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第23話 推し活に騒ぐ母と娘
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害虫駆除(エドガー)の次は、屋敷内の環境改善確認だ。ダイニングルームへ向かうと、そこにはお通夜のような空気が漂っていた。継母のイザベルと娘のローザが、なんとも気まずそうに向き合っていた。
先日、商人たちが訪れたあの日、イザベルとローザが繰り広げた罵り合いは場外乱闘のようだった。その後も二人の間に和解の兆しは見られない。イザベルは戸惑いがにじみ出ているし、ローザは髪を何度も手で直しながら、心ここにあらずといった様子だ。お互いの頬には痛々しい痣が残り、腕には爪のひっかき傷がいくつも刻まれていた。
「……またこれぇ? 信じられない! タルトは? クロワッサンは? ソーセージもベーコンもないじゃない!」
ローザがスプーンを放り出した。彼女の着ているドレスは、昨年の流行遅れのものだ。フリルが少し寄れている。
テーブルには焼きたてのパンが並んでいるが、それは全粒粉で硬いタイプのものだ。噛み応えが強すぎて、あまり食べやすくないかもしれない。さらに、野菜たっぷりのスープがあるが、素朴で豪華さは全く感じられない。ゆで卵が一つ、見た目にはシンプルすぎて、ちょっと物足りなさを感じるかもしれない。
栄養的には悪くないが、地味で贅沢さに欠けるメニューだ。ローザにとっては、食べ物がもっと豪華であるべきだとか、特別感が欲しいと思っているのだろう。
「文句を言わないで、ローザ。食べたくないなら下げさせます」
私は、ローザの不満に軽く注意を促してから席に座った。
「今の我が家の『財政状況』では、これが限界です。むしろ、新鮮な野菜が食べられることに感謝すべきです」
「感謝ぁ? 私は公爵令嬢よ!? なんで平民みたいな食事をしなきゃいけないのよ!」
「訂正します。貴女は公爵令嬢ですが、稼ぎのない居候です。……嫌なら、ご自分のお小遣いで好きなものを買えばよろしいのでは?」
「お小遣いなんて、お姉様が減らしたせいで全然足りないじゃない! こんなんじゃもう遊べないわよ! ホストクラブにも行けないし、メンコン(メンズコンセプトカフェ)にも行けないじゃない! せっかく“推し活”してるのに、どうしてくれるのよ!」
ローザはそう言いながら、怒りをぶつけてきた。私からエドガー様を奪っておきながら、男遊びもかなり激しいことを私はよく知っている。
「お金がないから推しのイベントにも行けないし、どうして私がこんな目に遭わなきゃいけないのよ!」
ローザが推し活に夢中なのもわかっている。誰が好みだとか、イザベルとそのことを話しているのを何度か耳にしたことがある。ローザの影響で、今ではイザベルも推し活にはまっていて、どちらの推しがイケメンかを競うかのように、馬鹿げた会話で盛り上がっていた。
「わたくしも“推し活”に行けないのは、もう本当に残念でなりませんわ……だって、推しのイベントがあるたびに、心が躍るような気持ちになるのに、今はその楽しみも奪われてしまって……あんなに楽しみにしていたのに、どうしてこんなことになってしまったのか、ただただ悲しいですわ……」
イザベルが目に涙をためて、唇を震わせながら話す。まるで一生の楽しみが奪われたかのように、彼女が涙を流しながら落ち込んでいる姿は、私にはどうしてもおかしく感じられ、思わず笑いがこみ上げそうになるのを必死で堪えた。
(推し活ができないくらいでそんなに泣けるなんて、感受性が豊かで素晴らしいわ)
「――セリーヌ。あなた、私が昨日頼んだ新しい靴はどうなったの?」
しばらく、悲しさや悔しさで顔を伏せていたイザベルが、やっと涙を拭いながら顔を上げると不機嫌そうに口を開いた。彼女もまた、数年前の地味なドレスを着ている。
「却下しました。靴箱を確認しましたが、まだ履ける靴が五十足以上ありましたので」
「あれは全部デザインが古いのよ!」
「継母様、今も古いドレスをお召しになっているではありませんか? ローザと同じように」
「あなたが新しいドレスを買えなくしたのでしょう! こんなものじゃ、社交界で笑い者になるだけじゃない!」
「笑われるのが嫌なら、社交界に出なければよろしい。簡単な解決策です」
「なっ……!? よくも、わたくしに向かってそんな口を!」
