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第7話
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エミリーは、さも驚いたというように両手で口を覆い、感激の表情でブラッドを見つめている。茶番だ、と私の心の中の何かが冷たく呟いた。
次に、ブラッドはクロエの方へ向き直った。その表情は、先ほどまでの慈愛に満ちたものとは明らかに違う。どこか、その行動には無感情な義務感が漂っていた。
まるで何かの手続きをこなすかのように、必要なことをただ機械的に進めていく。それが決まり事のように、心の温もりを感じさせる余地もなく、ただ淡々とこなされていく様子が、私の胸にひっかかるものを残した。それが私たちの関係のすべてを象徴しているかのようだった。
「クロエ、お前にもだ」
手渡されたのは、薄い紙に包まれたささやかな贈り物。クロエが包みを開けると、中から現れたのは、ごくありふれた布製の人形だった。もちろん、丁寧に作られてはいる。けれど、先ほどの宝石細工のオルゴールとは、比べるまでもない。露骨なまでの格差。
大広間が、一瞬、しんと静まり返った。貴族たちの視線がクロエに注がれ、その中には哀れみと興味、そして薄ら笑いが浮かんでいた。
クロエは、手の中の安っぽい人形と、豪華できらびやかなオルゴールを抱きしめるアリスを、戸惑ったように交互に見つめた。その瞳が、心の中の不安を隠せずに震えるように揺れていた。やがて、彼女の愛らしい顔が悲しみで歪み、大きな瞳からぽろりと涙がこぼれ落ちた。
涙がこぼれると同時に、私の心の中で抑え込んでいた全ての怒りが一気に解放された。私の胸は激しく震え、体中を熱が走るのを感じた。その激流に流されるように、ブラッドの腕を掴み、彼を引きずるようにバルコニーへと導いた。まるで何かに引き寄せられるように私の身体は動き続け、怒りが言葉にならないほど膨れ上がっていた。
「セリーヌ! 何を……!」
「お静かになさいませ!」
バルコニーに出た途端、冷たい夜風が私を包み込んだ。その冷気が私の怒りをさらに引き立てるように感じられ、私は自然と彼の腕を引き払った。怒りで震える声が、冷たい風を切って響き渡る。
全てを問いただすために、私はもう一歩も引くつもりはなかった。私の気持ちが言葉となり、空気を震わせながら彼を責め立てていく。
「どういうおつもりですの。我が娘を、こんな大勢の前で侮辱的な仕打ちをし、傷つけるつもりですか」
私の怒りに満ちた声がブラッドを一瞬固まらせたように感じたが、すぐにその目は冷たくなり冷笑を浮かべた。その笑顔には、どこか挑発的な響きがあり、私の剣幕を軽くあしらうかのようだ。
「侮辱? 人聞きの悪いことを言うな。クロエにも、ちゃんとプレゼントを渡しただろう」
まるで私の怒りを見透かすように、次に言うべき言葉をすでに準備していたかのように、彼の反応には驚くべき余裕が感じられた。私はその姿勢に、さらに胸の奥が震える思いがした。
「あれが!? あれが、王太子が実の娘に贈るものだと、本気で仰るの!?」
私たちの娘にはあんな安物のプレゼントを? 本当に理解できないわ!」
「一体どういうつもりなの!? アリスには高級な品を渡しておいて、私たちの娘にはあんな安物のプレゼントを? 本当に理解できないわ!」
「アリスには、父親がいないんだ。少しでも寂しい思いをさせたくなかった。それに比べて、クロエは幸せだろう? 父親も母親もいて、何不自由ない暮らしをしている。人形一つで、何をそんなに大騒ぎする必要がある?」
その言葉を聞いた瞬間、私の頭から、すうっと血の気が引いていくのを感じた。ああ、そうか。この人は、もう駄目だ。何もわかっていない。いや、わかろうともしないのだ。娘の心が、妻のプライドが、どれほど深く傷つけられたのか想像することすら放棄している。
次に、ブラッドはクロエの方へ向き直った。その表情は、先ほどまでの慈愛に満ちたものとは明らかに違う。どこか、その行動には無感情な義務感が漂っていた。
まるで何かの手続きをこなすかのように、必要なことをただ機械的に進めていく。それが決まり事のように、心の温もりを感じさせる余地もなく、ただ淡々とこなされていく様子が、私の胸にひっかかるものを残した。それが私たちの関係のすべてを象徴しているかのようだった。
「クロエ、お前にもだ」
手渡されたのは、薄い紙に包まれたささやかな贈り物。クロエが包みを開けると、中から現れたのは、ごくありふれた布製の人形だった。もちろん、丁寧に作られてはいる。けれど、先ほどの宝石細工のオルゴールとは、比べるまでもない。露骨なまでの格差。
大広間が、一瞬、しんと静まり返った。貴族たちの視線がクロエに注がれ、その中には哀れみと興味、そして薄ら笑いが浮かんでいた。
クロエは、手の中の安っぽい人形と、豪華できらびやかなオルゴールを抱きしめるアリスを、戸惑ったように交互に見つめた。その瞳が、心の中の不安を隠せずに震えるように揺れていた。やがて、彼女の愛らしい顔が悲しみで歪み、大きな瞳からぽろりと涙がこぼれ落ちた。
涙がこぼれると同時に、私の心の中で抑え込んでいた全ての怒りが一気に解放された。私の胸は激しく震え、体中を熱が走るのを感じた。その激流に流されるように、ブラッドの腕を掴み、彼を引きずるようにバルコニーへと導いた。まるで何かに引き寄せられるように私の身体は動き続け、怒りが言葉にならないほど膨れ上がっていた。
「セリーヌ! 何を……!」
「お静かになさいませ!」
バルコニーに出た途端、冷たい夜風が私を包み込んだ。その冷気が私の怒りをさらに引き立てるように感じられ、私は自然と彼の腕を引き払った。怒りで震える声が、冷たい風を切って響き渡る。
全てを問いただすために、私はもう一歩も引くつもりはなかった。私の気持ちが言葉となり、空気を震わせながら彼を責め立てていく。
「どういうおつもりですの。我が娘を、こんな大勢の前で侮辱的な仕打ちをし、傷つけるつもりですか」
私の怒りに満ちた声がブラッドを一瞬固まらせたように感じたが、すぐにその目は冷たくなり冷笑を浮かべた。その笑顔には、どこか挑発的な響きがあり、私の剣幕を軽くあしらうかのようだ。
「侮辱? 人聞きの悪いことを言うな。クロエにも、ちゃんとプレゼントを渡しただろう」
まるで私の怒りを見透かすように、次に言うべき言葉をすでに準備していたかのように、彼の反応には驚くべき余裕が感じられた。私はその姿勢に、さらに胸の奥が震える思いがした。
「あれが!? あれが、王太子が実の娘に贈るものだと、本気で仰るの!?」
私たちの娘にはあんな安物のプレゼントを? 本当に理解できないわ!」
「一体どういうつもりなの!? アリスには高級な品を渡しておいて、私たちの娘にはあんな安物のプレゼントを? 本当に理解できないわ!」
「アリスには、父親がいないんだ。少しでも寂しい思いをさせたくなかった。それに比べて、クロエは幸せだろう? 父親も母親もいて、何不自由ない暮らしをしている。人形一つで、何をそんなに大騒ぎする必要がある?」
その言葉を聞いた瞬間、私の頭から、すうっと血の気が引いていくのを感じた。ああ、そうか。この人は、もう駄目だ。何もわかっていない。いや、わかろうともしないのだ。娘の心が、妻のプライドが、どれほど深く傷つけられたのか想像することすら放棄している。
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