好きじゃない人と結婚した「愛がなくても幸せになれると知った」プロポーズは「君は家にいるだけで何もしなくてもいい」

第16話 充実した安全で幸福な日常生活を大切に生きる

オリバーが公爵家に滞在してから、あっという間に十日が過ぎた。別れの朝、アイラは満面の笑みで見送っていた。

「オリバー様、遠路はるばるお越しいただき、ありがとうございました。またいつでもいらしてくださいね」

（内心では、しばらくはご遠慮願いたいところですけどね！　色々と、刺激が強すぎましたわ！）

オリバーは、少し寂しそうな表情でアイラに向き直った。

「アイラ様、温かいおもてなし、心より感謝いたします。公爵家での日々は、本当に楽しく、あっという間でした」

（まあ、社交辞令でしょうけど）

アイラは心の中で冷静に分析していた。

一方、ロバートとオリバーは、言葉少なに深く見つめ合っていた。まるで、長年連れ添ったパートナーとの別れを惜しむかのように。

「オリバー、また近いうちに会おう」

「ああ、ロバート。僕もそう願っている」

ロバートは、真剣な顔で静かに重みのある低い声で言うと、オリバーも目を逸らさずに同じように低い声で答えた。

（あらあら、まるで映画のワンシーンみたい。熱い友情物語ってやつかしら？　それとも、別の種類の熱い何か、なのかしら？）

アイラは、その様子を微笑ましく眺めていた。二人の間にどんな感情があろうと、今は互いを尊重し認め合う美しい友情に見える。それでいいじゃないかとアイラは思った。

（まあ、二人がいちゃいちゃしていようと、私には関係ないわ。私がこの公爵家で、それなりに幸せに暮らせていれば、それで十分よ）

義母のステラは、いつも変わらぬ柔らかな笑顔でオリバーに話しかけた。

「オリバー、お気をつけてお帰りくださいね。いつでも、この家はあなたの帰りを歓迎いたしますわ」

義父のジェームズも、穏やかな声で続けた。

「ああ、オリバー。またゆっくりと話せる日を楽しみにしているよ」

（お義父様、お義母様……お二人の温かさは、本当に本物だわ。この家に嫁いで、本当に良かった）

アイラは、義両親の温かい人柄に触れ、じんわりと心が温かくなるのを感じていた。ロバートの個人的なことはさておき、この公爵家には確かな幸せが存在している。

（そうよ、これでいいの。何気ない日常の中にこそ、ささやかな幸せはたくさんあるんだから）

オリバーの乗った馬車が、ゆっくりと公爵家の庭を離れていく。アイラは、手を振ってそれを見送った。空はどこまでも青く澄み渡り、庭の花々は穏やかな風に揺れている。

（今日から、またいつもの静かで、何不自由のない快適な日常が戻ってくるのね）

アイラは、安心した顔で心の安らぎを感じながら、ゆっくりと屋敷の中へと戻っていった。結婚はアイラにとって、大切なのは劇的なラブストーリーではなく、穏やかで温かい日々だったのだから――

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またどこかの物語でお会いできますように。