「愛も信頼も消えた」妻を苦しめた夫一家の結末

佐藤 美奈

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破滅へ歩む

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そして、ポケットの中には、使い古された小さなマッチ箱も入っていた。その感触に触れた瞬間、カタリーナの脳裏に、占い師が言った言葉が蘇った。

『運命は、強い者が掴み取るものさ』『嘘も方便……火のない所に煙は立たないが、煙を立てれば火事になる』

記憶は混濁していて、あの占い師が本当にそんなことを言ったのか? カタリーナ自身も定かではなかった。だが、もうどうでもよかった。雪に覆われた道を歩きながら彼女の中で、一つの明確な答えだけが形を成していった。迷いも疑念も、その答えの前では意味を失っていくようだった。

「全部、燃やしちゃえばいいんだ」

この惨めな現実も、裏切ったジョナスも、憎たらしいあのババアも、無口で無愛想なあのジジイも、そして私を拒絶した屋敷さえも。すべてを灰にしてしまえば誰もが平等になる。

熱くて明るくて、どこまでも美しい灰になれば、過去の苦しみも怒りも全て浄化されるのだ。そう考えると、胸の奥でくすぶっていた暗い感情が、少しだけ心地よい温もりに変わるように思えた。

カタリーナの足は意志を持っているかのように、自然と街の雑貨屋へと向かっていた。手元に残ったわずかな小銭で買えるだけのものを揃える。一番強い酒と、少しでも火を灯すための油を手に入れるために、寒さと空腹に震える体を抱えながら彼女は足を進めていった。

「震えろ、あいつら……思い知らせてやる!」

理性は消え、冷たく歪んだ眼差しに残るのは本能だけ。毒に侵され、腐り果てた花のような哀れささえ漂う。

その日の深夜、バーネット子爵邸は静まり返っていた。屋敷の中は暖房もなく、冷え切った空気が部屋に満ちている。ジョナス、ベアトリス、オリバーは、空腹と疲労と絶望に押し潰されるように、泥のように床に倒れ込んで眠っていた。彼らの体は震えていたが、薪を買いに行く気力も火を起こす力も残ってはいなかった。

カツ、カツ、カツ。

屋敷の裏手。かつてマリアンナが洗濯物を干していた中庭へ、ひとつの影がゆっくりと侵入した。現れたのはカタリーナである。彼女の手には油の入った瓶が握られ、もう片方の手には松明たいまつの代わりに使うつもりの乾ききった枯れ木が握られていた。

「……ふふ。寒いでしょう? いま暖めてあげる」

カタリーナは小さく独り言を呟きながら、キッチンへと続く勝手口から屋敷の中へと忍び込んだ。鍵が壊れていることは以前から知っていたため、彼女は迷うことなく扉を押し開けた。中に足を踏み入れると、そこには彼女が憧れて夢にまで見ていた豪華な暮らしの名残だけが、薄暗い空気の中にひっそりと残されていた。

カタリーナは、ためらいもなく油を撒き散らした。まずは廊下へ、次に垂れ下がったカーテンへ、そして最後にリビングの中央に積み上げられた古雑誌の山へと。そこには、ジョナスたちが金に換えるためにまとめていた紙束が無造作に積まれており、油はその隙間へゆっくりと染み込んでいった。

「さようなら、私の王子様」

カタリーナはマッチを擦った。シュボッという乾いた音が闇に跳ね、小さな炎が先端にぱっと咲く。そのだいだい色の光は、彼女の瞳の奥で不気味に揺らめき、理性を失ったような歪んだ笑みを淡く照らし出した。

カタリーナは、炎を油の海へと放り投げた。

ボッ!!

音を立てて炎が一気に燃え上がった。乾ききった屋敷の壁や床は、燃やされるために存在していたかのように次々と火を吸い込んでいく。炎は生き物のようにカーテンを駆け上がり、天井へと伸び上がり、瞬く間にリビング全体を紅蓮の光で満たしていった。すべてが、逃げ場もなく燃え尽きていくようだった。

「あはっ! あはははは! きれい! すごい!」

カタリーナは炎の前で踊っていた。それは正気の境界を踏み越えて狂気じみたダンスだった。立ち上る熱気が、ずっと冷たく凍えていた彼女の身体をゆっくりと包み込んでいく。

「ああ、なんて暖かいの」

炎が肌を撫でるたびに、胸の奥に眠っていた何かが目を覚ましていく。ずっと彼女の内側に潜んでいたのに、彼女自身さえ忘れかけていた衝動だった。
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