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食後でもデザートは別腹
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アルディンは胃に穴が開いたような気がしながら、硬直したまま立っていた。それでも、どうにか声を絞り出した。
「殿下……あの、け、決して言い訳をするつもりではないですが、その……少しだけ、申させていただけますか?」
アルディンの声はかすかに震え、喉が詰まるように言葉を口にする。
「なんだ? 申してみよ」
「殿下! この上なき感謝に存じます!」
「だが、不誠実なことを言えば即座に断罪する。そのことを心しておけ」
「は、はいっ!」
シャールは表情を崩さず、低く響く声で促した。アルディンの口ぶりは、やや堅苦しかったものの、その奥に滲むのは率直な喜びだった。しかし軽口を叩けば、容赦なき裁きを下すと厳命された。
「私はリーシャのもとへ伺い、説得を行う際に、ケーキを手土産として持参していくのですが……」
「その点も調査済みだ。オルステリア殿は、リーシャ嬢の屋敷へ向かう前に、ほぼ欠かさず菓子を購入しているな」
「は、はいっ! その通りにございます! 彼女はケーキを特に好みまして……それに加えて、せがまれた装飾品なども……」
言葉を発するごとに、アルディンの背筋は小さく震えた。アルディンが屋敷へ向かう前に、必ず菓子を手に入れていることもシャールは報告で知っていた。アルディンの口からは、恐怖と驚きの入り混じった声が漏れた。
「リーシャの望むものを手に入れるため、母の大切な宝石や家宝を質屋に差し出してしまい……母には辛い思いをさせてしまい、心から申し訳なく思っております……」
「それは、オルステリア殿のせいだろう? セフィーナを十年間も苦しめ続けた君の責任だ!」
「も、も、もちろん……お、おっしゃる通りでございます! 全ては……私の責任です……」
アルディンは、母の悲しむ顔を思い返して話したが、シャールに強く叱られ身を縮めるしかないほどの緊張に包まれた。アルディンは慌てて頭を下げると、自分の過ちを責める言葉を必死に口にした。
「それについて、君は何を感じている? 心中を聞かせてもらおうか?」
「彼女を……ずっと、ずっと苦しめ続けてしまい……自分を恥じるばかりで……情けなく……、本当に……本当に申し訳なく……思っております……」
シャールの視線が重くのしかかり、アルディンの口から出た最後の言葉は、かすれながら震えに飲まれ消えていった。
「それで、オルステリア殿が持参した菓子は、リーシャ嬢と共に味わっているのか?」
「い、いえ……リーシャが一人で食べておりまして、私は一度も味わったことがございません。ケーキを口にしながら、リーシャは『お腹がいっぱいでも、甘いものは別腹なのよ』と申しておりまして……私はその横で正座したまま眺めておりました」
シャールの問いに、アルディンはどこか寂しそうに答えた。菓子はいつもリーシャが独り占めで、彼には一口も分け与えられたことがなかった。
「ふむ……セフィーナもそうか?」
「そうですね、食事の後でも甘味は別にいただけますね」
シャールは顎に手を添え、セフィーナの顔を見た。問われたセフィーナは、はにかむように目を伏せながら頷いた。
その日も、アルディンがリーシャの部屋を訪れると、彼女は愛人の男たちと楽しんでいた。そしてその後、ケーキを口にしながら、リーシャはアルディンにこう告げた。
「それで、リーシャが言うのです。私は別腹なのだと……」
「なるほど……他の愛人たちの後であっても、オルステリア殿だけは別腹。リーシャ嬢の幼馴染ということで、一番の愛人だから特別枠というわけか?」
「リーシャの考えでは、そのような意味合いになるかと……」
シャールの問いに、アルディンは真剣な面持ちで答えた。
「殿下……あの、け、決して言い訳をするつもりではないですが、その……少しだけ、申させていただけますか?」
アルディンの声はかすかに震え、喉が詰まるように言葉を口にする。
「なんだ? 申してみよ」
「殿下! この上なき感謝に存じます!」
「だが、不誠実なことを言えば即座に断罪する。そのことを心しておけ」
「は、はいっ!」
シャールは表情を崩さず、低く響く声で促した。アルディンの口ぶりは、やや堅苦しかったものの、その奥に滲むのは率直な喜びだった。しかし軽口を叩けば、容赦なき裁きを下すと厳命された。
「私はリーシャのもとへ伺い、説得を行う際に、ケーキを手土産として持参していくのですが……」
「その点も調査済みだ。オルステリア殿は、リーシャ嬢の屋敷へ向かう前に、ほぼ欠かさず菓子を購入しているな」
「は、はいっ! その通りにございます! 彼女はケーキを特に好みまして……それに加えて、せがまれた装飾品なども……」
言葉を発するごとに、アルディンの背筋は小さく震えた。アルディンが屋敷へ向かう前に、必ず菓子を手に入れていることもシャールは報告で知っていた。アルディンの口からは、恐怖と驚きの入り混じった声が漏れた。
「リーシャの望むものを手に入れるため、母の大切な宝石や家宝を質屋に差し出してしまい……母には辛い思いをさせてしまい、心から申し訳なく思っております……」
「それは、オルステリア殿のせいだろう? セフィーナを十年間も苦しめ続けた君の責任だ!」
「も、も、もちろん……お、おっしゃる通りでございます! 全ては……私の責任です……」
アルディンは、母の悲しむ顔を思い返して話したが、シャールに強く叱られ身を縮めるしかないほどの緊張に包まれた。アルディンは慌てて頭を下げると、自分の過ちを責める言葉を必死に口にした。
「それについて、君は何を感じている? 心中を聞かせてもらおうか?」
「彼女を……ずっと、ずっと苦しめ続けてしまい……自分を恥じるばかりで……情けなく……、本当に……本当に申し訳なく……思っております……」
シャールの視線が重くのしかかり、アルディンの口から出た最後の言葉は、かすれながら震えに飲まれ消えていった。
「それで、オルステリア殿が持参した菓子は、リーシャ嬢と共に味わっているのか?」
「い、いえ……リーシャが一人で食べておりまして、私は一度も味わったことがございません。ケーキを口にしながら、リーシャは『お腹がいっぱいでも、甘いものは別腹なのよ』と申しておりまして……私はその横で正座したまま眺めておりました」
シャールの問いに、アルディンはどこか寂しそうに答えた。菓子はいつもリーシャが独り占めで、彼には一口も分け与えられたことがなかった。
「ふむ……セフィーナもそうか?」
「そうですね、食事の後でも甘味は別にいただけますね」
シャールは顎に手を添え、セフィーナの顔を見た。問われたセフィーナは、はにかむように目を伏せながら頷いた。
その日も、アルディンがリーシャの部屋を訪れると、彼女は愛人の男たちと楽しんでいた。そしてその後、ケーキを口にしながら、リーシャはアルディンにこう告げた。
「それで、リーシャが言うのです。私は別腹なのだと……」
「なるほど……他の愛人たちの後であっても、オルステリア殿だけは別腹。リーシャ嬢の幼馴染ということで、一番の愛人だから特別枠というわけか?」
「リーシャの考えでは、そのような意味合いになるかと……」
シャールの問いに、アルディンは真剣な面持ちで答えた。
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