幼馴染を溺愛する彼へ ~婚約破棄はご自由に~

佐藤 美奈

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第14話

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私の最終的な決意を聞いたオリバーが、喜び勇んで帰っていった数日後。王宮の一室で、公式な話し合いの場が設けられた。

重苦しい沈黙が支配する部屋には、国王陛下と王妃殿下、私の父である公爵と母、そして、当事者であるオリバーと私が、大きなテーブルを挟んで座っていた。まるで、これから始まる裁判の被告人と原告みたいだ、と私はぼんやり思った。

「――よって、オリバー。其方の身勝手な申し出は、断じて認められん!」

最初に沈黙を破ったのは、国王陛下の雷のような怒声だった。テーブルがビリビリと震える。王妃殿下も、ハンカチで口元を押さえながら、失望に満ちた瞳で自分の息子を睨みつけている。

「ですが父上、僕の気持ちは変わりません! ローズを、僕は愛しているのです!」

オリバーは、少しも怯まなかった。彼の声は、悲劇のヒーローさながらに力強く響き渡る。その姿は、ある意味、立派だったのかもしれない。

自分の感情に、どこまでも忠実で正直なのだから。ただ、その正直さが、どれだけの人を巻き込み、傷つけているのか彼には全く見えていない。

「愛、だと? そのような不確かなものために、王家と公爵家の長年にわたる約束を反故にし、国を揺るがすというのか! この愚か者めが!」

「愚か者と罵られても構いません! 僕は、僕の愛を貫きます!」

すごい。ここまでくると、もはや清々しい。大人たちの怒声も、国家の体面も、彼の愛の前では取るに足らない障害物でしかないらしい。私は、目の前で繰り広げられる壮大な親子喧嘩を、まるで他人事のように眺めていた。遠くで鳴る雷みたいに、その声は私の心には少しも届かなかった。

父と母は、ただ黙って腕を組んでいた。彼らの表情は硬く、その瞳には、娘を傷つけられたことへの静かな怒りと、王家に対する無言の抗議が宿っていた。でも、彼らは何も言わなかった。私が、事前にそうお願いしていたからだ。

『全て、私にお任せください』と。

やがて、怒鳴り疲れた国王が、ぜえぜえと肩で息をしながら私に視線を向けた。その瞳には、憐れみと申し訳なさが浮かんでいる。

「……アイラ嬢。すまない。我が息子の愚行、この父として、心から、詫びる」

「お顔をお上げください、陛下」

私は静かに、そう言った。そして、ゆっくりと立ち上がり、その場にいる全員を見渡した。

「殿下のお気持ちが、それほどまでに固いのでしたら、私にはもう、申し上げることはございません。この度の婚約は、白紙に戻していただきたく存じます」

私の言葉に、オリバーは、やった! とでも言いたげな勝ち誇った表情を浮かべた。国王と王妃は、信じられないという顔で私を見ている。

「アイラ、お前、本気で言っているのか!」

父が、低い声で私に問う。

「はい、お父様。壊れてしまった器を、元に戻すことはできませんわ」

私のその一言が、決定打となった。
結局、その日のうちに、私とオリバーの婚約は、正式に解消されることが決まった。
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