「犯人は追放!」無実の彼女は国に絶対に必要な能力者で“価値の高い女性”だった

佐藤 美奈

文字の大きさ
32 / 65

第32話

しおりを挟む
「……私の事をそんなに大切に思ってくださって……うぅ……」

セリーヌの労わりの言葉が胸に染み込んで、アルバートは感動して男泣きを見せた。両手で顔を覆い体を震わせて泣いている。

「私は当たり前の事を言ってるだけだから、そんなに泣かないで……」
「すみません。社長ありがとうございます……うわあああああんっ!」

セリーヌはやれやれという感じで、年上であるアルバートの頭を撫でる余裕を見せた。アルバートの顔には大粒の涙と鼻水が溢れている。感情の熱が高まって、悲痛な泣き声をあげて崩れ落ち床にしゃがみ込んでしまった。

「――アルバートいつまで床にうずくまって泣いてるの? 弟さんの足を治したいなら連れてきなさい!」
「……はい……ぐすぐす……」

その後しばらく部屋の中はアルバートの泣き声だけが響いていた。そろそろ限界だと感じはじめたセリーヌは口を切る。いつまでもぐずぐずしてないで弟を連れてきなさい! とセリーヌに言われると、アルバートは鼻をぐすぐす言わせながら返事をした。

「さあ立ちなさい!」
「はい……」

アルバートはまだぺたんと床に座り込んでいる。セリーヌは肩を叩いて、しっかりしなさいという風に声をかけた。アルバートはセリーヌに泣き顔を見られるのが恥ずかしくて、手で隠しながらゆっくりと腰を上げた。

「社長それでは明日の朝に、弟を連れて来ますけどよろしいですか?」
「わかったわ」
「もう社長の正体がどちら様なのか、知ろうともしつこく聞くような事はいたしません。社長が話したくなりましたら聞かせてください」

立ち上がったアルバートは、泣きはらした赤い目でセリーヌの顔を見つめて言った。もう一度確認せずにはいられなかったのだ。セリーヌが快く引き受けると、アルバートは嬉しすぎて喜びを隠せなくてまた泣きそうになるのを抑えながら話す。

セリーヌという女性がどこの誰なのかと尋ねましたが、もうそんな事は彼の中ではどうでも良かった。ただ弟の失った足を治してくれる素晴らしい女性なんだ! という気持ちでどんなに感謝しても足りない気がした。

(あの人に、ずっと尽くしていこう……)

弟の足が治る! 帰り道を歩いているアルバートはセリーヌの事をまるで雲の上の人だと思いながら、ぼんやり微笑を浮かべ残りの生涯を彼女に捧げることを決意した。

朝に同じ道を歩いていた時は、弟の足のことで絶望した雰囲気でげっそりとやつれて、完全に魂の抜け殻になっていたが今は太陽みたいに明るく輝いた顔に変わっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】お飾り妃〜寵愛は聖女様のモノ〜

恋愛
今日、私はお飾りの妃となります。 ※実際の慣習等とは異なる場合があり、あくまでこの世界観での要素もございますので御了承ください。

婚約破棄されましたが、おかげで聖女になりました

瀬崎由美
恋愛
「アイラ・ロックウェル、君との婚約は無かったことにしよう」そう婚約者のセドリックから言い放たれたのは、通っていた学園の卒業パーティー。婚約破棄の理由には身に覚えはなかったけれど、世間体を気にした両親からはほとぼりが冷めるまでの聖地巡礼——世界樹の参拝を言い渡され……。仕方なく朝夕の参拝を真面目に行っていたら、落ちてきた世界樹の実に頭を直撃。気を失って目が覚めた時、私は神官達に囲まれ、横たえていた胸の上には実から生まれたという聖獣が乗っかっていた。どうやら私は聖獣に見初められた聖女らしい。 そして、その場に偶然居合わせていた第三王子から求婚される。問題児だという噂の第三王子、パトリック。聖女と婚約すれば神殿からの後ろ盾が得られると明け透けに語る王子に、私は逆に清々しさを覚えた。

婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない

nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?

婚約破棄が私を笑顔にした

夜月翠雨
恋愛
「カトリーヌ・シャロン! 本日をもって婚約を破棄する!」 学園の教室で婚約者であるフランシスの滑稽な姿にカトリーヌは笑いをこらえるので必死だった。 そこに聖女であるアメリアがやってくる。 フランシスの瞳は彼女に釘付けだった。 彼女と出会ったことでカトリーヌの運命は大きく変わってしまう。 短編を小分けにして投稿しています。よろしくお願いします。

【完結】金で買われた婚約者と壊れた魔力の器

miniko
恋愛
子爵家の令嬢であるメリッサは、公爵家嫡男のサミュエルと婚約している。 2人はお互いに一目惚れし、その仲を公爵家が認めて婚約が成立。 本当にあったシンデレラストーリーと噂されていた。 ところが、結婚を目前に控えたある日、サミュエルが隣国の聖女と恋に落ち、メリッサは捨てられてしまう。 社交界で嘲笑の対象となるメリッサだが、実はこの婚約には裏があって・・・ ※全体的に設定に緩い部分が有りますが「仕方ないな」と広い心で許して頂けると有り難いです。 ※恋が動き始めるまで、少々時間がかかります。 ※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしておりません。本編未読の方はご注意下さい。

自称聖女の従姉に誑かされた婚約者に婚約破棄追放されました、国が亡ぶ、知った事ではありません。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」「ノベルバ」に同時投稿しています。 『偽者を信じて本物を婚約破棄追放するような国は滅びればいいのです。』  ブートル伯爵家の令嬢セシリアは不意に婚約者のルドルフ第三王子に張り飛ばされた。華奢なセシリアが筋肉バカのルドルフの殴られたら死の可能性すらあった。全ては聖女を自称する虚栄心の強い従姉コリンヌの仕業だった。公爵令嬢の自分がまだ婚約が決まらないのに、伯爵令嬢でしかない従妹のセシリアが第三王子と婚約しているのに元々腹を立てていたのだ。そこに叔父のブートル伯爵家ウィリアムに男の子が生まれたのだ。このままでは姉妹しかいないウィルブラハム公爵家は叔父の息子が継ぐことになる。それを恐れたコリンヌは筋肉バカのルドルフを騙してセシリアだけでなくブートル伯爵家を追放させようとしたのだった。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星井ゆの花(星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2025年10月25日、外編全17話投稿済み。第二部準備中です。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

婚約破棄を求められました。私は嬉しいですが、貴方はそれでいいのですね?

ゆるり
恋愛
アリシエラは聖女であり、婚約者と結婚して王太子妃になる筈だった。しかし、ある少女の登場により、未来が狂いだす。婚約破棄を求める彼にアリシエラは答えた。「はい、喜んで」と。

処理中です...