29 / 38
第29話 彼の衝撃的な頼み
しおりを挟む
障害物(ローザ)を排除したシュナイダー様は、何事もなかったかのように私の前まで歩いてきた。そして、さっきの冷たい顔を変えて、少しだけ口角を上げてニッと笑った。
「……見つけたぞ、セリーヌ」
「ごきげんよう、シュナイダー様。先ほどは……素晴らしい切れ味でしたわ」
「邪魔な石ころが転がっていたのでな……あれはなんだ?」
「義妹のローザが失礼な振る舞いをいたしました。お許しいただければ幸いです」
「別に気にしていないさ。ただ、あのような義妹がいるとなると、セリーヌも苦労しているのだろうな」
「ええ、そうですね。苦労が絶えませんわ」
「……それより、今日の貴女は悪くない」
彼は私のドレスを上から下まで眺めた。
「華やかな飾りに頼らず、素材そのものの良さを大切にしている。貴女の合理的で芯の強い性格がよく表れている」
「お褒めいただき光栄です(たぶん褒められているのよね?)」
「単刀直入に言おう。私と踊れ」
彼は手を差し出した。周囲にどよめきが広がった。誰もがシュナイダー様の言葉に驚き、予想外だったかのように反応している。
「あの氷鉄公爵が、ダンスを?」
「フォンテーヌ公爵家のセリーヌ嬢ではなくて?」
「先ほどの“恥ずかしい妹”の姉でいらっしゃるのでしょうか?」
「あれが家族の一員だなんて信じられませんわ」
「あんなに品のない振る舞いを見せられると、家族としての“しつけ”や”教育”がどうなっているのか、つい疑ってしまいますわね」
本当に見とれてしまうほど美しくて上品なご婦人方は、ローザへの皮肉を忘れることはなかった。
「……よろしいのですか? 私と踊れば、シュナイダー様の評判に傷がつくかもしれませんわ。我が家は今、色々と『噂の的』ですから」
「他人の評価など、私の人生における変数ではない。私が評価するのは、私の目で見た事実だけだ」
シュナイダー様は言い切った。声には迷いがなく自信に満ちた姿は、どんな困難でも乗り越えられるかのようだ。彼が無敵のヒーローのように頼もしく見えた。何があっても怖くないと、そう思わせてくれる強さが感じられた。彼はそのまま言葉を続けた。
「貴女はとても優秀で美しくて、しかも、ちょっと変わった魅力を持つ面白い女性だ。正直、私でもあなたの頭の中は謎だらけだよ。だから、私が踊りたいのは貴女だけなんだ。これは命令じゃなくて、お願いだ。どうか、一緒に踊ってくれないか?」
ローザには上から目線で偉そうだったが、私には下からお辞儀をして頼んでいる。その違い(ギャップ)に衝撃を受けた。でも引き寄せられるようなカリスマ性を持っている彼に、断る理由なんてどこにも見つからなかった。私は扇子を閉じて、彼の手の上に自分の手を重ねた。
「喜んでお受けしますわ。……ただし、ひとつだけ条件がございます。もし私の足を踏んだら、その場で慰謝料を請求させていただきますから、その覚悟はしておいてくださいね。足元にも気を使わないと、あとで大変なことになりますわよ?」
「フッ……相変わらずだな。安心しろ、心配しなくても、計算通りにリードしてやるよ。もちろん、無理に引っ張ったりはしないさ。君のペースを大事にして、なるべく気を使いながら、優しくてゆっくりとね。だから、安心して任せてくれ」
彼の言葉には、どんなリスクも承知しているかのような余裕が感じられた。
私たちがホールの中央に進み出ると、楽団がワルツを奏で始めた。彼の手は大きくて温かくて、何もかもお見通しのようにかっこよく引っ張ってくれた。それなのに私の呼吸に合わせて、私が思ったことを先に読んでくれるかのようだった。すごく気持ちよくて、周りのことを忘れてしまったような感じがした。
