妹に婚約者を奪われましたが、私の考えで家族まとめて終わりました。

佐藤 美奈

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第21話 仲直りしたい粘着男

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「父様が?」
「はい。薬を変えた効果でしょう。まだ言葉は発せられませんが、私の問いかけに、確かに目で頷かれました」

父が目覚める。それは、この戦いの決定打になり得る要素だ。もし父が正気を取り戻し、もし父が正気を取り戻し、自分の意思で遺言を書き直したなら。あるいは、イザベルたちの所業を知れば大掃除は完了する。

「ジェラルド。父様の部屋の警備を強化して。継母様たちを絶対に近づけないで」
「承知いたしました。信頼できる者を配置済みです」

私は立ち上がり、父の部屋へ向かって駆けだした。胸の奥がざわついて、息が少し早くなる。高鳴る鼓動を抑えようと、私は扉の前で足を止め、気持ちを落ち着かせてから取っ手に手をかけた。

「お父様……」

声をかけると、まぶたがわずかに揺れてから、父はゆっくりと目を開けて私を見ている。言葉はなく、表情も曖昧で、夢と現実の境目に取り残されているように見えた。意識はあるけれど、まだ深い霧の中だ。頭がはっきり働いていないのが伝わってくる。

返事の代わりに返ってくるのは、遅れて落ちる瞬きと、かすかな呼吸の音だけ。呼びかけるたび、期待しては胸の奥で悲しみを飲み込む。

「まだ少し、時間が必要ね」

そう自分に言い聞かせながら、私は父の手を優しく握った。それだけで救われるはずなのに人は欲深い。ちゃんと声を聞きたくて、名前を呼んでほしくて、言葉を交わしたくなる。

それでも生きている。父の手の温もりだけだが、戻ってきつつある命を教えてくれていた。ジェラルドの報告に、期待して駆けつけた分だけ、その事実が少しだけ寂しい。

「そうですね……焦らずとも、お嬢様のお声は、届いておりますよ。言葉にできないだけで、心はもう目覚めているはずです。今日は、ここまでにしておきましょう。お嬢様も、随分と気を張っていらっしゃいますから」

「……そうね」

「旦那様が本日ここまで回復なさったこと自体が、確かな前進でございます。焦らず、この一歩を大切に積み重ねてまいりましょう。無理は、今はなさらぬ方がよろしいかと」

ジェラルドの言葉は優しかった。急ぐなと言われている気がした。私は小さく息を吐き、もう一度父の顔を見る。大丈夫。今は話せなくても目で答えてくれた。それだけで、希望は十分すぎるほどだ。それに、父が完全に目を覚ますその時こそが、この家の本当の決着のなのだから。

――次の日。朝の業務で最も大事なのは、その日のタスクの優先順位プライオリティを決めることだ。重要で緊急な仕事から片付け、時間の無駄になるものは思い切って切り捨てる。これが効率化の鉄則。

その鉄則に従えば、今、私の執務室のソファを占領している男は、真っ先に処理すべき『産業廃棄物』だ。動かず、ただそこに居座るだけで邪魔。借金まみれで何の役にも立たず、存在感だけは大きい。だが中身は空っぽ。この男の存在自体が、生産性の敵である。

「セリーヌ! おはよう! 今日の君は、天界から舞い降りた女神のようだ。朝日も霞むほどの輝きで、その美しさと可愛さはもう罪だよ! 見ているだけで心臓が跳ねるし、誰が見ても息を飲むほどだ」

エドガー様だ。まだ一応は、私の婚約者であり、現在は我が家の多額の債務者である男が、なぜか我が物顔で座っている。彼の手には、どこかの野原で摘んできたようなしおれた花束。服装は……以前のようなオーダーメイドの燕尾服ではなく、少し袖口が擦り切れた古びた上着だ。馬車を売った金も、借金の利子返済で消えたのだろう。

「……まさかこんな取るに足らないお世辞で、関係が修復できると本気で思っているのですか? 哀れにも程がありますわ」

眉一つ動かさず、冷ややかにその存在を流す。今日、この無駄を許すつもりはない。動けなければ、その場で存在ごと整理して差し上げるだけのこと。

「お世辞で言っているわけじゃない! 君が笑うだけで世界が光り輝くんだ! いや、もう世界そのものが君のために存在しているとしか思えない! 君の姿を眺めていられるだけで僕は満たされる。こんな愚かな男には、過ぎた幸福だけどね……」

「エドガー様、で衛兵を呼んでもよろしいのですよ?」

「えぇ!? 不法侵入だなんて、冷たいことを言わないでくれ! 僕は君の婚約者で、えっと……ビジネスパートナーだろう?」

彼は婚約者と言いかけて、私の背筋が凍るかのような視線に気づいたのか慌てて訂正した。学習能力がミジンコ程度にはあるらしい。
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