妹に婚約者を奪われましたが、私の考えで家族まとめて終わりました。

佐藤 美奈

文字の大きさ
22 / 38

第22話 復縁を拒否する

しおりを挟む
「パートナーではありません。債権者と債務者です。……それで、朝一番から何のご用ですか? まさか、その枯れかけた雑草を売りに来たわけではありませんよね?」

「雑草じゃない! 君へのだ! セリーヌ、聞いてくれ。僕は目が覚めたんだ!」

エドガー様は立ち上がり、舞台の主役でも務めるかのように、胸を張って机に身を乗り出した。声を張り上げ、手を大げさにひらひらさせるその様子は、必死に背伸びをする子供のようだ。顔は真剣なのに、その真剣さが間の抜けた印象を与え、自分が世界を動かしていると思い込んだ小物っぽい男に見えた。

(よくもまあ、ここまで滑稽に振る舞えるものね)

私は冷静に椅子に座ったまま彼をじっと見つめた。心の中では呆れ半分、笑い半分だった。

「ローザのことだけどね、あれは間違いだったんだ。僕は彼女に騙されていたんだよ。『お姉様は仕事が忙しいから、私が代わりに相手をしてあげて』なんて言われて、つい……僕の心は、いつだって君のものだったんだ!」

素晴らしい。ここまで自然に責任を押しつけられるとは、感心するしかない。努力の賜物ではなく、生まれつき備わった特技なのだろう。こんなふうに無駄な方向へ磨かれた才能を、せめて別のことに使えばいいものを。

(この男、自分が何をしたか“本気で”分かっていないのね)

私は手元の羽ペンを置き、心の底からうんざりした息をひとつ吐いた。

「エドガー様。貴方の発言には論理的矛盾エラーが多すぎます」

「え?」

「第一に、貴方は『愛している』と言いながら、温室でローザと情熱的に口づけを交わしていました。第二に、貴方は『騙された』と言いますが、彼女に高価な髪飾りを贈ったのは貴方の意思(と私の金)です。第三に、今の発言はローザへの裏切り行為です。……貴方の『愛』とやらは、風向き次第でコロコロ変わる風見鶏ですか?」

「ち、違う! あれは一時の迷いで……君だって、長年の付き合いじゃないか。僕の優しさを知っているだろう?」

エドガー様は必死に食い下がる。その目は泳ぎ、額には脂汗が滲んでいる。なぜ彼がここまで執拗に復縁を迫るのか? 理由は明白で金だ。私と復縁すれば、莫大な借金が『家庭内貸借』に変わり、あわよくば帳消しにできるとでも思っているのだろう。

「優しさ、ですか……ええ、知っていますわ。貴方の優しさの正体が、『誰にでもいい顔をする優柔不断さ』であることを」

「セリーヌ! 本当に、何でもするから許してくれ! 君のために何でも犠牲にする。靴を舐めろって言われたら舐めるし、もしそれで君が笑顔になるなら、どんな恥ずかしいことでもする覚悟だ! だから、お願いだ……もう一度だけチャンスをくれ!」

(必死に復縁を迫るなんて、借金返済のためにどこまで自分を安売りするつもりなのかしら? ほんと、彼ってこういう時だけは驚くほど頭の回転が速いのよね)

「お引き取りください。貴方の相手をしている時間的コストがもったいないのです。……ああ、それと」

私はカレンダーを指差した。

「今月の利子の支払期日は明日です。遅延した場合、『遅延損害金』が加算されますのでお忘れなく。もし払えなければ……」

「わ、わかってる! 払うよ! 払えばいいんだろう!」

農地没収の恐怖に顔を引きつらせ、エドガー様は花束を机に投げ捨てて逃げ出した。バタン、と扉が閉まる。

「……ジェラルド」
「はい、お嬢様」

影のように控えていた執事が進み出る。

「この花束、処分して。花瓶に入れる価値もないわ」
「承知いたしました。堆肥たいひ(コンポスト)に混ぜておきましょう。少しは屋敷の役に立ちます」

ゴミはゴミ箱へ。しかし、あの男の粘着質スティッキーな性質は厄介だ。一度甘い汁を吸った害虫は、簡単には離れない。もっと強力な殺虫剤が必要かもしれない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなた方が後悔しても私にはどうでもいいことです

風見ゆうみ
恋愛
チャルブッレ辺境伯家の次女である私――リファーラは幼い頃から家族に嫌われ、森の奥で一人で暮らしていた。 私を目の敵にする姉は、私の婚約者や家族と結託して、大勢の前で婚約を破棄を宣言し私を笑いものにしようとした。 しかし、姉たちの考えなどお見通しである。 婚約の破棄は大歓迎。ですが、恥ずかしい思いをするのは、私ではありませんので。