(エドガー様と踊った時のような『足を踏まれないか気にするストレス』とは、まるで比べ物にならない。頼もしくも、さりげなく先導してくれるシュナイダー様に身を任せるだけで、舞踏会の主役になった気分だわ)
私たちは回転してステップを踏んだ。彼の黒と私の深い青色の組み合わせはシンプルだけど、それが逆に大人っぽくて洗練されて見えた(そうだと思いたい)。会場の人たちの目が私たちに集中しているのが感じられた。その中には、悔しそうに泣いているローザもいるだろう。そんな中で、私は最高の気分だった。
曲が終わり、私たちが一礼をした瞬間、みんなが大きな拍手を始めた。でも、その拍手の中から、突然怒った声が飛んできた。
「――またお前か! セリーヌから離れろ! 荒々しい野生のような手を離せ!」
エドガー様だ。彼は人がたくさんいる中を、道を作るように押しのけて進んできた。顔を真っ赤にして目はギラギラしていて、怒りでどうにかなりそうな顔をしていた。
「セリーヌは僕の婚約者だと言ったのを忘れたのか!? 僕のものだ! 泥棒猫男め、他人の女に手を出すな!」
エドガー様はシュナイダー様に掴みかかろうとした。
「……見つけたぞ、セリーヌ」
「ごきげんよう、シュナイダー様。先ほどは……素晴らしい切れ味でしたわ」
「邪魔な石ころが転がっていたのでな……あれはなんだ?」
「義妹のローザが失礼な振る舞いをいたしました。お許しいただければ幸いです」
「別に気にしていないさ。ただ、あのような義妹がいるとなると、セリーヌも苦労しているのだろうな」
「ええ、そうですね。苦労が絶えませんわ」
「……それより、今日の貴女は悪くない」
彼は私のドレスを上から下まで眺めた。
「華やかな飾りに頼らず、素材そのものの良さを大切にしている。貴女の合理的で芯の強い性格がよく表れている」
「お褒めいただき光栄です(たぶん褒められているのよね?)」
「単刀直入に言おう。私と踊れ」
彼は手を差し出した。周囲にどよめきが広がった。誰もがシュナイダー様の言葉に驚き、予想外だったかのように反応している。
「あの氷鉄公爵が、ダンスを?」
「フォンテーヌ公爵家のセリーヌ嬢ではなくて?」
「先ほどの“恥ずかしい妹”の姉でいらっしゃるのでしょうか?」
「あれが家族の一員だなんて信じられませんわ」
「あんなに品のない振る舞いを見せられると、家族としての“しつけ”や”教育”がどうなっているのか、つい疑ってしまいますわね」
本当に見とれてしまうほど美しくて上品なご婦人方は、ローザへの皮肉を忘れることはなかった。
「……よろしいのですか? 私と踊れば、シュナイダー様の評判に傷がつくかもしれませんわ。我が家は今、色々と『噂の的』ですから」
「他人の評価など、私の人生における変数ではない。私が評価するのは、私の目で見た事実だけだ」
シュナイダー様は言い切った。声には迷いがなく自信に満ちた姿は、どんな困難でも乗り越えられるかのようだ。彼が無敵のヒーローのように頼もしく見えた。何があっても怖くないと、そう思わせてくれる強さが感じられた。彼はそのまま言葉を続けた。
「貴女はとても優秀で美しくて、しかも、ちょっと変わった魅力を持つ面白い女性だ。正直、私でもあなたの頭の中は謎だらけだよ。だから、私が踊りたいのは貴女だけなんだ。これは命令じゃなくて、お願いだ。どうか、一緒に踊ってくれないか?」
ローザには上から目線で偉そうだったが、私には下からお辞儀をして頼んでいる。その違い(ギャップ)に衝撃を受けた。でも引き寄せられるようなカリスマ性を持っている彼に、断る理由なんてどこにも見つからなかった。私は扇子を閉じて、彼の手の上に自分の手を重ねた。
