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第22話 復縁を拒否する
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「パートナーではありません。債権者と債務者です。……それで、朝一番から何のご用ですか? まさか、その枯れかけた雑草を売りに来たわけではありませんよね?」
「雑草じゃない! 君への愛の証だ! セリーヌ、聞いてくれ。僕は目が覚めたんだ!」
エドガー様は立ち上がり、舞台の主役でも務めるかのように、胸を張って机に身を乗り出した。声を張り上げ、手を大げさにひらひらさせるその様子は、必死に背伸びをする子供のようだ。顔は真剣なのに、その真剣さが間の抜けた印象を与え、自分が世界を動かしていると思い込んだ小物っぽい男に見えた。
(よくもまあ、ここまで滑稽に振る舞えるものね)
私は冷静に椅子に座ったまま彼をじっと見つめた。心の中では呆れ半分、笑い半分だった。
「ローザのことだけどね、あれは間違いだったんだ。僕は彼女に騙されていたんだよ。『お姉様は仕事が忙しいから、私が代わりに相手をしてあげて』なんて言われて、つい……僕の心は、いつだって君のものだったんだ!」
素晴らしい。ここまで自然に責任を押しつけられるとは、感心するしかない。努力の賜物ではなく、生まれつき備わった特技なのだろう。こんなふうに無駄な方向へ磨かれた才能を、せめて別のことに使えばいいものを。
(この男、自分が何をしたか“本気で”分かっていないのね)
私は手元の羽ペンを置き、心の底からうんざりした息をひとつ吐いた。
「エドガー様。貴方の発言には論理的矛盾が多すぎます」
「え?」
「第一に、貴方は『愛している』と言いながら、温室でローザと情熱的に口づけを交わしていました。第二に、貴方は『騙された』と言いますが、彼女に高価な髪飾りを贈ったのは貴方の意思(と私の金)です。第三に、今の発言はローザへの裏切り行為です。……貴方の『愛』とやらは、風向き次第でコロコロ変わる風見鶏ですか?」
「ち、違う! あれは一時の迷いで……君だって、長年の付き合いじゃないか。僕の優しさを知っているだろう?」
エドガー様は必死に食い下がる。その目は泳ぎ、額には脂汗が滲んでいる。なぜ彼がここまで執拗に復縁を迫るのか? 理由は明白で金だ。私と復縁すれば、莫大な借金が『家庭内貸借』に変わり、あわよくば帳消しにできるとでも思っているのだろう。
「優しさ、ですか……ええ、知っていますわ。貴方の優しさの正体が、『誰にでもいい顔をする優柔不断さ』であることを」
「セリーヌ! 本当に、何でもするから許してくれ! 君のために何でも犠牲にする。靴を舐めろって言われたら舐めるし、もしそれで君が笑顔になるなら、どんな恥ずかしいことでもする覚悟だ! だから、お願いだ……もう一度だけチャンスをくれ!」
(必死に復縁を迫るなんて、借金返済のためにどこまで自分を安売りするつもりなのかしら? ほんと、彼ってこういう時だけは驚くほど頭の回転が速いのよね)
「お引き取りください。貴方の相手をしている時間的コストがもったいないのです。……ああ、それと」
私はカレンダーを指差した。
「今月の利子の支払期日は明日です。遅延した場合、『遅延損害金』が加算されますのでお忘れなく。もし払えなければ……」
「わ、わかってる! 払うよ! 払えばいいんだろう!」
農地没収の恐怖に顔を引きつらせ、エドガー様は花束を机に投げ捨てて逃げ出した。バタン、と扉が閉まる。
「……ジェラルド」
「はい、お嬢様」
影のように控えていた執事が進み出る。
「この花束、処分して。花瓶に入れる価値もないわ」
「承知いたしました。堆肥(コンポスト)に混ぜておきましょう。少しは屋敷の役に立ちます」
