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第26話

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「――ん……ここは……?」

目覚めたときには、不思議な温かさに包まれている感じがした。だがあまりに疲れすぎて体が全く動かなかった。アンナは部屋の匂いでなつかしい思い出がよみがえってくる。

「アンナ、良かった……」

マイケルの声だった。そばに腰を下ろして今まで見守っていた。アンナが眠っている間、彼は涙を流してひどく苦しんでいるようだった。意識を取り戻したアンナの顔をのぞき込んで嬉しそうな顔をしている。


――二人は親しげな口調でぼんやりとした会話を続ける。すっかり仲直りして幸せな時を過ごした。だが結婚して彼の家で暮らすのは勘弁かんべんしてほしいと思うアンナであった。

「アンナ幸せになってね」

次の瞬間、クロエがアンナの耳元でささやいた。魔法で姿を消しているので、目には見えませんでしたがアンナには、その声が姉だと即座そくざにわかりました。

「クロエお姉様……?」
「……突然アンナどうしたの?」

アンナは思わず目を見開いた。するとさびしそうな顔になり、姉の名前をぽつりとつぶやいた。マイケルは不意に表情を変えるアンナが気になって問いかけました。顔を見ながら会話をしていたので彼女の様子の変化に直ぐに気がついたのです。

「たった今、お姉様の声が聞こえて……」
「え?僕には何も聞こえなかったけど?」
「私の耳元で小さな声だったので、あなたは聞こえなかったのね。だけど間違いなくクロエお姉様の声でした」

鼓膜こまくふるえてクロエお姉様の声が聞こえた。アンナはそう言いますがマイケルはちょっと首をかしげつつ、何も聞こえなかったと答える。クロエの声はアンナでも非常に小さくしか聞こえなかったので、彼が聞こえないのも仕方ないだろう。

「……だけどアンナがそういうなら信じるよ。きっと僕たちの事を心配してくれてるんだろうね」

君が言うなら信じる。彼は優しい眼差まなざしでアンナを見つめて穏やかな口調で言った。アンナは明らかに感傷的になっていた。姉に会って謝りたいけど、もうそれはできないので諦めていた。

「……お姉様……ごめんなさあああああいっ!!それから長らくこの国で私たちの命と生活を守り続けていただきありがとうございます。そしてご苦労様でした……」

でも今、自分の近くにいるならと甲高かんだかい悲鳴を上げる。なぜこんなにも涙が止まらないんだろう?アンナはクロエの存在が何もかも奇跡きせきのような出来事であったと感じながら、神に心から感謝したい気持ちでいっぱいでした。

妹の問題が解決したのを見届けたクロエは、元婚約者のガブリエルとエリザベス女王のところに行くことにした。そこで彼に衝撃しょうげきのいたずらをするのだった。

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新作「聖女に王子と幼馴染をとられて婚約破棄「犯人は追放!」無実の彼女は国に絶対に必要な能力者で価値の高い女性だった。」を投稿しました。よろしくお願いします。
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