「喜んでお受けしますわ。……ただし、ひとつだけ条件がございます。もし私の足を踏んだら、その場で慰謝料を請求させていただきますから、その覚悟はしておいてくださいね。足元にも気を使わないと、あとで大変なことになりますわよ?」
「フッ……相変わらずだな。安心しろ、心配しなくても、計算通りにリードしてやるよ。もちろん、無理に引っ張ったりはしないさ。君のペースを大事にして、なるべく気を使いながら、優しくてゆっくりとね。だから、安心して任せてくれ」
彼の言葉には、どんなリスクも承知しているかのような余裕が感じられた。
私たちがホールの中央に進み出ると、楽団がワルツを奏で始めた。彼の手は大きくて温かくて、何もかもお見通しのようにかっこよく引っ張ってくれた。それなのに私の呼吸に合わせて、私が思ったことを先に読んでくれるかのようだった。すごく気持ちよくて、周りのことを忘れてしまったような感じがした。
(エドガー様と踊った時のような『足を踏まれないか気にするストレス』とは、まるで比べ物にならない。頼もしくも、さりげなく先導してくれるシュナイダー様に身を任せるだけで、舞踏会の主役になった気分だわ)
私たちは回転してステップを踏んだ。彼の黒と私の深い青色の組み合わせはシンプルだけど、それが逆に大人っぽくて洗練されて見えた(そうだと思いたい)。会場の人たちの目が私たちに集中しているのが感じられた。その中には、悔しそうに泣いているローザもいるだろう。そんな中で、私は最高の気分だった。
曲が終わり、私たちが一礼をした瞬間、みんなが大きな拍手を始めた。でも、その拍手の中から、突然怒った声が飛んできた。
「――またお前か! セリーヌから離れろ! 荒々しい野生のような手を離せ!」
エドガー様だ。彼は人がたくさんいる中を、道を作るように押しのけて進んできた。顔を真っ赤にして目はギラギラしていて、怒りでどうにかなりそうな顔をしていた。
「セリーヌは僕の婚約者だと言ったのを忘れたのか!? 僕のものだ! 泥棒猫男め、他人の女に手を出すな!」
エドガー様はシュナイダー様に掴みかかろうとした。
645
あなたにおすすめの小説
あなた方が後悔しても私にはどうでもいいことです
風見ゆうみ
恋愛
チャルブッレ辺境伯家の次女である私――リファーラは幼い頃から家族に嫌われ、森の奥で一人で暮らしていた。
私を目の敵にする姉は、私の婚約者や家族と結託して、大勢の前で婚約を破棄を宣言し私を笑いものにしようとした。
しかし、姉たちの考えなどお見通しである。
婚約の破棄は大歓迎。ですが、恥ずかしい思いをするのは、私ではありませんので。
婚約破棄されたので昼まで寝ますわ~白い結婚で溺愛なんて聞いてません
鍛高譚
恋愛
「リュシエンヌ・ド・ベルナール、お前との婚約は破棄する!」
突然、王太子フィリップから婚約破棄を告げられた名門公爵家の令嬢リュシエンヌ。しかし、それは義妹マリアンヌと王太子が仕組んだ策略だった。
王太子はリュシエンヌが嘆き悲しむことを期待するが——
「婚約破棄ですね。かしこまりました。」
あっさり受け入れるリュシエンヌ。むしろ、長年の束縛から解放され、自由な生活を満喫することに!
「これでお昼まで寝られますわ! お菓子を食べて、読書三昧の生活ができますのよ!」
しかし、そんな彼女の前に現れたのは、王太子のライバルであり冷徹な公爵・ヴァレンティン・ド・ルーアン。
「俺と婚約しないか?」
政略的な思惑を持つヴァレンティンの申し出に、リュシエンヌは「白い結婚(愛のない形式的な結婚)」ならと了承。
ところが、自由を満喫するはずだった彼女の心は、次第に彼によって揺さぶられ始め——?