ゴミはゴミ箱へ。しかし、あの男の粘着質な性質は厄介だ。一度甘い汁を吸った害虫は、簡単には離れない。もっと強力な殺虫剤が必要かもしれない。
「雑草じゃない! 君への愛の証だ! セリーヌ、聞いてくれ。僕は目が覚めたんだ!」
エドガー様は立ち上がり、舞台の主役でも務めるかのように、胸を張って机に身を乗り出した。声を張り上げ、手を大げさにひらひらさせるその様子は、必死に背伸びをする子供のようだ。顔は真剣なのに、その真剣さが間の抜けた印象を与え、自分が世界を動かしていると思い込んだ小物っぽい男に見えた。
(よくもまあ、ここまで滑稽に振る舞えるものね)
私は冷静に椅子に座ったまま彼をじっと見つめた。心の中では呆れ半分、笑い半分だった。
「ローザのことだけどね、あれは間違いだったんだ。僕は彼女に騙されていたんだよ。『お姉様は仕事が忙しいから、私が代わりに相手をしてあげて』なんて言われて、つい……僕の心は、いつだって君のものだったんだ!」
素晴らしい。ここまで自然に責任を押しつけられるとは、感心するしかない。努力の賜物ではなく、生まれつき備わった特技なのだろう。こんなふうに無駄な方向へ磨かれた才能を、せめて別のことに使えばいいものを。
(この男、自分が何をしたか“本気で”分かっていないのね)
私は手元の羽ペンを置き、心の底からうんざりした息をひとつ吐いた。
「エドガー様。貴方の発言には論理的矛盾が多すぎます」
「え?」
「第一に、貴方は『愛している』と言いながら、温室でローザと情熱的に口づけを交わしていました。第二に、貴方は『騙された』と言いますが、彼女に高価な髪飾りを贈ったのは貴方の意思(と私の金)です。第三に、今の発言はローザへの裏切り行為です。……貴方の『愛』とやらは、風向き次第でコロコロ変わる風見鶏ですか?」
「ち、違う! あれは一時の迷いで……君だって、長年の付き合いじゃないか。僕の優しさを知っているだろう?」
エドガー様は必死に食い下がる。その目は泳ぎ、額には脂汗が滲んでいる。なぜ彼がここまで執拗に復縁を迫るのか? 理由は明白で金だ。私と復縁すれば、莫大な借金が『家庭内貸借』に変わり、あわよくば帳消しにできるとでも思っているのだろう。
「優しさ、ですか……ええ、知っていますわ。貴方の優しさの正体が、『誰にでもいい顔をする優柔不断さ』であることを」
「セリーヌ! 本当に、何でもするから許してくれ! 君のために何でも犠牲にする。靴を舐めろって言われたら舐めるし、もしそれで君が笑顔になるなら、どんな恥ずかしいことでもする覚悟だ! だから、お願いだ……もう一度だけチャンスをくれ!」
(必死に復縁を迫るなんて、借金返済のためにどこまで自分を安売りするつもりなのかしら? ほんと、彼ってこういう時だけは驚くほど頭の回転が速いのよね)
「お引き取りください。貴方の相手をしている時間的コストがもったいないのです。……ああ、それと」
私はカレンダーを指差した。
「今月の利子の支払期日は明日です。遅延した場合、『遅延損害金』が加算されますのでお忘れなく。もし払えなければ……」
「わ、わかってる! 払うよ! 払えばいいんだろう!」
農地没収の恐怖に顔を引きつらせ、エドガー様は花束を机に投げ捨てて逃げ出した。バタン、と扉が閉まる。
「……ジェラルド」
「はい、お嬢様」
影のように控えていた執事が進み出る。
「この花束、処分して。花瓶に入れる価値もないわ」
「承知いたしました。堆肥(コンポスト)に混ぜておきましょう。少しは屋敷の役に立ちます」
ゴミはゴミ箱へ。しかし、あの男の粘着質な性質は厄介だ。一度甘い汁を吸った害虫は、簡単には離れない。もっと強力な殺虫剤が必要かもしれない。
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