婚約破棄されたので昼まで寝ますわ~白い結婚で溺愛なんて聞いてません

鍛高譚
恋愛
「リュシエンヌ・ド・ベルナール、お前との婚約は破棄する!」 突然、王太子フィリップから婚約破棄を告げられた名門公爵家の令嬢リュシエンヌ。しかし、それは義妹マリアンヌと王太子が仕組んだ策略だった。 王太子はリュシエンヌが嘆き悲しむことを期待するが—— 「婚約破棄ですね。かしこまりました。」 あっさり受け入れるリュシエンヌ。むしろ、長年の束縛から解放され、自由な生活を満喫することに! 「これでお昼まで寝られますわ! お菓子を食べて、読書三昧の生活ができますのよ!」 しかし、そんな彼女の前に現れたのは、王太子のライバルであり冷徹な公爵・ヴァレンティン・ド・ルーアン。 「俺と婚約しないか?」 政略的な思惑を持つヴァレンティンの申し出に、リュシエンヌは「白い結婚(愛のない形式的な結婚)」ならと了承。 ところが、自由を満喫するはずだった彼女の心は、次第に彼によって揺さぶられ始め——? 一方、王太子と義妹は社交界で次々と醜態をさらし、評判は地に落ちていく。 そしてついに、王太子は廃嫡宣告——! 「ええ? わたくし、何もしていませんわよ?」 婚約破棄された令嬢が、のんびり自由を謳歌するうちに、 いつの間にか勝手にざまぁ展開が訪れる、痛快ラブストーリー! 「婚約破棄……むしろ最高でしたわ!」 果たして、彼女の悠々自適な生活の行方は——?

身代わりの恋だと思っていました〜記憶を失った私に、元婚約者が泣いて縋る理由〜

恋せよ恋
恋愛
「君を愛している。一目惚れだったんだ」 18歳の伯爵令嬢エリカは、9歳年上のリヒャルト伯爵から 情熱的な求婚を受け、幸せの絶頂にいた。 しかし、親族顔合わせの席で運命が狂い出す。 彼の視線の先にいたのは、エリカの伯母であり、 彼の学生時代の恋人で「初めての女性」だった……ミレイユ。 「あの子は私の身代わりでしょう」「私はあなただけなの」 伯母ミレイユの甘い誘惑と、裏切りの密会。 衝撃の事実を目撃したエリカは、階段から転落し、 彼と過ごした愛しくも残酷な二年間の記憶だけを失ってしまう。 「……あの、どちら様でしょうか?」 無垢な瞳で問いかけるエリカに、絶望し泣き崩れるリヒャルト。 裏切った男と、略奪を企てた伯母。 二人に待ち受けるのは、甘い報復と取り返しのつかない後悔だった。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

婚約破棄と暗殺で死んだはずの公爵令嬢ですが、前に出ずに全てを崩壊させます

鷹 綾
恋愛
フォールス・アキュゼーション。お前に全ての罪がある」 王太子フレイム・ファブリケイト・ロイヤル・ロードは、自らの失策を公爵令嬢フォールスに押し付け、婚約を破棄。 さらに証拠隠滅のため、彼女を追放し、暗殺まで差し向ける。 ――彼女は、死んだことにされた。 だがフォールスは、生き延びた。 剣も魔法も持たず、復讐に燃えることもない。 選んだのは、前に出ないという生き方。 隣国で身を潜めながら、王弟エクイティ・フェアネス・ロイヤル・ロードのもと、 彼女は“構造の隣”に立つ。 暴かず、裁かず、叫ばない。 ただ、歪んだ仕組みを静かに照らし、 「選ばなかった者たち」を、自ら説明の場へと追い込んでいく。 切れない証人。 使えない駒。 しかし、消すこともできない存在。 これは、力で叩き潰すザマアではない。 沈黙と距離で因果を完成させる、知的で冷静な因果応報の物語。 ――前に出ない令嬢が、すべての答えを置いていく。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵令息から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

【完結】愛人の子を育てろと言われた契約結婚の伯爵夫人、幼なじみに溺愛されて成り上がり、夫を追い出します

深山きらら
恋愛
政略結婚でレンフォード伯爵家に嫁いだセシリア。しかし初夜、夫のルパートから「君を愛するつもりはない」と告げられる。さらに義母から残酷な命令が。「愛人ロザリンドの子を、あなたの子として育てなさい」。屈辱に耐える日々の中、偶然再会した幼なじみの商人リオンが、セシリアの才能を信じて事業を支援してくれる。

誰からも必要とされていないから出て行ったのに、どうして皆追いかけてくるんですか?

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢ミリーシャは、自身が誰からも必要とされていないことを悟った。 故に彼女は、家から出て行くことを決めた。新天地にて、ミリーシャは改めて人生をやり直そうと考えたのである。 しかし彼女の周囲の人々が、それを許さなかった。ミリーシャは気付いていなかったのだ。自身の存在の大きさを。

処理中です...