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第6話
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「婚約を破棄された腹いせに、カタリーナを陥れようとは。公爵令嬢にあるまじき振る舞いだ。お前のその捻じ曲がった性根が、その醜い顔にも表れている!」
その時だった。
「まあ、ひどいわ!」
カタリーナが、悲鳴のような声を上げた。彼女はアーロンの腕の中から飛び出すと、庭師の前に走り寄り、はらりはらりと大粒の涙をこぼしながら、その場に崩れ落ちた。
「おじいさん、どうしてそんな嘘を吐くのですか! 私が、あなたに何をしたというのです! アーロン様と私が愛し合っているのが、そんなに妬ましいのですか! ミリア様、あなたにそう言えと、脅されたのですね!?」
見事な演技だった。悲劇のヒロイン。嫉妬に狂った女に陥れられようとしている哀れで純真な少女。
庭師の顔は、みるみるうちに青ざめていった。
「さあ、本当のことを言うんだ!」
アーロンの厳しい声が飛ぶ。
老人は、カタリーナとアーロン、そして私を交互に見て、やがて、がっくりと肩を落とした。
「……申し訳ございません。ミリア様に、そう言えと、脅されたのでございます。カタリーナ様は、何も……」
ああ、やっぱり。
そうなることは、わかっていた。権力の前では、真実なんて、いとも簡単に捻じ曲げられてしまう。
「アーロン様……!」
カタリーナが、涙ながらに訴える。彼女はアーロンの足元にすがりつき、彼のズボンを濡れた頬で汚している。
「……ミリア、いい加減にしろ! 醜いぞ!」
アーロンの声は、氷点下の刃のようだった。私に婚約破棄を告げた時と同じ声。
その言葉が、引き金になった。
大広間に、失望のため息が漏れた。ああ、やはり、と誰もが思っただろう。火傷の痕を持つ元婚約者が、若く美しい新しい婚約者に嫉妬して、狂言を働いたのだと。笑いを含んだ視線が、私の存在ごと踏みにじるように降りかかってくる。
だが、私はもう、傷つかなかった。
彼の本性は、とうの昔に知っている。この世界の、残酷な仕組みも。
「醜い、ですか」
私は、ふ、と笑った。
その反応が意外だったのか、アーロンの目がわずかに見開かれる。
「そうですか。それが、殿下のご判断なのですね」
私は静かに言った。私の冷静さが、逆に広間のざわめきを大きくする。誰もが、私の感情が制御不能に暴れ出す様を観察する準備をしていた。それがこの騒動の“正しい結末”であるかのように。
アーロンは、そんな私をいぶかしげに見ている。ぴたりと止まっていた空気の糸が、カタリーナの吐いた安堵の息で、静かにほどけた。彼女は勝ったと思ったのだ。まだ早いのに。
甘いわ、カタリーナ。
勝負は、まだ始まったばかりよ。
「ですが、証人は庭師だけではございませんの、エリザ」
私の合図で、エリザは懐から一枚の羊皮紙を取り出した。
「ここに、カタリーナ嬢が、ご自身の侍女に宛てて書いたお手紙がございます」
カタリーナの顔から、さっと血の気が引いた。
その時だった。
「まあ、ひどいわ!」
カタリーナが、悲鳴のような声を上げた。彼女はアーロンの腕の中から飛び出すと、庭師の前に走り寄り、はらりはらりと大粒の涙をこぼしながら、その場に崩れ落ちた。
「おじいさん、どうしてそんな嘘を吐くのですか! 私が、あなたに何をしたというのです! アーロン様と私が愛し合っているのが、そんなに妬ましいのですか! ミリア様、あなたにそう言えと、脅されたのですね!?」
見事な演技だった。悲劇のヒロイン。嫉妬に狂った女に陥れられようとしている哀れで純真な少女。
庭師の顔は、みるみるうちに青ざめていった。
「さあ、本当のことを言うんだ!」
アーロンの厳しい声が飛ぶ。
老人は、カタリーナとアーロン、そして私を交互に見て、やがて、がっくりと肩を落とした。
「……申し訳ございません。ミリア様に、そう言えと、脅されたのでございます。カタリーナ様は、何も……」
ああ、やっぱり。
そうなることは、わかっていた。権力の前では、真実なんて、いとも簡単に捻じ曲げられてしまう。
「アーロン様……!」
カタリーナが、涙ながらに訴える。彼女はアーロンの足元にすがりつき、彼のズボンを濡れた頬で汚している。
「……ミリア、いい加減にしろ! 醜いぞ!」
アーロンの声は、氷点下の刃のようだった。私に婚約破棄を告げた時と同じ声。
その言葉が、引き金になった。
大広間に、失望のため息が漏れた。ああ、やはり、と誰もが思っただろう。火傷の痕を持つ元婚約者が、若く美しい新しい婚約者に嫉妬して、狂言を働いたのだと。笑いを含んだ視線が、私の存在ごと踏みにじるように降りかかってくる。
だが、私はもう、傷つかなかった。
彼の本性は、とうの昔に知っている。この世界の、残酷な仕組みも。
「醜い、ですか」
私は、ふ、と笑った。
その反応が意外だったのか、アーロンの目がわずかに見開かれる。
「そうですか。それが、殿下のご判断なのですね」
私は静かに言った。私の冷静さが、逆に広間のざわめきを大きくする。誰もが、私の感情が制御不能に暴れ出す様を観察する準備をしていた。それがこの騒動の“正しい結末”であるかのように。
アーロンは、そんな私をいぶかしげに見ている。ぴたりと止まっていた空気の糸が、カタリーナの吐いた安堵の息で、静かにほどけた。彼女は勝ったと思ったのだ。まだ早いのに。
甘いわ、カタリーナ。
勝負は、まだ始まったばかりよ。
「ですが、証人は庭師だけではございませんの、エリザ」
私の合図で、エリザは懐から一枚の羊皮紙を取り出した。
「ここに、カタリーナ嬢が、ご自身の侍女に宛てて書いたお手紙がございます」
カタリーナの顔から、さっと血の気が引いた。
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