妹に婚約者を奪われましたが、私の考えで家族まとめて終わりました。

佐藤 美奈

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第34話 男と会話して精神的な疲労

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「あぁ、セリーヌ嬢、君の瞳を見ていると、深い湖の底に引き込まれるような感覚に襲われる……君の瞳を見るたびに、僕の創作意欲が暴走して、もう何もかもがひらめいてしまいそうだ……」

タッタナイ伯爵は、長い髪を揺らす優男だ。見た目は、エドガー様を少し高級にした雰囲気があって悪くない。だが、彼もまただった。

「はぁ? そうなのですか……?」

私は、どう反応すればいいのか不安になってきた。

「君には、僕のミューズ(創作を助けるインスピレーションの源)になってほしいんだ! 僕の詩を聴いて、心を震わせて、その美しい瞳で僕の絵のモデルになってくれ……それが君の役割だ」

「役割、ですか。では、家計の管理や領地の運営は?」

「そんな俗世のことは、使用人に任せればいい。君のような美しい女性が、金貨の計算なんて浅ましいことをすべきじゃない」

私の仕事や自分の誇りを、彼は『浅ましい』と言って切り捨てた。

「ボッキーフゼン様。貴方が着ているそのシルクのシャツ、染料はどこから輸入しているかご存知?」

「え? 東方だろう?」

「ええ。関税を含めると、一枚あたり金貨五枚。貴方の去年の画材購入費は金貨三百枚。対して、貴方の作品の売上は?」

「げ、芸術を金で換算するなんて! ナ、ナ、ナンセンスだ!」

彼の顔から余裕がなくなって言葉が乱れてきた。感情が高ぶっている様子が伝わる。

「いいえ、生活には金がかかります。パトロンもなしに道楽を続けられるのは、先代が遺した遺産があるからでしょう? その遺産も、あと数年で底をつきますわよ」

「君にはわからないだろうけど、僕の芸術は魂を込めた作品なんだ! そんな軽い言葉で片付けられるようなものじゃないってことを、どうしてわかってくれないんだ!」

「ボッキーフゼン様が求めているのはミューズではなく、貴方の浪費を肯定してくれる『全自動称賛人形』です。私は人形ではありませんし、沈みゆく泥船に乗る趣味もありません」

私は、彼と結婚する気なんてありませんと冷たく言い放った。

「き、君は……心が貧しいね……」

「財布が貧しくなるよりマシですわ。才能もないのに、無駄に高い画材を買うのは控えた方がよろしいのではありませんか?」 

「ひどい女だ……あり得ない……」

「お金を使うなら、せめてそれに見合ったを出してからにした方が、恥をかかずに済むでしょう?」

「うるさい! 黙れぇぇぇぇぇぇ! なんで僕の言うことがわからないんだぁぁぁぁ! お前なんかに何がわかるって言うんだぁぁぁ!!」

「少なくとも、私には無駄に高級なものを買い漁る欲望もありませんし、その場しのぎの虚栄心を満たすために金を使うより、ずっと賢い選択だと思いますわ。ボッキーフゼン様のような能力が欠けている方が、お金を持っていても何一つ価値のあるものには使わないでしょうし、むしろ持っていない方がよっぽど清潔で品がありますもの」

二人目、終了。

――三人目は、王宮で働く法の専門家、オスーヘンタイ・ゲスヤッローという子爵だった。彼は頭が良くて、眼鏡の奥の目が光っていた。最初は、税金の仕組みや貿易の問題について対等に話し合えたから、私は『やっとまともな人に会えた』と思った。でも、それは勘違いだった。

「セリーヌ嬢は実に賢いな……女性にしてはね」

その一言が、全てを台無しにした。

「女性にしては、とは?」

「いや、悪気はないんだ。ただ、女性の脳の構造上、論理的思考には限界があるからね。君がここまで話せるとは思わなかったよ」

「…………」

「結婚したら、僕の書類整理を手伝ってくれ。清書や計算チェックなら、君にもできるだろう? ただし、政策の決定には口を出さないでくれよ? そこは男の領分だから」

私は黙って話を聞いていると、彼は自分が上だと思ってニヤリと笑っていた。それは、無意識に『男は教える側で、女は手伝う側』だと思っていることから来ている考え方だ。そんな固定観念の男は、一人目の筋肉脳や二人目のナルシストよりもタチが悪いかもしれない。

「オスーヘンタイ様。先ほど、貴方は『新税法第4条の解釈』について語っておられましたが」

「ああ、完璧だっただろう?」

「致命的な誤りがありますわ。第4条は、先月の修正条項で『但し書き』が削除されています。貴方の知識は、三ヶ月前の古い情報のままです」

「な、なにっ!?」

「それに、貴方が提案した貿易ルートの試算。海流の影響係数を入れ忘れています。これでは輸送コストが二割ズレますわ」

私は彼の間違いを次々と指摘した。論理には論理で。

「情報のアップデートを怠り、不完全なデータで知ったかぶりをする。それが『男の領分』だと言うなら、随分と底が知れていますわね」

「き、貴様! 女の分際で!」

「性別を理由にするなんて、言い訳にもなりませんわ」

「ふ、ふざけるなぁぁぁぁぁ」

「オスーヘンタイ様は、ご自身の努力と実力が不足しているだけだということを、そろそろご自覚なさるべきですわ」

お見合い相手は全滅だ。話にならないほど愚かな者ばかりで、疲労感がどっと押し寄せてきた。肉体的な疲れではなく、絶望に近い精神的な疲労だった。

「これが、この国の“有力貴族”のレベルなの……?」

私は、オスクサイ王国の行く末が心配でならなかった。
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