「愛も信頼も消えた」妻を苦しめた夫一家の結末

佐藤 美奈

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医者を召喚せよ

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事態が動き出したのは、その翌日だった。ベアトリスが、ついに強硬手段に出る決断を下したからだ。

「往診の医者を呼んだわ」

朝、リビングで毛布にくるまっていたカタリーナに、ベアトリスは淡々と告げた。その瞬間、カタリーナの顔から血の気が引いたように、表情が一気に変わった。

「は……? な、何勝手なこと……」

「勝手じゃないわ。あんたが検診に行かないからでしょう。……ここに連れてきたわよ」

ベアトリスの背後から、無愛想な中年の医師が姿を現した。彼は、彼女が大切に隠し持っていた“最後の宝石”を手放してまで雇った。正直、腕前も評判もあまり期待できないヤブ医者である。ベアトリスは不安を押し隠しながらも、彼にすべてを託すしかなかった。

「さあ、診てもらいなさい。本当にお腹に赤ちゃんがいるなら、堂々とすればいいじゃない」

「い、嫌よ! 気分が悪いの! 触らないで!」

カタリーナが逃げようとして振り向いたその瞬間、ベアトリスが彼女の腕を強くつかんだ。まるで獲物をつかむような勢いで、老女とは思えない力だ。指が食い込むほどの握力で、長年の憎しみが彼女にこんな力を出させているのだとわかるほどだった。

「ジョナス! あんたも手伝いなさい! この女の嘘を暴くのよ!」
「で、でも母さん……」
「いいからやりなさい! を見なさい!」

ジョナスはどうしていいのかわからず戸惑いながらも、おずおずと手を伸ばし、カタリーナの反対側の腕を掴んだ。急に両側から押さえつけられたカタリーナは、驚きと恐怖が込み上げたのか思わず大きな悲鳴を上げた。

「放して! やめて! ジョナス、あんた私のこと愛してるんでしょ!?」
「ご、ごめんカタリーナ……でも、一度ちゃんと診てもらった方が……」
「嫌ぁぁぁぁ!!」

暴れるカタリーナ。だが、二人がかりで押さえつけられ、ソファに押し倒された。医師が無慈悲に彼女のドレスの裾をまくり上げ、その膨らんだ腹に手を伸ばす。

「……失礼」

医師の手が腹部に触れた。そして、無造作に『それ』を引き剥がした。

ボロリ、と音を立てて何かが床に落ちた。見れば、それは綿をぎゅうぎゅうに詰め込んだ布袋だった。その布袋の下から現れたのは、張りのあるお腹でもふくらんだ腹でもなく、少し贅肉がついているだけの普通の平らな腹だけだった。

その光景を前にして、場にいる全員の動きが止まった。まるで時間そのものが固まってしまったようだった。医師は状況を悟ったのか深くため息をつき、聴診器を片づけ始めた。

「……想像妊娠ですらありませんな。ただの詰め物です。妊娠の兆候は一切ありません」

「……」

ジョナスは、床に落ちた布袋を見つめていた。それは薄汚れていて、なんだかとても滑稽で哀れな物体だった。これが、彼の『愛の結晶』だと信じ込んでいたものの正体。これが妻を捨て、財産を投げ捨て、築いてきた社会的地位までも失ってまで守ろうとしていたものの正体でもあった。

あの日、マリアンナから写真を渡された時点で本当は気づいていた。それでも、心のどこかで認めたくなくて、ずっと目をそらし続けていたのだ。

「あ……あ……」

ブチッ! ジョナスの中から、何かが突然切れるような音がした。それは長い間耐えていたものが一瞬で崩れ落ちたような、衝撃的な音だった。心の中で積み重なっていた感情や我慢が切れたその瞬間、彼の意識がどこか遠くなったように感じられた。
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