彼女よりも幼馴染を溺愛して優先の彼と結婚するか悩む

第35話

その姿勢は、全てを捧げるかのように、深く頭を垂れて誠実そのものの眼差しで私を見つめていた。その眼差しに込められた思いは、今まで見たことがないほど強くてひたむきだった。彼がこんなにも真面目に、心からの言葉を並べるのを私は初めて目にした。

「俺は、本当にどうしようもない最低な男だ。何度もニーナを裏切り、傷つけてきた。そして『紅葉の祭』での誓いも、俺の優柔不断さが原因でキャンディを甘やかした。ニーナへの罪悪感は、日に日に大きくなるばかりだ。君という光と、キャンディという影、どちらにも愛を誓うなんて、俺は本当に救いようのないクズ野郎だ」

アンドレは、初めて全てを認めた。昨日のように、キャンディのせいにすることも、言い訳をすることも自己弁護をすることもなく、ただ自分の弱さと愚かさをそのまま差し出していた。

その姿に、私の心の奥深くで、長い間凍りついていた何かが少しずつ溶け出す気配を感じた。それはまるで、冷たい氷が少しずつ解けるような変化だった。

「でも、もう決めたんだ」

アンドレは、深く息を吐きながら言った。彼の声は、どこか切なさを孕はらんでいて、私の心に直接響いてくる。

「あの誓いの儀で、君が、魂が抜けたように傷ついた顔をしていたのを見て、ようやく目が覚めたんだ。本当に失いたくないのは、キャンディでもなく君なんだ。君だけなんだ。もう迷わない。だから、これが本当に、本当に、本当に、最後のチャンスだと思って、お願いだ、俺を許してくれないか？」

彼はその後、しっかりと私を見つめて言葉を続けた。

「幼馴染だからって、キャンディを甘やかしていたのはもう終わりだ。これからは、厳しく接するつもりだ。キャンディが俺に甘えてきても、絶対に冷たく接する。だから、お願いだ、君を傷つけた俺を許してくれ」

彼の言葉は、どんな甘い言葉よりも心の深層に突き刺さり、私の心を歪めるほどに強く刻まれた。それは切実で、心からの誠実さが込められていた。

こいつはダメな男。そんなこと、もう十分に分かっている。何度も裏切られてきたことを、私はしっかりと理解している。次もきっと裏切られるかもしれない。それもよく分かっている。それでも、彼の全身全霊で頑張っている姿を見てしまうと、どうしても心が揺れる。

その瞳の奥にある全てをかけて必死に戦っているかのような無我夢中さが、私の冷めた心を乱す。この不器用な愛の告白を聞いてしまうと、もうどうしても心が動かされてしまう。ああ、私は何て愚かなのだろう。いくら痛い思いをしても、学習能力がまるでないのだろうか。

（彼は【ポジティブ】なんだ！）

私は、このクズな男に惹かれて、心の中で自分を許してしまうかもしれないと、無意識のうちに考えていた。何度も裏切られ、傷つけられても、彼の存在がどこかで私を引き寄せている。しかし、その思考が無限に回り続ける中、突然、稲妻のようにひらめく思いが私の胸に閃いた。

彼は、ポジティブな男なのだ。その瞬間、私は全てを理解した。彼がどれだけ不器用で、時に愚かで自己中心的に見えたとしても、その底知れぬ魅力は、彼の持つ独特のエネルギーにこそあったのだ。

彼は、プラス思考の塊だ。何があっても前向きに捉え、どんな状況でもその中に可能性を見出して行動を起こす。その姿勢こそが、どんな言葉よりも私の心を動かし、引き寄せる力を持っているのだ。

（そうか、どれほど欠点が多い男でも、前向きな明るい心を持ったポジティブな人間には自然と引き寄せられて、不思議な魅力を感じてしまうのね）

馬鹿だけど、全力で頑張ろうとする男。彼は、どこか不器用で、時には恥ずかしさを感じさせる。それでも、そんな姿勢に私は惹かれていく。彼の中には、迷いも怯えも無力感もない。ただ、前へ進むための力強いエネルギーだけが満ちているのだ。

一方で、いつも二の足を踏んでうじうじしている男。ネガティブで、何も決断できずに自分に自信が持てず、何かを始めようと思っても、その一歩を踏み出せずにいる。

結局、私は思うのだ。ポジティブな人間が一番大事だと。自分を信じて前を向いて、迷いながらも歩みを進めるその姿勢こそが、最も人間らしく魅力的なのだと。どれだけ無謀に見えても、挑戦しようとする意志の強さに心が動かされる。ポジティブなエネルギーこそ、すべてを変える力を持っているのだと私は確信している。