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第70話
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その時、牢の奥から、追い詰められたオリバーとローズが姿を現した。
「くそっ……! ここまでか……!」
「いやよ! 捕まるなんて、絶対にいや!」
ローズの叫び声が空気を震わせ、オリバーは鋭い視線で私たちをにらみつけながら、長剣をわずかに揺らしている。すぐそばで、カイ様は私を背中に守り、その肩越しに伝わる緊張を剣に込めて再び構えを取った。
「……オリバー。ローズ。自分の手を汚してまで、お前たちは、一体何を得たかったんだ」
「お前を地に堕とすためだ! 俺たちのすべてを奪ったお前に、同じ苦しみを味わわせるためだ! お前の大切な女を目の前で奪い取り、お前が絶望に沈む姿を見届けるためだよ!」
落ち着き払った声で放たれたカイ様の問いは、鋭い針のようにオリバーの心を刺した。次の瞬間、オリバーの瞳は怒りに赤く染まり、憎しみを爆発させるように声を張り上げた。
カイ様の背に隠れていた私は、息を深く吸い込み、小さく決意を固めてからそっと前へと踏み出した。もう怯えて守られるだけじゃいられない。私自身の力で、この運命に立ち向かうと心に誓ったのだ。
「……本当に、哀れな人たちね。ローズ、あなたもそれで本当にいいの? こんな男の、歪んだ復讐心のために、あなたの大切な人生を棒に振って」
「うるさいッ! うるさいうるさい! あんたみたいに、生まれながらにすべてを持っている人間に、私たちの気持ちが分かってたまるもんですか! あんたのその幸せを、めちゃくちゃに壊してやれれば、それでよかったのよ!」
ローズは両耳を塞ぎ、苦しみを吐き出すように絶叫した。その声を受けて、カイ様の瞳に潜む殺気が再び息を吹き返し、闇の中で脈打つように膨れ上がっていく。
そして次の瞬間、彼は鋭い決意を剣先に込め、オリバーに向かって大きく振りかぶった。
「――カイ様、やめて!」
気づけば私は、カイ様の振り上げた腕を抱きとめるように掴んでいた。胸の奥で湧き上がった恐れと願いが、理屈より先に体を動かしたのだ。
「もう、終わりにしましょう」
「……アイラ?」
「こんな人たちのために、あなたのその綺麗な剣を、汚す必要なんてありませんわ。彼らの罪は、法が裁いてくれます」
カイ様は私の瞳を深く見つめ、その奥にある想いを確かめるように沈黙した。やがて、小さく吐息をこぼすと静かに剣を下ろす。
その瞬間を待っていたかのように、扉を破る勢いで騎士たちがなだれ込み、オリバーとローズを力任せに取り押さえた。二人の荒々しい罵声は、冷えきった地下牢に響き渡り、やがて悲鳴のように消えていった。
「くそっ……! ここまでか……!」
「いやよ! 捕まるなんて、絶対にいや!」
ローズの叫び声が空気を震わせ、オリバーは鋭い視線で私たちをにらみつけながら、長剣をわずかに揺らしている。すぐそばで、カイ様は私を背中に守り、その肩越しに伝わる緊張を剣に込めて再び構えを取った。
「……オリバー。ローズ。自分の手を汚してまで、お前たちは、一体何を得たかったんだ」
「お前を地に堕とすためだ! 俺たちのすべてを奪ったお前に、同じ苦しみを味わわせるためだ! お前の大切な女を目の前で奪い取り、お前が絶望に沈む姿を見届けるためだよ!」
落ち着き払った声で放たれたカイ様の問いは、鋭い針のようにオリバーの心を刺した。次の瞬間、オリバーの瞳は怒りに赤く染まり、憎しみを爆発させるように声を張り上げた。
カイ様の背に隠れていた私は、息を深く吸い込み、小さく決意を固めてからそっと前へと踏み出した。もう怯えて守られるだけじゃいられない。私自身の力で、この運命に立ち向かうと心に誓ったのだ。
「……本当に、哀れな人たちね。ローズ、あなたもそれで本当にいいの? こんな男の、歪んだ復讐心のために、あなたの大切な人生を棒に振って」
「うるさいッ! うるさいうるさい! あんたみたいに、生まれながらにすべてを持っている人間に、私たちの気持ちが分かってたまるもんですか! あんたのその幸せを、めちゃくちゃに壊してやれれば、それでよかったのよ!」
ローズは両耳を塞ぎ、苦しみを吐き出すように絶叫した。その声を受けて、カイ様の瞳に潜む殺気が再び息を吹き返し、闇の中で脈打つように膨れ上がっていく。
そして次の瞬間、彼は鋭い決意を剣先に込め、オリバーに向かって大きく振りかぶった。
「――カイ様、やめて!」
気づけば私は、カイ様の振り上げた腕を抱きとめるように掴んでいた。胸の奥で湧き上がった恐れと願いが、理屈より先に体を動かしたのだ。
「もう、終わりにしましょう」
「……アイラ?」
「こんな人たちのために、あなたのその綺麗な剣を、汚す必要なんてありませんわ。彼らの罪は、法が裁いてくれます」
カイ様は私の瞳を深く見つめ、その奥にある想いを確かめるように沈黙した。やがて、小さく吐息をこぼすと静かに剣を下ろす。
その瞬間を待っていたかのように、扉を破る勢いで騎士たちがなだれ込み、オリバーとローズを力任せに取り押さえた。二人の荒々しい罵声は、冷えきった地下牢に響き渡り、やがて悲鳴のように消えていった。
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