるほど……」

どれも、イザベルとローザが贔屓ひいきにしていた御用商人たちだ。帳簿も確認せず、笑顔ひとつで金を払ってくれる相手を失ったと気づき、慌てて押しかけてきたのだろう。私は小さく息を吐き、彼らの必死な表情を眺めていた。

「どういうことです! 奥様にお会いさせなさい!」
「支払いが滞っているなんて、そんなはずはないでしょう!」

彼らがジェラルドたち使用人に詰め寄っている。そこへ、騒ぎを聞きつけたイザベルとローザが現れた。

「何よ、騒々しいわね! 客人を玄関で待たせるなんて、教育が行き届いていないわよ!」

イザベルは明らかに使用人へ向けて声を荒らげ、苛立ちを隠そうともせず、音を立てて扇子を広げた。その様子を目の当たりにした商人たちは、ぴくりと肩を震わせた。怒りの矛先が自分たちに向いていないことは分かっていても、イザベルの顔を見るなり表情を強ばらせる。

次の瞬間、誰かが一歩前へ出たのを合図に、商人たちは一斉に動き出した。互いにぶつかり、足をもつれさせながら、我先にとイザベルのもとへ押し寄せた。

「おお、奥様! お待ちしておりました!」
「例のドレスの代金ですが、いつお支払いいただけますか?」
「先月の宝石のも、そろそろでして……」

イザベルは眉をひそめた。

「何言ってるの? 請求書はいつも通り、執務室のセリーヌに回しておきなさいよ。私がサインする手間を省いてあげてるんだから」

「い、いえ、それが……」

高級服飾商会の主で、ぷにぷにと揺れる腹を持つ男は、脂汗を拭きながら顔を引きつらせて声を震わせて言った。

「セリーヌ様から、『今後、当主の署名なき請求書は一切受け付けない』と通達が来まして……しかも、奥様名義の過去のツケについては『私は関知しないので、本人から直接回収せよ』と……」

「は、はああ!? いったいどういうことなの!?」
「え、ええっ!? な、何よそれ!」

イザベルとローザの甲高い声が、玄関ホールいっぱいに響き渡った。その瞬間を待っていたかのように、私は階段を降り始める。急ぐ気はない。一段ずつ、わざとゆっくりだ。

コツ、コツ、とヒールの音が床に響くたび、さっきまで騒がしかったホールが静かになっていく。誰かが息をのむ気配すら伝わってくる。やがて、使用人も商人も、イザベルとローザまでもが動きを止めた。気づけば、全員の視線が私に集まっている。さて、次は誰が怒られる番なのか? と言いたげな顔をしていた。

「あら、皆様お揃いで。商談ですか?」
「セリーヌ! これはどういうこと!? なぜ支払いを止めたの!」

イザベルが、怒りに任せて私に掴みかかろうと腕を伸ばす。しかし、私は軽やかに体をひねり、彼女の荒々しい動きを流すかのように、するりとかわした。

「継母様、突然掴みかかられるとは……いったい、何をお考えですか?」

その拍子にイザベルの腕は空を切り、思わずバランスを崩してよろよろと後ろに下がる。つまずきそうになりながら必死に立て直す彼女に、私は片手を軽く上げて冷静に告げた。
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