「愛も信頼も消えた」妻を苦しめた夫一家の結末

佐藤 美奈

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奥様たちの噂話

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王宮の舞踏会場は、以前と同じように煌びやかな光と、むせ返るような香水の匂いで満ちていた。だが、私たちが足を踏み入れた瞬間、時間が止まったかのように空気が一変した。

「……あれは、オルロック辺境伯?」
「隣にいるのは誰だ? まさか、あのバーネット家の元夫人か?」
「嘘でしょう? あんなに美しかったかしら……」

ざわめきが波紋のように広がり、その波は瞬く間に舞踏会場を満たしていった。誰もがアレクセイの圧倒的な存在感と、その横に並ぶ私の動きを察し、目をそらすことなく私たちに注目しているのが感じ取れた。

貴族たちは、どんなに努力しても驚きと興奮を隠しきれず、表情から滲み出る緊張感を必死に抑えようとしていたが無駄だった。それはまさに、私たちが舞踏会を支配する瞬間の始まりを告げているかのようだった。

これまで、私を無視して陰口を叩いていた夫人たちが、今や扇子で口元を隠しながらヒソヒソと話している。

「聞いた? 彼女、あの火事をしたんですって」
「なんでも、辺境伯の毒殺未遂も見抜いたとか」
「どんな病気でも治せる薬を作れるとか?」
「私は死人を蘇らせたって聞きましたわ」
『恐ろしいわね……じゃないの?」

夫人たちの表情は、自信満々な笑顔を引っ込め、どうして良いか分からないかのような動揺を隠しきれない様子だ。話している内容は、きっと私を揶揄やゆしていた過去のことを、今やどれだけ上手に誤魔化せるかということだろう。そんな彼女たちの焦りを目の前にして、私はただ微笑むだけで心の中で勝ち誇った気分になった。

「魔女で結構。舐められるよりは、恐れられる方が動きやすいです」
「……ふん、有象無象が。道を開けろ」

アレクセイが冷徹な視線を一巡させると、モーゼが海を分けたように人々が自動的に道を開けた。私たちはその間を、支配者のように悠然と進んでいく。

その時、突然一人の紳士が近づいてきた。体格の良い脂ぎった笑顔を浮かべた男。どう見ても健康とは言い難い彼は、赤蛇(レッド・スネーク)商会のゴルドンだった。そして一瞬、鼻をつく特有の匂いが広がった。

「やあやあ、これは辺境伯閣下。そしてマリアンナ様。……奇遇ですなぁ」

ゴルドンは、礼儀正しくしなければならないとでも思っているかのように頭を下げた。しかし、その目はまったく笑っていなかった。救護院でのことで、私を明確な敵だと認識しているに違いない。この男の臭さだけは唯一無二だと言えるだろう。

「貴様か……先ほどぶりだな。商会の景気はどうだ? 貴様の商会は、様々な不審火のあった土地を買い漁っていると聞いたが」

アレクセイが先制パンチを放つ。

「い、いやだなぁ閣下。人聞きが悪い……我々はあくまで、『困っている方々を救済』しているだけですよ」

ゴルドンは、額の汗を拭きながら私の方を見た。

「マリアンナ様、何度も申し上げますが、欲張り過ぎるのは得策ではありませんよ。バーネット家の土地、あれはただの土地ではありませんから。『曰く付き』の土地です。素人が手を出すと、を見るかもしれませんよ。火傷どころじゃ済まないかもしれませんね」

また脅してきた。それよりも、お前の臭さの方が耐えられんわ。腐った魚を抱えているような匂いが、こっちまで伝わってきて集中力が奪われる。脅しよりも、鼻をつまんでしまいそうなこの状況の方がよほど辛い。

「ご忠告感謝しますわ。……ですが、私は火傷の治療には自信がありますの。それに、私の周りには『氷の壁』がありますから、炎など届きませんわ」

私はアレクセイの腕に身を寄せ、あえて艶やかな微笑みを浮かべた。その瞬間、ゴルドンの顔が引きつり、予想外の攻撃を受けたかのように目が泳いだ。

「……くっ、強気なことだ。後悔なさらぬよう」

ゴルドンが捨て台詞を吐いて去ろうとした。それにしても、この臭さでよく入れたな。ドレスコードならぬ臭さコードも徹底してほしい。この男は、特別に臭気を放つ特技でも持ってるのかしら?

「あら、マリアンナ様ではありませんか!」

鈴のように清らかな可愛らしい声が会場に響き渡った。人垣を割って現れたのは、金髪の美しい令嬢だった。彼女の登場に、周囲の貴族たちが一斉に頭を下げた。
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