「愛も信頼も消えた」妻を苦しめた夫一家の結末

佐藤 美奈

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結婚後の生活

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王都の冬は骨まで凍みるというけれど、このバーネット子爵家の食堂ほど寒々しい場所を私は知らない。窓の外では、灰色の空から雪が静かに降っている。

「……マリアンナ。味が濃すぎるわ。私を早死にさせる気?」

カチャリ、と銀のスプーンが皿に当たる音が、凍てついた空気を裂くように響いた。食卓の中心の席で豪奢な椅子に深々と腰掛けた義母のベアトリス夫人が、眉間に深い渓谷のような皺を刻んでこちらを睨んでいる。厚化粧のひび割れ具合から察するに、今朝の湿度はかなり低いようだ。

「申し訳ございません、お義母様」

私は表情筋を殺して頭を下げる。目の前のスープは、厨房の使用人が作ったものではない。この家の嫁である私、マリアンナが作ったものだ。というか、作らされている。貴族の嫁が厨房に立つなど前代未聞だが、この家ではそれがしつけらしい。

そして、私の前に食事はない。私はこのテーブルに座ることさえ許されない。家族が食事を終えて片付けが済んだあと、冷えた台所の隅で残り物をつまむことだけが、私に許された食事なのだ。

「熱すぎるわ! 舌が焼けるじゃない。本当に気の利かない娘だこと。これだから田舎育ちは嫌なのよ」

「……」

さっきは冷たいと言い、温め直せば熱いと言う。この人の舌は、嫁の不幸を味わうために特化して進化しているのだろうか。あるいは、年をとって味を感じる細胞が減ることが、性格のゆがみに関係しているのだろうか。生物学的な興味すら湧いてくる。

隣に座る夫のジョナスは、私が空気であるかのように無関心にナイフを動かしている。義父のオリバーは無口で、いつも我関せずといった様子だ。皿の上で切り分けられているのは、仔牛のローストだ。焼き加減はミディアム・レア。私が焼いた。

「母さんの言う通りだよ、マリアンナ。君は男爵家出身だから、礼儀作法がなってないんだ」

「そうよ。田舎者だから、女としての嗜みが欠落しているのね。私が代わりにしてあげているのだから、感謝なさい」

感謝。その言葉の意味を、辞書で引き直して顔面に貼り付けて差し上げたい。

「はい、感謝しております。お義母様のような高潔な方にご指導いただき、身の縮む思いです」

私の言葉に、義母は鼻を鳴らした。皮肉が通じていない。これだから鈍感な生き物は幸せそうだ。

結婚当初はジョナスも私を庇ってくれた。『母さん、そんな言い方はやめてよ』けれど、その優しさは金箔よりも薄く、メッキよりも剥がれやすかったらしい。今では義母の顔色を伺い、一緒になって私を蔑むことで家庭の平和を保っている。典型的な事なかれ主義の臆病者だ。

顔だけは良いのがまた腹立たしい。金髪碧眼、絵本に出てくる王子様のような容姿だが、中身は発酵したパン生地のようにスカスカだ。

「あーあ、食欲が失せたわ。……マリアンナ、これ下げて。そして、私の頭痛に効くものを持ってきなさい」

義母がナプキンを投げ捨てる。二日酔いだ。昨夜、また新しいドレスが欲しいと義父のオリバーにねだり、断られた腹いせにワインを浴びるように飲んでいたのを私は知っている。肝臓の悲鳴が聞こえてきそうだ。

「かしこまりました。すぐに」

私は皿を下げ、厨房へと下がる。重い扉が閉まった瞬間、私は小さく息を吐いた。
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