もうあなた達を愛する心はありません

娘は繊細で小さな妖精

「夫と息子を追放するなんて……そのような恐ろしい決断を下すなんて、信じられない……」

スカーレット夫人は、震える手で胸を押さえた。自分の家族のことのように感じ、夫と息子を追放するという残酷な現実を想像するだけで胸が痛んだ。さらに続ける。

「まさか！　夫と息子を追い出して、あなたの新しいパートナーでもお迎えするつもりですか？　あぁ、もう、家族を家具みたいに入れ替えられると思っているんですね！　全く理解できません！」

スカーレットの怒りは、金属製のケトルが沸騰しすぎてお湯があふれる瞬間のように、突然に怒りが爆発したかのように叫び、イリスを厳しく非難した。両手を広げて全身で憤りをぶつけるような姿は、体重計に乗った瞬間、ダイエットの努力が無駄だったことを知ったときの絶望感を、全身で発散させているかのようだった。

「スカーレット夫人、あまりにも自由すぎる想像はお控えください。今回の問題の原因は、あなた方がご令嬢を甘やかし、現実と虚構の境界を理解できず、嘘をつくことに罪悪感さえ感じない、愚かな大人に育て上げた結果に他なりません」

イリスは鋭く言い放った。スカーレットは、今すぐにでもイリスに飛びかかりそうな勢いだ。しかし、イリスは冷静に、あたかも昨日のランチメニューを思い出すような顔でその視線を受け止めていた。イリスは続ける。

「公爵夫人としての責任を教えようとすれば泣き叫び、自分の思う通りにいかないとすぐに誰かを責める。そんな未熟な方を、ジョージとダニエルはずっと庇い続けてきたのです」

その言葉に、スカーレットは感情が抑えきれなくなり、声を震わせて反論した。

「な……！　あ、あなたこそ、その傲慢な態度こそが……す、すべての原因だということが……な、なぜ理解しようとしないの！　あ、あなたの冷徹な教育が、うちの繊細で小さな妖精のように可愛いエレーヌちゃんをどれだけ苦しめたか……わ、わかっていないようですね！」

「繊細？　あら、面白いことをおっしゃるのね」

スカーレットが激しい態度を取っている中でも、イリスは落ち着いた様子で口元を上げて少し笑みを浮かべた。まるで道端で猫と目が合った時のように微笑みさえ見せる。

「そ、そうよ！　誰よりもエレーヌちゃんは繊細なの！　デリケートすぎて、風が吹いても泣いちゃうくらいなのよ！」

「そんな繊細な方が、自分の保身のために、夫の家族を悪役に仕立て上げ、その夫が家を追われることになっても、平気な顔をしていられるのかしら？」

イリスは穏やかに問いかけた。

「なんてことを言うの！　エレーヌちゃんは、天使のように純粋な子です！　この子が、そんな計算高いこと、できるはずがありませんわ！」

スカーレットは必死で声を荒げた。まるで最後の1個のスイーツを取られたと思った時のように、声が裏返って叫んだ。

「それなら、心を入れ替えたジョージとダニエルに聞いてみましょうか？」

「――な、なに！？　ジョージがいるのか！？　追放したんじゃないのか！？」

イリスの言葉に、ハリーは目を大きく見開き、突然目覚めたような顔で声を出した。追放したはずの親友、ジョージが公爵家にいるようだ。それを聞いたハリーは、驚きの中に少しの喜びを感じていた。長年探していた大事な宝物を見つけた時のように、安心した気持ちが胸に広がった。

「二人は、追放してすぐに詐欺にあってお金を取られ、数日で戻ってきました。『行くところがないから助けてくれ』と言ってきたので、リヒテンベルク公爵家の使用人の中で最下層として働かせることにしました。まるで、サイズの合わない服を返品しようとしても『無理です』と冷たく突き放され、仕方なくそれを受け入れるほかないようなものです」

離婚した夫と戸籍から除籍した息子は、公爵家の一番低いランクで雇うことにした。イリスの言葉が部屋に重く響くと、バーンズ伯爵家の顔に動揺が走った。