一方、王太子と義妹は社交界で次々と醜態をさらし、評判は地に落ちていく。
そしてついに、王太子は廃嫡宣告——!
「ええ? わたくし、何もしていませんわよ?」
婚約破棄された令嬢が、のんびり自由を謳歌するうちに、
いつの間にか勝手にざまぁ展開が訪れる、痛快ラブストーリー!
「婚約破棄……むしろ最高でしたわ!」
果たして、彼女の悠々自適な生活の行方は——?
身代わりの恋だと思っていました〜記憶を失った私に、元婚約者が泣いて縋る理由〜
恋せよ恋
恋愛
「君を愛している。一目惚れだったんだ」
18歳の伯爵令嬢エリカは、9歳年上のリヒャルト伯爵から
情熱的な求婚を受け、幸せの絶頂にいた。
しかし、親族顔合わせの席で運命が狂い出す。
彼の視線の先にいたのは、エリカの伯母であり、
彼の学生時代の恋人で「初めての女性」だった……ミレイユ。
「あの子は私の身代わりでしょう」「私はあなただけなの」
伯母ミレイユの甘い誘惑と、裏切りの密会。
衝撃の事実を目撃したエリカは、階段から転落し、
彼と過ごした愛しくも残酷な二年間の記憶だけを失ってしまう。
「……あの、どちら様でしょうか?」
無垢な瞳で問いかけるエリカに、絶望し泣き崩れるリヒャルト。
裏切った男と、略奪を企てた伯母。
二人に待ち受けるのは、甘い報復と取り返しのつかない後悔だった。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
婚約破棄と暗殺で死んだはずの公爵令嬢ですが、前に出ずに全てを崩壊させます
鷹 綾
恋愛
フォールス・アキュゼーション。お前に全ての罪がある」
王太子フレイム・ファブリケイト・ロイヤル・ロードは、自らの失策を公爵令嬢フォールスに押し付け、婚約を破棄。
さらに証拠隠滅のため、彼女を追放し、暗殺まで差し向ける。
――彼女は、死んだことにされた。
だがフォールスは、生き延びた。
剣も魔法も持たず、復讐に燃えることもない。
選んだのは、前に出ないという生き方。
隣国で身を潜めながら、王弟エクイティ・フェアネス・ロイヤル・ロードのもと、
彼女は“構造の隣”に立つ。
暴かず、裁かず、叫ばない。
ただ、歪んだ仕組みを静かに照らし、
「選ばなかった者たち」を、自ら説明の場へと追い込んでいく。
切れない証人。
使えない駒。
しかし、消すこともできない存在。
これは、力で叩き潰すザマアではない。
沈黙と距離で因果を完成させる、知的で冷静な因果応報の物語。
――前に出ない令嬢が、すべての答えを置いていく。
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵令息から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
【完結】愛人の子を育てろと言われた契約結婚の伯爵夫人、幼なじみに溺愛されて成り上がり、夫を追い出します
深山きらら
恋愛
政略結婚でレンフォード伯爵家に嫁いだセシリア。しかし初夜、夫のルパートから「君を愛するつもりはない」と告げられる。さらに義母から残酷な命令が。「愛人ロザリンドの子を、あなたの子として育てなさい」。屈辱に耐える日々の中、偶然再会した幼なじみの商人リオンが、セシリアの才能を信じて事業を支援してくれる。
誰からも必要とされていないから出て行ったのに、どうして皆追いかけてくるんですか?
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢ミリーシャは、自身が誰からも必要とされていないことを悟った。
故に彼女は、家から出て行くことを決めた。新天地にて、ミリーシャは改めて人生をやり直そうと考えたのである。
しかし彼女の周囲の人々が、それを許さなかった。ミリーシャは気付いていなかったのだ。自身の存在の大きさを。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる