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「ラウルは何をしてるの!」
ベッドに横になっているナタリア公爵令嬢は起き上がりながら焦燥した声を出した。とにかく気分がむしゃくしゃした。それも当然だろうと思う。なぜなら婚約者であるラウル王子はナタリアのお見舞いに来てくれたことが一度もないのだ。
ナタリアが体調を崩して倒れてから約一年も経っているのに、大切に思っているのなら顔を見に来るのが普通だろう。愛し合って婚約したラウルが来てくれたらナタリアも励みになることはいうまでもない。
最初の頃は仕事で忙しい時なのだろうと思っていましたが、日を追うごとに苛立ちを募らせていたというわけだ。自分は大切じゃないのか?と不安そうな顔をして今や遅しと待ち望んでいたのである。
「おかわいそうに……」
「ナタリア様はどんなにお苦しみなさったことか」
「ラウル王子に振られたんじゃないの?」
「そんな事あるわけないでしょ!」
「あなた口が過ぎますよ」
「ご、ごめん」
公爵家のメイドたちは常々心配して哀れんでいるかのように口々に言い合う。ことさらにナタリアの不幸を嘆いてくれる子もいれば、不真面目な顔で茶化して笑いの種にする子もいる。それは彼女たちが生まれてから自分の境遇でこれまで積み上げてきた性格的なものなのだろう。
「お食事をお持ちしました」
その日の昼頃、ドアをノックする音がした。病気のため部屋にこもりきりのナタリアのために食事を運んできたのでした。いつもの通りメイドは部屋へ入って行きベッドのほうへ近づいて来ました。
「ナタリアお嬢様?」
ベッド脇に立つとナタリアに声をかけた。ベッドがこんもりと盛り上っていたので眠っているようだと思う。しかし朝に部屋に入って声をかけた時も返事はなかった。メイドは急に奇妙な違和感を覚えた。寝息を立てていないことにも気付いた。
「お嬢様!?」
メイドは飛び上がるような声を出して驚いた顔で腰が抜けそうでした。ふとんをめくってみると、ナタリアの姿はなく代わりに丸められた毛布が入っていた。どうしようかという言いようのない不安が胸に押し寄せてくる。
「ナタリアお嬢様が居なくなりましたーーーーーーー」
部屋からナタリアがいなくなった。一大事が起きたことを告げてメイドたちはざわざわと騒ぎ始めた。ナタリアの行方を捜してあちこちと部屋の中を歩き回り、庭の中をかけ回って公爵邸は騒がしい足音が響いている。メイドたちは何かとんでもないことでも始まりそうな気分になっていた。
ベッドに横になっているナタリア公爵令嬢は起き上がりながら焦燥した声を出した。とにかく気分がむしゃくしゃした。それも当然だろうと思う。なぜなら婚約者であるラウル王子はナタリアのお見舞いに来てくれたことが一度もないのだ。
ナタリアが体調を崩して倒れてから約一年も経っているのに、大切に思っているのなら顔を見に来るのが普通だろう。愛し合って婚約したラウルが来てくれたらナタリアも励みになることはいうまでもない。
最初の頃は仕事で忙しい時なのだろうと思っていましたが、日を追うごとに苛立ちを募らせていたというわけだ。自分は大切じゃないのか?と不安そうな顔をして今や遅しと待ち望んでいたのである。
「おかわいそうに……」
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「そんな事あるわけないでしょ!」
「あなた口が過ぎますよ」
「ご、ごめん」
公爵家のメイドたちは常々心配して哀れんでいるかのように口々に言い合う。ことさらにナタリアの不幸を嘆いてくれる子もいれば、不真面目な顔で茶化して笑いの種にする子もいる。それは彼女たちが生まれてから自分の境遇でこれまで積み上げてきた性格的なものなのだろう。
「お食事をお持ちしました」
その日の昼頃、ドアをノックする音がした。病気のため部屋にこもりきりのナタリアのために食事を運んできたのでした。いつもの通りメイドは部屋へ入って行きベッドのほうへ近づいて来ました。
「ナタリアお嬢様?」
ベッド脇に立つとナタリアに声をかけた。ベッドがこんもりと盛り上っていたので眠っているようだと思う。しかし朝に部屋に入って声をかけた時も返事はなかった。メイドは急に奇妙な違和感を覚えた。寝息を立てていないことにも気付いた。
「お嬢様!?」
メイドは飛び上がるような声を出して驚いた顔で腰が抜けそうでした。ふとんをめくってみると、ナタリアの姿はなく代わりに丸められた毛布が入っていた。どうしようかという言いようのない不安が胸に押し寄せてくる。
「ナタリアお嬢様が居なくなりましたーーーーーーー」
部屋からナタリアがいなくなった。一大事が起きたことを告げてメイドたちはざわざわと騒ぎ始めた。ナタリアの行方を捜してあちこちと部屋の中を歩き回り、庭の中をかけ回って公爵邸は騒がしい足音が響いている。メイドたちは何かとんでもないことでも始まりそうな気分になっていた。
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