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第32話
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「……私の事をそんなに大切に思ってくださって……うぅ……」
セリーヌの労わりの言葉が胸に染み込んで、アルバートは感動して男泣きを見せた。両手で顔を覆い体を震わせて泣いている。
「私は当たり前の事を言ってるだけだから、そんなに泣かないで……」
「すみません。社長ありがとうございます……うわあああああんっ!」
セリーヌはやれやれという感じで、年上であるアルバートの頭を撫でる余裕を見せた。アルバートの顔には大粒の涙と鼻水が溢れている。感情の熱が高まって、悲痛な泣き声をあげて崩れ落ち床にしゃがみ込んでしまった。
「――アルバートいつまで床にうずくまって泣いてるの? 弟さんの足を治したいなら連れてきなさい!」
「……はい……ぐすぐす……」
その後しばらく部屋の中はアルバートの泣き声だけが響いていた。そろそろ限界だと感じはじめたセリーヌは口を切る。いつまでもぐずぐずしてないで弟を連れてきなさい! とセリーヌに言われると、アルバートは鼻をぐすぐす言わせながら返事をした。
「さあ立ちなさい!」
「はい……」
アルバートはまだぺたんと床に座り込んでいる。セリーヌは肩を叩いて、しっかりしなさいという風に声をかけた。アルバートはセリーヌに泣き顔を見られるのが恥ずかしくて、手で隠しながらゆっくりと腰を上げた。
「社長それでは明日の朝に、弟を連れて来ますけどよろしいですか?」
「わかったわ」
「もう社長の正体がどちら様なのか、知ろうともしつこく聞くような事はいたしません。社長が話したくなりましたら聞かせてください」
立ち上がったアルバートは、泣きはらした赤い目でセリーヌの顔を見つめて言った。もう一度確認せずにはいられなかったのだ。セリーヌが快く引き受けると、アルバートは嬉しすぎて喜びを隠せなくてまた泣きそうになるのを抑えながら話す。
セリーヌという女性がどこの誰なのかと尋ねましたが、もうそんな事は彼の中ではどうでも良かった。ただ弟の失った足を治してくれる素晴らしい女性なんだ! という気持ちでどんなに感謝しても足りない気がした。
(あの人に、ずっと尽くしていこう……)
弟の足が治る! 帰り道を歩いているアルバートはセリーヌの事をまるで雲の上の人だと思いながら、ぼんやり微笑を浮かべ残りの生涯を彼女に捧げることを決意した。
朝に同じ道を歩いていた時は、弟の足のことで絶望した雰囲気でげっそりとやつれて、完全に魂の抜け殻になっていたが今は太陽みたいに明るく輝いた顔に変わっていた。
セリーヌの労わりの言葉が胸に染み込んで、アルバートは感動して男泣きを見せた。両手で顔を覆い体を震わせて泣いている。
「私は当たり前の事を言ってるだけだから、そんなに泣かないで……」
「すみません。社長ありがとうございます……うわあああああんっ!」
セリーヌはやれやれという感じで、年上であるアルバートの頭を撫でる余裕を見せた。アルバートの顔には大粒の涙と鼻水が溢れている。感情の熱が高まって、悲痛な泣き声をあげて崩れ落ち床にしゃがみ込んでしまった。
「――アルバートいつまで床にうずくまって泣いてるの? 弟さんの足を治したいなら連れてきなさい!」
「……はい……ぐすぐす……」
その後しばらく部屋の中はアルバートの泣き声だけが響いていた。そろそろ限界だと感じはじめたセリーヌは口を切る。いつまでもぐずぐずしてないで弟を連れてきなさい! とセリーヌに言われると、アルバートは鼻をぐすぐす言わせながら返事をした。
「さあ立ちなさい!」
「はい……」
アルバートはまだぺたんと床に座り込んでいる。セリーヌは肩を叩いて、しっかりしなさいという風に声をかけた。アルバートはセリーヌに泣き顔を見られるのが恥ずかしくて、手で隠しながらゆっくりと腰を上げた。
「社長それでは明日の朝に、弟を連れて来ますけどよろしいですか?」
「わかったわ」
「もう社長の正体がどちら様なのか、知ろうともしつこく聞くような事はいたしません。社長が話したくなりましたら聞かせてください」
立ち上がったアルバートは、泣きはらした赤い目でセリーヌの顔を見つめて言った。もう一度確認せずにはいられなかったのだ。セリーヌが快く引き受けると、アルバートは嬉しすぎて喜びを隠せなくてまた泣きそうになるのを抑えながら話す。
セリーヌという女性がどこの誰なのかと尋ねましたが、もうそんな事は彼の中ではどうでも良かった。ただ弟の失った足を治してくれる素晴らしい女性なんだ! という気持ちでどんなに感謝しても足りない気がした。
(あの人に、ずっと尽くしていこう……)
弟の足が治る! 帰り道を歩いているアルバートはセリーヌの事をまるで雲の上の人だと思いながら、ぼんやり微笑を浮かべ残りの生涯を彼女に捧げることを決意した。
朝に同じ道を歩いていた時は、弟の足のことで絶望した雰囲気でげっそりとやつれて、完全に魂の抜け殻になっていたが今は太陽みたいに明るく輝いた顔に変わっていた。
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