イザベルが怒りに任せてグラスを倒そうと手を上げたが、私が冷ややかな視線を送ると、その手がピタリと止まった。グラスを割れば、その代金が彼女の『負債』として計上されることを学んだらしい。以前なら、そんなことを考えずに暴力的な行動に出ていたはずだが、少しは賢くなったようだ。
先日、商人たちが訪れたあの日、イザベルとローザが繰り広げた罵り合いは場外乱闘のようだった。その後も二人の間に和解の兆しは見られない。イザベルは戸惑いがにじみ出ているし、ローザは髪を何度も手で直しながら、心ここにあらずといった様子だ。お互いの頬には痛々しい痣が残り、腕には爪のひっかき傷がいくつも刻まれていた。
「……またこれぇ? 信じられない! タルトは? クロワッサンは? ソーセージもベーコンもないじゃない!」
ローザがスプーンを放り出した。彼女の着ているドレスは、昨年の流行遅れのものだ。フリルが少し寄れている。
テーブルには焼きたてのパンが並んでいるが、それは全粒粉で硬いタイプのものだ。噛み応えが強すぎて、あまり食べやすくないかもしれない。さらに、野菜たっぷりのスープがあるが、素朴で豪華さは全く感じられない。ゆで卵が一つ、見た目にはシンプルすぎて、ちょっと物足りなさを感じるかもしれない。
栄養的には悪くないが、地味で贅沢さに欠けるメニューだ。ローザにとっては、食べ物がもっと豪華であるべきだとか、特別感が欲しいと思っているのだろう。
「文句を言わないで、ローザ。食べたくないなら下げさせます」
私は、ローザの不満に軽く注意を促してから席に座った。
「今の我が家の『財政状況』では、これが限界です。むしろ、新鮮な野菜が食べられることに感謝すべきです」
「感謝ぁ? 私は公爵令嬢よ!? なんで平民みたいな食事をしなきゃいけないのよ!」
「訂正します。貴女は公爵令嬢ですが、稼ぎのない居候です。……嫌なら、ご自分のお小遣いで好きなものを買えばよろしいのでは?」
「お小遣いなんて、お姉様が減らしたせいで全然足りないじゃない! こんなんじゃもう遊べないわよ! ホストクラブにも行けないし、メンコン(メンズコンセプトカフェ)にも行けないじゃない! せっかく“推し活”してるのに、どうしてくれるのよ!」
ローザはそう言いながら、怒りをぶつけてきた。私からエドガー様を奪っておきながら、男遊びもかなり激しいことを私はよく知っている。
「お金がないから推しのイベントにも行けないし、どうして私がこんな目に遭わなきゃいけないのよ!」
ローザが推し活に夢中なのもわかっている。誰が好みだとか、イザベルとそのことを話しているのを何度か耳にしたことがある。ローザの影響で、今ではイザベルも推し活にはまっていて、どちらの推しがイケメンかを競うかのように、馬鹿げた会話で盛り上がっていた。
「わたくしも“推し活”に行けないのは、もう本当に残念でなりませんわ……だって、推しのイベントがあるたびに、心が躍るような気持ちになるのに、今はその楽しみも奪われてしまって……あんなに楽しみにしていたのに、どうしてこんなことになってしまったのか、ただただ悲しいですわ……」
イザベルが目に涙をためて、唇を震わせながら話す。まるで一生の楽しみが奪われたかのように、彼女が涙を流しながら落ち込んでいる姿は、私にはどうしてもおかしく感じられ、思わず笑いがこみ上げそうになるのを必死で堪えた。
(推し活ができないくらいでそんなに泣けるなんて、感受性が豊かで素晴らしいわ)
「――セリーヌ。あなた、私が昨日頼んだ新しい靴はどうなったの?」
しばらく、悲しさや悔しさで顔を伏せていたイザベルが、やっと涙を拭いながら顔を上げると不機嫌そうに口を開いた。彼女もまた、数年前の地味なドレスを着ている。
「却下しました。靴箱を確認しましたが、まだ履ける靴が五十足以上ありましたので」
「あれは全部デザインが古いのよ!」
「継母様、今も古いドレスをお召しになっているではありませんか? ローザと同じように」
「あなたが新しいドレスを買えなくしたのでしょう! こんなものじゃ、社交界で笑い者になるだけじゃない!」
「笑われるのが嫌なら、社交界に出なければよろしい。簡単な解決策です」
「なっ……!? よくも、わたくしに向かってそんな口を!」
イザベルが怒りに任せてグラスを倒そうと手を上げたが、私が冷ややかな視線を送ると、その手がピタリと止まった。グラスを割れば、その代金が彼女の『負債』として計上されることを学んだらしい。以前なら、そんなことを考えずに暴力的な行動に出ていたはずだが、少しは賢くなったようだ。
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