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第18話 商人は打算的
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「どういうこと、とは? 私が皆様にお伝えしたのは、当たり前の商習慣です。『買い物をした本人が代金を払う』平民の子供でも知っている理屈ですわ」
「私は公爵夫人よ! 家の金を使う権利があるわ!」
「権利には義務が伴います。そして、我が家の現在の財務状況において、貴女のその権利は凍結されました」
「ど、どうしてこうなるのよ!? ふ、ふざけるのもいい加減にして!」
「……高級服飾商会の主様」
私は、ぷにぷにと揺れる大きなお腹の男に向き直った。その瞬間、彼は思わずビクッと体を震わせ、バランスを崩して後ろにドサッと尻もちをつきそうになった。
「すみません……あの……えっと……ちょっと、待って……ください……」
慌てて両手を広げて踏ん張る姿は、倒れまいとする酔っ払いのようだった。男は体勢を立て直すのに手間取り、息が整うまでじっくり時間をかけていた。
「――貴方が先月納品したドレスの明細、拝見しましたわ。市場価格の三倍の値段がついていましたが、あれはどういう計算かしら?」
「そ、それは……最高級の生地を使っておりまして……特殊な刺繍も……」
「嘘はおやめなさい。貴方が継母様にマージン(賄賂)を渡すために、価格を水増ししているのは知っています。その証拠となる裏帳簿の写し、衛兵に提出してもよろしいのですよ?」
高級服飾商会の主の顔から血の気が一気に引いた。次の瞬間、膝が笑ったように崩れ落ち、そのまま床に額をこすりつけるようにして土下座する。
「も、申し訳ございません! お許しを! 出来心だったんです!」
その光景を目にして、イザベルの顔には計算が崩れた戸惑いと、隠しきれない焦りが浮かんでいた。自分と一緒に不正に手を染めていたはずの男が、抵抗する間もなく膝をつき、あっさりと白旗を上げたからだ。
「そ、そんな……嘘よ……私は知らないわ……」
「知らない? 継母様のサインが入った受領書もありますが」
私は、懐から紙片を取り出してヒラヒラと振った。
「さて、商人の皆様。この男と同じように、不正な価格操作や、私への報告なしに商品を納入した分については、一切支払いません。……ですが、『正当な取引』については、私が責任を持って支払い計画を立てましょう」
私は商人たちを見渡した。
「その代わり、条件があります。今後、イザベルおよびローザからの注文は、全て私の『事前承認印』があるもの以外、無効とします。もし彼女たちの個人的なツケを受けた場合、我が家は一切関知しません。……よろしいですね?」
「「「「「は、はい! 承知いたしました! セリーヌ様の仰せのままに!」」」」」
商人たちは、とても正直だった。彼らが大事にしているのは感情でも立場でもない。『現金』それだけだ。誰が本当に金を動かせる人間なのかを、彼らは一瞬で見抜いたのだろう。それまでイザベルとローザ、そして二人の取り巻きたちに注がれていた視線は、存在しなかったかのように消えた。
代わりに向けられたのは私だった。商人たちは一斉に体の向きを変え、最初から私こそが主だと分かっていたかのように深々と頭を下げる。
「そ、そんなの嘘よぉぉ! やだやだやだ! 聞いてない! こんなの聞いてないもん! 私のドレスはどうなるの!? あれ、昨日新しく仕立てたばかりなのよ!? 宝石だって! あの首飾りも指輪も、全部私のなのに! 返して! 返しなさいよぉ!」
ローザは、ついに立っていられなくなったのか、その場で床に座り込み、子どものように駄々をこね始めた。
「私は公爵夫人よ! 家の金を使う権利があるわ!」
「権利には義務が伴います。そして、我が家の現在の財務状況において、貴女のその権利は凍結されました」
「ど、どうしてこうなるのよ!? ふ、ふざけるのもいい加減にして!」
「……高級服飾商会の主様」
私は、ぷにぷにと揺れる大きなお腹の男に向き直った。その瞬間、彼は思わずビクッと体を震わせ、バランスを崩して後ろにドサッと尻もちをつきそうになった。
「すみません……あの……えっと……ちょっと、待って……ください……」
慌てて両手を広げて踏ん張る姿は、倒れまいとする酔っ払いのようだった。男は体勢を立て直すのに手間取り、息が整うまでじっくり時間をかけていた。
「――貴方が先月納品したドレスの明細、拝見しましたわ。市場価格の三倍の値段がついていましたが、あれはどういう計算かしら?」
「そ、それは……最高級の生地を使っておりまして……特殊な刺繍も……」
「嘘はおやめなさい。貴方が継母様にマージン(賄賂)を渡すために、価格を水増ししているのは知っています。その証拠となる裏帳簿の写し、衛兵に提出してもよろしいのですよ?」
高級服飾商会の主の顔から血の気が一気に引いた。次の瞬間、膝が笑ったように崩れ落ち、そのまま床に額をこすりつけるようにして土下座する。
「も、申し訳ございません! お許しを! 出来心だったんです!」
その光景を目にして、イザベルの顔には計算が崩れた戸惑いと、隠しきれない焦りが浮かんでいた。自分と一緒に不正に手を染めていたはずの男が、抵抗する間もなく膝をつき、あっさりと白旗を上げたからだ。
「そ、そんな……嘘よ……私は知らないわ……」
「知らない? 継母様のサインが入った受領書もありますが」
私は、懐から紙片を取り出してヒラヒラと振った。
「さて、商人の皆様。この男と同じように、不正な価格操作や、私への報告なしに商品を納入した分については、一切支払いません。……ですが、『正当な取引』については、私が責任を持って支払い計画を立てましょう」
私は商人たちを見渡した。
「その代わり、条件があります。今後、イザベルおよびローザからの注文は、全て私の『事前承認印』があるもの以外、無効とします。もし彼女たちの個人的なツケを受けた場合、我が家は一切関知しません。……よろしいですね?」
「「「「「は、はい! 承知いたしました! セリーヌ様の仰せのままに!」」」」」
商人たちは、とても正直だった。彼らが大事にしているのは感情でも立場でもない。『現金』それだけだ。誰が本当に金を動かせる人間なのかを、彼らは一瞬で見抜いたのだろう。それまでイザベルとローザ、そして二人の取り巻きたちに注がれていた視線は、存在しなかったかのように消えた。
代わりに向けられたのは私だった。商人たちは一斉に体の向きを変え、最初から私こそが主だと分かっていたかのように深々と頭を下げる。
「そ、そんなの嘘よぉぉ! やだやだやだ! 聞いてない! こんなの聞いてないもん! 私のドレスはどうなるの!? あれ、昨日新しく仕立てたばかりなのよ!? 宝石だって! あの首飾りも指輪も、全部私のなのに! 返して! 返しなさいよぉ!」
ローザは、ついに立っていられなくなったのか、その場で床に座り込み、子どものように駄々をこね始めた。
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