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第69話
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「て、敵襲だ! 王宮の騎士団だ!」
「馬鹿な! なぜ、ここが分かった!?」
騎士団? あの気配……まさか……。
私は思わず身じろぎした。心の奥に封じていた希望が、今にもあふれ出しそうになる。けれど、ぬか喜びだったらどうしよう。もしこれが罠だったら――。
まさか。でも、まさか、本当に? 現実と夢の狭間で揺れながら、私は小さく唇を噛んだ。お願い、どうか、この“まさか”が……奇跡に変わって。
(カイ様……)
暗闇に沈みかけた心が、一瞬で目を覚ます。希望と絶望がせめぎ合う中、その光は確かに射してきた。彼が来た。本当に来たのだ。誰にも届かないと思っていたこの場所に迷わず。
助けに――私を、迎えに。
その事実が、信じられないほど胸を熱くし、涙がこぼれそうになるほど怖かった。願いが現実になることが、こんなにも震えることだったなんて。
混乱の音が、壁の向こうから生々しく響いてくる。焦りと恐怖が入り混じった空気が、地下牢にまで染み込んでいた。私は歯を食いしばり、血がにじむ手で縄を石に押し当てた。繰り返す摩擦の先に、ぷつっと音がした。
細い線が何本か断ち切れるのを、肌が感じ取った。それは、絶望の中にわずかに射した光。手のひらに残るその感触が、私の心に火を点けた。
ドガァァァンッ!!!!
扉が破られたというより、吹き飛ばされたと表現したほうが近いだろう。巨大な衝撃音のあと、分厚い木の破片が飛び散り、光の奔流が牢に雪崩れ込む。その白い逆光の中、ひとりの騎士が音もなく立っていた。朝日を背に浴びて、その姿は神話の英雄のようだった。
「アイラッ!!」
その声が響いた瞬間、胸の奥に眠っていた何かが目を覚ました。私の名前を叫ぶその響きには力があった。優しさがあった。愛があった。それは、たった一人にしか出せない音色。どんな騒音にもかき消されない私の心だけに届く声。それは、私が世界で一番、大切に想っている彼の声だった。
「……カイ、様……!」
視界は涙で歪み、光の中の彼の姿が揺れていた。けれど、剣が放つ一閃の軌道だけは心に深く焼きついた。牢内の見張りは、反応する暇もなく地に崩れ落ちた。そのときにはもう、彼の靴音が私の心に響いていた。
痛みも、恐れも、すべてを置き去りにして、彼は一直線に私へ向かってくる。それは、ただの救出ではなかった。まるで、世界が再び動き出すその瞬間を告げるような静かな衝撃だった。
「大丈夫か、アイラ! 酷い怪我だ……! すまない、今すぐ助ける!」
彼は、剣で私の縄を断ち切ってくれた。自由になった腕で、私は彼の胸に飛びつきたい衝動に駆られた。でも、口から出たのは、思ってもいない言葉だった。
「……来ないでって……あれほど、心の中で叫んでいたのに……」
「……聞くわけがないだろう。君が俺を呼んでいるのに、俺が来ないわけがない。……馬鹿なことを言うな」
彼の指先が頬の痣に触れた。あの一撃の跡、ローズの怒りが形になって残ったもの。その瞬間、私の胸の奥に静かな衝撃が走った。そっと触れたその手から、あふれるような怒りと悲しみが伝わってくる。
「教えてくれ。この傷の理由を……そして、誰がやったのか」
そしてその瞳は、まるで何かを抑え込むようにぎりぎりと揺れていた。痛ましさを隠せないその表情に、私は初めて知った。彼はただ怒っているのではない。私の痛みを、自分の痛みとして受け止めてくれる人なのだと。
「馬鹿な! なぜ、ここが分かった!?」
騎士団? あの気配……まさか……。
私は思わず身じろぎした。心の奥に封じていた希望が、今にもあふれ出しそうになる。けれど、ぬか喜びだったらどうしよう。もしこれが罠だったら――。
まさか。でも、まさか、本当に? 現実と夢の狭間で揺れながら、私は小さく唇を噛んだ。お願い、どうか、この“まさか”が……奇跡に変わって。
(カイ様……)
暗闇に沈みかけた心が、一瞬で目を覚ます。希望と絶望がせめぎ合う中、その光は確かに射してきた。彼が来た。本当に来たのだ。誰にも届かないと思っていたこの場所に迷わず。
助けに――私を、迎えに。
その事実が、信じられないほど胸を熱くし、涙がこぼれそうになるほど怖かった。願いが現実になることが、こんなにも震えることだったなんて。
混乱の音が、壁の向こうから生々しく響いてくる。焦りと恐怖が入り混じった空気が、地下牢にまで染み込んでいた。私は歯を食いしばり、血がにじむ手で縄を石に押し当てた。繰り返す摩擦の先に、ぷつっと音がした。
細い線が何本か断ち切れるのを、肌が感じ取った。それは、絶望の中にわずかに射した光。手のひらに残るその感触が、私の心に火を点けた。
ドガァァァンッ!!!!
扉が破られたというより、吹き飛ばされたと表現したほうが近いだろう。巨大な衝撃音のあと、分厚い木の破片が飛び散り、光の奔流が牢に雪崩れ込む。その白い逆光の中、ひとりの騎士が音もなく立っていた。朝日を背に浴びて、その姿は神話の英雄のようだった。
「アイラッ!!」
その声が響いた瞬間、胸の奥に眠っていた何かが目を覚ました。私の名前を叫ぶその響きには力があった。優しさがあった。愛があった。それは、たった一人にしか出せない音色。どんな騒音にもかき消されない私の心だけに届く声。それは、私が世界で一番、大切に想っている彼の声だった。
「……カイ、様……!」
視界は涙で歪み、光の中の彼の姿が揺れていた。けれど、剣が放つ一閃の軌道だけは心に深く焼きついた。牢内の見張りは、反応する暇もなく地に崩れ落ちた。そのときにはもう、彼の靴音が私の心に響いていた。
痛みも、恐れも、すべてを置き去りにして、彼は一直線に私へ向かってくる。それは、ただの救出ではなかった。まるで、世界が再び動き出すその瞬間を告げるような静かな衝撃だった。
「大丈夫か、アイラ! 酷い怪我だ……! すまない、今すぐ助ける!」
彼は、剣で私の縄を断ち切ってくれた。自由になった腕で、私は彼の胸に飛びつきたい衝動に駆られた。でも、口から出たのは、思ってもいない言葉だった。
「……来ないでって……あれほど、心の中で叫んでいたのに……」
「……聞くわけがないだろう。君が俺を呼んでいるのに、俺が来ないわけがない。……馬鹿なことを言うな」
彼の指先が頬の痣に触れた。あの一撃の跡、ローズの怒りが形になって残ったもの。その瞬間、私の胸の奥に静かな衝撃が走った。そっと触れたその手から、あふれるような怒りと悲しみが伝わってくる。
「教えてくれ。この傷の理由を……そして、誰がやったのか」
そしてその瞳は、まるで何かを抑え込むようにぎりぎりと揺れていた。痛ましさを隠せないその表情に、私は初めて知った。彼はただ怒っているのではない。私の痛みを、自分の痛みとして受け止めてくれる人なのだと。
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