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第33話
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空気が、ガラスみたいに張り詰めてる。さっきまでの悲鳴や喧騒が嘘みたいに、大広間から音が消えた。私の手の中にある一本のナイフ。その切っ先が、この国の実質的な支配者である王太后の喉元に触れている。ただ、それだけ。たったそれだけのことで世界の歯車が、ぴたりと止まった。
王はその場に佇んだまま、何も言わずに黙り込んでいた。言葉もなく、ただ重苦しい空気だけが私たちの間に流れ続ける。この瞬間の空気をどう切り開くべきか、全てが私の言葉に託されているような気がして、心の中で冷や汗をかいていた。その不動の静けさの中に漂う緊張感に耐えきれず、私は王太后に向けて命じることとなった。
「あなたが今すぐに、王にアーロン様の名誉を回復させるように命じなさい」
自分の声が、信じられないほど低く明確に響いた。それはまるで、心の深層からしぼり出した一言のようだった。どんな迷いも後悔もなく、揺るぎない決意だけがその声に込められていた。
この一言が、私の運命を決める。いや、もはや運命などというものはどうでもいい。今この瞬間、私が決めたことが全てだ。後ろを振り返るつもりも、振り返るべきでもない。もう、どんな未来が待ち受けていようとも私は進むしかない。
王太后の薄い唇が、わずかに動いた。その表情は、あざけりの笑みと呼ぶにはあまりにも静かで、どこか不気味なほどに冷静な非難を感じさせるものだった。ほんの少しの動きで、彼女の意思を感じ取ることができる。その表情に込められた感情は、私を試すように、じっと睨みつけているかのようだ。
その一瞬に、怒りがこみ上げる。さっき私が軽く突き刺した時、王太后は臆病な悲鳴を上げていた。しかし今、彼女は私をまるで自分を試すように、冷ややかな目で私を貫くように見つめている。年齢の重みから来る余裕か? それとも死すら恐れぬ覚悟から来る強さか?
どちらでも構わない。ただ、今ここで確かなことは、あなたの命を握っているのは私だという事実だ。
「私を脅すことが、できると思っているのか? お前に私は殺せない」
先ほどの不安な声が嘘のように、王太后の言葉は静かに冷酷に私の耳に届いた。まるで闇の中から聞こえる冷たい命令のようだ。
この女は、いつだって余裕を持って他人を引きずり落とし、笑みを浮かべながらその全てを支配してきた。今、目の前で再びその姿を目撃した私は、胸の中で沸き上がる怒りをどうしても抑えきれなかった。
「できるわ」
私はその冷たい笑みを浮かべながら、ただ相手を見つめ続けた。あまりにも乾いた笑いだった。その表情には一切の温もりがなく、むしろその無感情な笑顔が、私の心の中の冷徹な部分を鮮明に映し出しているように感じた。
彼女の目に浮かぶわずかな動揺を見て、私はさらにその笑みを深める。その時、私は完全に支配していると感じていた。王国の運命を決定づける王太后を。
その瞬間だった――
「母上を助けてぇぇぇっ!!!」
王の声が、広間に響き渡った。その叫びは泣き声に近く、王の内に秘めていた全ての感情を吐き出すかのように放たれた。王の冷徹な仮面が剥がれ、素顔が見えた。その声には、深い絶望と切なさが溢れ、まるで命を懸けたお願いのように重く響いた。
王の目は涙に濡れ、必死に足を踏み出すものの、もう手の届かない場所に母上が行くと思うと叫ばずにはいられなかった。王は自分の最も弱い部分を貴族たちに見せてしまった。この時の王は、恥を感じる余地すらなくなっていた。
「母親を呼んで泣き叫ぶ暇があるなら、私とアーロン様の罪を取り消すと今すぐ決断して宣言しなさい! あなたの大事な母上を救いたいのなら、今すぐ行動に移しなさい!」
カタリーナの言葉の一つ一つが、王の心を揺さぶり、逃げ場のない選択を突きつけていた。彼女は、その場に立ちすくむ王を容赦なく追い込んでいった。王は、その声に耳を傾けるほかなく、その瞬間に全てを決める覚悟が試されていた。
国の安定を脅かす暗黒の美姫は王の背中を押し、彼の心に冷徹な決意を植え付ける。その冷徹な美しさが、王の心を圧倒し、彼を避けられない決断へと導く。
王はその場に佇んだまま、何も言わずに黙り込んでいた。言葉もなく、ただ重苦しい空気だけが私たちの間に流れ続ける。この瞬間の空気をどう切り開くべきか、全てが私の言葉に託されているような気がして、心の中で冷や汗をかいていた。その不動の静けさの中に漂う緊張感に耐えきれず、私は王太后に向けて命じることとなった。
「あなたが今すぐに、王にアーロン様の名誉を回復させるように命じなさい」
自分の声が、信じられないほど低く明確に響いた。それはまるで、心の深層からしぼり出した一言のようだった。どんな迷いも後悔もなく、揺るぎない決意だけがその声に込められていた。
この一言が、私の運命を決める。いや、もはや運命などというものはどうでもいい。今この瞬間、私が決めたことが全てだ。後ろを振り返るつもりも、振り返るべきでもない。もう、どんな未来が待ち受けていようとも私は進むしかない。
王太后の薄い唇が、わずかに動いた。その表情は、あざけりの笑みと呼ぶにはあまりにも静かで、どこか不気味なほどに冷静な非難を感じさせるものだった。ほんの少しの動きで、彼女の意思を感じ取ることができる。その表情に込められた感情は、私を試すように、じっと睨みつけているかのようだ。
その一瞬に、怒りがこみ上げる。さっき私が軽く突き刺した時、王太后は臆病な悲鳴を上げていた。しかし今、彼女は私をまるで自分を試すように、冷ややかな目で私を貫くように見つめている。年齢の重みから来る余裕か? それとも死すら恐れぬ覚悟から来る強さか?
どちらでも構わない。ただ、今ここで確かなことは、あなたの命を握っているのは私だという事実だ。
「私を脅すことが、できると思っているのか? お前に私は殺せない」
先ほどの不安な声が嘘のように、王太后の言葉は静かに冷酷に私の耳に届いた。まるで闇の中から聞こえる冷たい命令のようだ。
この女は、いつだって余裕を持って他人を引きずり落とし、笑みを浮かべながらその全てを支配してきた。今、目の前で再びその姿を目撃した私は、胸の中で沸き上がる怒りをどうしても抑えきれなかった。
「できるわ」
私はその冷たい笑みを浮かべながら、ただ相手を見つめ続けた。あまりにも乾いた笑いだった。その表情には一切の温もりがなく、むしろその無感情な笑顔が、私の心の中の冷徹な部分を鮮明に映し出しているように感じた。
彼女の目に浮かぶわずかな動揺を見て、私はさらにその笑みを深める。その時、私は完全に支配していると感じていた。王国の運命を決定づける王太后を。
その瞬間だった――
「母上を助けてぇぇぇっ!!!」
王の声が、広間に響き渡った。その叫びは泣き声に近く、王の内に秘めていた全ての感情を吐き出すかのように放たれた。王の冷徹な仮面が剥がれ、素顔が見えた。その声には、深い絶望と切なさが溢れ、まるで命を懸けたお願いのように重く響いた。
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